蟻の菜園

▼蟻の菜園 -アントガーデン- / 柚月裕子

柚月裕子作品、今のところ最後の読み残し
なんだかんだでかなり幅広いジャンルを網羅する作家だが、こちらは以前
レビューした「ウツボカズラの甘い息」と同じく、ワケありの女性(たち)
を主役に据えた、かなりハードミステリー

いわゆる「婚活サイトを利用した結婚詐欺」が事の発端であり、それが
続不審死事件へと繋がって行くのだが、ありがちなよくある犯罪で終わら
ない、トラウマ恩讐が吹き荒れる世界を見事に構築。ミステリーとして
捻りも充分に効いており、終盤には思わず唸ってしまったほど。

この作品では女史独特のテクニックである「文体の男らしさ」がほぼ確立
されており、前途洋々さが迸っている。以降の骨太な作品群に繋がってい
く、ターニングポイントの作品と言えるかも。柚月裕子初期作品としては、
傑作と言って過言が無い気がする。

残念なのは電子書籍化がなされていないこと。そして現在文庫は再刷され
ていないらしく、現状は古本で手に入れるしか無いのがちょっと・・・。
そういう時に電子書籍って便利だと思うんだけどなぁ・・・。

国宝級マスク研究

▼G SPIRITS MASK COLLECTION 国宝級マスク研究 / ドクトル・ルチャ(監修)

愛読しているプロレス研究誌「G SPIRITS」増刊的なMOOK
監修ドクトル・ルチャこと清水勉氏で、ルチャマスクにやたら造詣が
深いことで有名。今回は“覆面レスラー”ではなく、“覆面”、つまりマスク
そのものにスポットを当てて一冊作ってしまったのだから凄い。

ミル・マスカラスの初公開マスク特集や、初代タイガーマスクの歴代マス
ク50枚を集めたページは質・物量共にすばらしいのだが、注目すべきは
後半の伝説ルチャドールたちのマスクコレクション。個人的にはカネック
ソリタリオのページが興味深く、何度も読み返してしまった。

G SPIRITS本誌のルチャ記事も毎回愛読しているのだが、まさかマスクだ
けで一冊作ってくれるとは・・・。僕は非常に嬉しいのだが、コレを大歓迎
するのはコテコテの昭和プロレスファンの中でも更にマニアだけかと。
・・・売れるといいなぁ、マジで。そしたら第二弾が期待できるので。

鍵のことなら、何でもお任せ

▼鍵のことなら、何でもお任せ / 黒野伸一(Kindle版)

こないだの仕事中、あまりにヒマな時間に耐えられずに思わず現場購入
した黒野伸一作品。以前から気になっていた作品なのだが、これまで何
故かタイミングが合わず。良い機会だったかも。

高校でイジメにあい、引き籠もりとなった青年が仕方無く選んだ職業
家業「鍵屋」。この仕事が何故か性に合い、流されながらも鍵屋とし
て生きて行くことになる青年。しかし父親が亡くなり、そのまま家業を
継いだところ、自家にはかなりの借金があることが発覚。さらに街には
大手の同業他社が進出し、経営が苦しくなったところで降りかかるトラ
ブル。さて青年は・・・という内容。

鍵屋を扱った作品としては、貴志祐介「鍵のかかった部屋」が有名だが、
こちらは全く違うアプローチ。貴志作品が複雑なロジックのミステリー
であったのに対し、こちらはミステリーの要素こそあるものの、どちら
かと言えばヒューマンドラマに偏った内容。オタクで引き籠もりだった
青年が事業をどう回して行くのか?というのが最大のテーマ。

そして、ある意味謎の職業である「市井の鍵屋」というのが、どういう
商売なのかがかなりしっかり解説されているのがポイント。読んでいる
うちに鍵屋という職業にかなり興味が出てきちゃったのだから、かなり
すばらしいスモールビジネス小説でもあると思う。

達観した若年寄りが、自分の「熱さ」に気付いていく行程は非常にすば
らしい。このへんは黒野伸一作品に共通する要素なのだが、ちょっと変
わった仕事の世界でソレを見せてくれるのは嬉しい。続編が出たら買っ
ちゃうな、きっと。

・・・というか、黒野先生大丈夫なのかなぁ(^^;)。ちょっと心配なんで
すけど(^^;)。

臨床心理(下)

▼臨床心理(下) / 柚月裕子

柚月裕子のデビュー作の下巻
上巻のレビューで書いた通り、前段を越えたところから怒濤の展開となる。
「悪い予感しかしない」と書いたのだが、それはもう大当たりだった(^^;)。

とにかく犯罪の内容が酷すぎる(^^;)。
徹底したイヤミスが大好物な僕だが、生理的に受け付けない・・・というか、
どうしても触れないで済ませたい世界、というのが一応ある。

内容について詳細を書くことは避けるが、雰囲気的には1988年野島伸司
脚本の大問題になったテレビドラマ「聖者の行進」に近い。あそこまで極端
では無いし、ただいたずらに読者を煽るような表現が出てくるワケでも無い
が、それでも途中で読むのが辛くなった(^^;)。こういうのはなぁ・・・。

そして最近の著作と比較すると、やはり全ての面で迫力不足かもしれない。
つまり、柚月裕子が作家として順調に進化している証拠でもあると思う。

だから、ある程度今の柚月裕子を読み込み、そのルーツを知りたくなった
人は押さえておいて損は無い。出来れば上下巻合本電子書籍にしてくれる
ともう少し気楽に手が出せるんだけどなぁ・・・。

臨床心理(上)

▼臨床心理(上) / 柚月裕子

柚月裕子デビュー作
まもなく著作全読破を達成しそうな勢いなのだが、このデビュー作とあと
1作品のみ電子書籍化されていない出版社はやっぱり宝島(^^;)。イメー
ジ的にはいちばん電子に理解あありそうな出版社なのに、何故こうも頑な
に電子書籍化しないのか、ちょっと不思議。

まぁそういうのはともかくとして、こちらは第7回「このミステリーが凄い」
受賞作品にして、柚月裕子の最初の作品、言わば原点。誰よりも男前な女流
作家のルーツはどんなものか?と言う興味から読み始めたのだが・・・。

まず、「臨床心理士」というある種謎の職業に着目したところに感心。
そういう職業が存在することはなんとなく知っていたのだが、それが具体的
にどういう業務を行うのかが解っただけで大きな収穫。そしてデビュー作か
ら他の作家がなかなか踏み込もうとしない領域に手を付けるあたりは彼女の
真骨頂。さすが、である。

ただ、後の「孤狼の血」「盤上の向日葵」の読後に感じた「妙な清涼感」
は今のところ特に感じない。描かれている世界は一貫して超不条理、という
ことを考えると、以降で格段に筆力が向上したのではないか、と思われる。
そういう意味で、アーリー柚月裕子を体験しておくのは、今後出る新作の為
にも良かったんじゃないか、と。

取り敢えず上巻を読み終わったのだが、この段階は本当に前段
雰囲気から考えると、もう嫌な予感(^^;)しかしないのだが、もう覚悟して
下巻に臨むしかない。そもそも、この束で上下巻にする必要無いと思うんだ
けどなぁ、マジで(^^;)。