恋塚

#妖艶純文学


恋塚 / 花房観音(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おそらく「フェイタル」を読んだ所為でKindle Unlimitedリコメンドに登場し
たモノ。花房観音作品は花びらめくり以来、実に8年ぶり

全6篇からなる短編集
相変わらず気合の入った官能小説で、さすがは団鬼六賞大賞受賞作家
この手のジャンルはそれほど大量に読んでいるワケでは無いのだが、作品によっ
クオリティ天地の差がある。花房女史の作品はエロ描写が妙に艶めかしく
“官能”という部分だけ切り取っても太鼓判が押せるのだが、作品内でのエロ比率
はそれほど高いワケでも無い。各篇冒頭のトーンは純文学的で、そこから徐々に
エロを高め、最終的に切なめなエンディングに落とす、という手法は、ちょっと
した職人芸。官能小説なのに、読後感は一般作の長編を読んだ時に感じるモノに
近い気がする。

印象に残ったのは、タイトルロール「恋塚」
偶然再会した幼なじみと関係を持ってしまい、最終的に殺人まで犯してしまう男
の話なのだが、この展開があまりにゾッとするモノ。ハッキリ言えばオチは読め
るのだが、そこに至るまでのプロセス描写が凄まじく、解りきった結果にすら呆
然としてしまったほど。

花房観音、実に恐ろしい作家
この手のジャンルにアレルギーが無ければ、ぜひご一読を。おもしろいので!

イロモノの野望

#リアルな天才


イロモノの野望 / 男色ディーノ(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DDTのアイコン”こと、男色ディーノの著作。
ディーノは3日後、DDT後楽園ホール大会にて新日本プロレス棚橋弘至との
シングルマッチに臨む。カード発表と同時にチケットがソールドアウトになった、
という、ある意味で「夢の対決」の前に、どうしても読んでおきたかった作品。

いわゆる「プロレス頭」良さに於いて、ディーノは国内プロレスラーの中でも
1・2を争う天才。そもそもディーノがDDTに上がるきっかけになった試合とい
うのが、インディ団体で行われた『透明人間』との一騎打ち。この試合の完成度
に唸った高木三四郎がほぼ三顧の礼でDDTに迎え入れた、というまるで都市伝説
の様な事実。この作品のサブタイトルが『透明人間と戦ってわかった自分の商品
価値の上げ方』なのは、その“奇跡”に由来しているハズ。

“ゲイ”という取り扱い注意なキャラクターを20年に渡って演じ続け、そのキャラ
のまま“ここぞ!”という場面では絶対的なエースとしてファンの期待を一身に背
負って魅せる。ゲイキャラのままファンから絶対的な信頼を得ている、というの
は、考えてみればかなり凄いこと。そんな芸当はディーノ以外の誰にも出来ない、
と心から思う。

そしてディーノは、プロレスに於ける「物語」の作り方が圧倒的に上手い。
リング上で行われるのは”通常のディーノの試合”だが、試合に至るまでに自ら
の思想や過去の因縁などを解りやすくファンに伝え、期待を煽りまくる。プロ
レスの魅力が『プロセス』であることを誰よりも解っており、我々はディーノ
の掌から動くことが出来ない。こういうのを、普通に「天才」と呼ぶ。

そんな天才、男色ディーノは、文章でもやっぱり天才だった。
元々ゲーム系のフリーライターとして活動しており、その文章力には定評があ
ったのだが、1テーマで一冊を仕上げられると、その説得力圧倒的。ディー
ノ本人はこの作品を『ビジネス書』としているのだが、そこに偽りは全く無い
自らの経験を事例とし、他分野でソレを生かせる方法が懇切丁寧に記載されて
いるのだから、正直舌を巻いた

僕は男色ディーノというプロレスラーを心から尊敬している。そして、それと
同じレベルで棚橋弘至というプロレスラーにも絶大な信用を置いている。その
2人が、遂にシングルで・・・。いやぁ、楽しみでしかない、本当に。

Gスピリッツ選集 第二巻 初代タイガーマスク篇

#「初代」というブランド


Gスピリッツ選集 第二巻 初代タイガーマスク篇 / Gスピリッツ編(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Gスピリッツ選集第二巻は、予想に反して伝家の宝刀『初代タイガーマスク』
前回の反省を踏まえ、今回は書籍版ではなくKindle版を選択。Gスピリッツ関連書籍
は主に電車内積読する機会が多いので、この選択は正解かと。

