#コロナ短編
前作から約2年、ようやく発売された有川ひろの新作は、なんとコンセ
プト短編集。読者・関係者から物語の「種」となる投稿を募り、ソレを
元に短編を一つ書く、という形式。ボリュームはそこそこ、全10篇。
僕が最初に有川浩に触れたのはやはり短編集の『阪急電車』。あの時は
ベタ甘な恋愛小説がここまで心に刺さるのか、という新鮮な衝撃を受け
たのだが・・・。
何篇か引っかかる話はあった。
全ての篇で共通しているのが“コロナ禍”であり、コレを生かした物語と
してはかなり秀逸、だとは思う。さらに幾つかでフィーチャーされてお
り、なんとなく今作のテーマにもなっていしまっているちょっと苦手な
『宝塚』に関しても、特に嫌悪感は無い。しかし、阪急電車の時に感じ
た凄まじい熱量があったのかと言うと・・・。
・・・でも!
中盤の一篇「ゴールデンパイナップル」だけで、僕の中の“有川ひろ”と
いう特別な作家のスタンスはしっかり保たれたのだから凄い。あまりに
響いたので、下記に一部引用。
・・・修学旅行や学校行事の機会も同じだ。仮につまらなかったとしても、
つまらなかったと言えるのはそれを経験したから言えることだ。小説や
漫画、映画やドラマ、エンタメ作品の中で当たり前の様にアイコンとし
て登場するそれらの行事を「知らない」世代が既にいるのだ。そして、
その損失は永遠に取り返しがつかない・・・
この部分を読んだだけで、本当に胸が詰まった。
コロナ禍をここまで端的に表現して魅せた作家は他にちょっと覚えが無
い上に、実際に起こったいろいろなことがフラッシュバックしてしまう。
展開に派手さの無い短編集、と思っていたけど、しっかり心を抉ってく
れた有川ひろに、心から感謝したい。
さてそうなると、次は『長編』でしょ?
2年は待ちたくないぞ、今度は(^^;)。