さすがに初代タイガーマスクは昭和プロレス最高の“語れる素材”
この作品はGスピリッツ本誌での記事をほぼ時系列再編集したモノだが、やっぱり
書き手の方の情熱がビシバシ伝わってくる。考えてみれば、本誌でタイガーマスクの
特集はこれまで何度組まれたか解らない。厳選されているとはいえ、一冊にまとまる
とその文章量膨大で、やたら読み応えのある書籍に仕上がっている。

プロレス界で永遠に語られるべき存在として、力道山・アントニオ猪木・ジャイアン
ト馬場3名が挙げられるが、その3名を下手すれば凌駕してしまう存在があるとす
れば、初代タイガーマスク・佐山サトルしかあり得ない。初代タイガーマスクが新日
本プロレスで活躍したのはたった2年しか無いが、それだけで力道山・猪木・馬場の
3名を超えてしまう。まぁ、プロレス界には今も面々と続く立体殺法を残し、格闘技
には自らが礎を築いたのだから、それも充分に納得できる。

このダイジェストでおもしろかったのは、新日本時代付き人であり、最初のタイガ
ージムインストラクターを務め、旧UWFで共に復活したヤマちゃんこと、山崎一夫
との対談。この二人の間にいろいろあったことはなんとなく知っているだけに、現在
垣間見える“仲の良さ”が、妙に嬉しかった

いやぁ、このシリーズはマジでおもしろい。
一巻の時にも書いた日本プロレス昭和全日本、後はミル・マスカラス、ないしは
ドクトル・ルチャ連載を一冊にまとめてくれるといいのだけど。

フェイタル

#委ねる系


フェイタル / 横森理香(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Kindle Unlimitedリコメンドに登場した作品。
キャッチコピーの内容から、そこそこ気合いの入った官能系を期待していた。
横森理香なる作家はもちろん初めて。特に下調べもせず、先入観の無い状態で読ん
でんでみたのだが・・・。

全6篇からなる短編集
連作では無いが、全てに共通するのが“ワケアリの女性”主人公だ、ということ。
恋愛依存症夫婦逆転整形マニアなど、まぁクセの強い女性たちが登場し、そ
れぞれの独特な事情物語となる。それなりに興味深い事象もあるにはあったの
だが、この作品、致命的とも言える弱点が・・・。

僕が非常に苦手「オチを読者に委ねる」系なんだよ、コレ(^^;)。
そういうのが好きな人ももちろん居ると思うのだが、僕の場合一篇を読み終える
度に「ああ??」とか思ってしまう。文章のテンポはかなり良く、それなりの
クニシャンであるだけに、この中途半端さは非常に残念だった。

読後に調べてみると、どちらかと言えばエッセイに強い人らしい。
女性に寄り添った文章を書くことに定評があり、渋谷でコミュニティサロンを展
開、しかも“ベリーダンス健康法”講師だとか。いやまぁ、そういう人なら僕に
は合わないよなぁ、やっぱり(^^;)。さすがに他の作品を読むことは・・・無いだろ
うなぁ、きっと(^^;)。

戦争とプロレス

#Japanese Buzzsaw


戦争とプロレス / TAJIRI(Kindle版)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワールドフェイマスプロレスラーにして、“文豪”でもあるTAJIRIの著作。
サブタイトルは『プロレス深夜特急「それぞれの闘いの場所で」・篇』となって
いることからも解る通り、プロレス深夜特急シリーズ第二作である。

僕が前作の『プロレス深夜特急』を読んだのはホンの2ヶ月前だから、凄く良い
タイミングで続編を読めたことになる。前作同様、プロレスラー・TAJIRIが世界
を巡った“記録(ログ)”なのだが、前作と状況が違うのは、このログが残された
時期がコロナ禍、そしてウクライナとロシアの間で戦争が勃発した段階である、
ということ。おかげで軽妙な文体なのに妙に深い、という、これまで読んだこと
の無いタイプのエッセイに。

正直、コレはプロレス本の範疇に納まらない極上のエッセイ
いや、もしかしたらこれを自己啓発本と捉える人も多数出てくるのではないか?
という予測さえ生まれる。

そして、現在九州プロレスに定着しているTAJIRIを考えると、その生き方全く
ブレが無いことも理解出来る。プロレスラーとしてはもちろんだけど、人間とし
ても凄いんだよなぁ、この人・・・。

本当に、プロレスファン以外の人に是非読んで欲しい。この才能万人が知るべ
きすばらしいモノだと思うので。