セイレーンの懺悔

▼セイレーンの懺悔 / 中山七里(Kindle版)

連続で中山七里作品。この作家、1作読むと続けて他の作品を読みたくなっちゃ
から本当に不思議。

この作品もある殺人事件を軸に進むのだが、描かれるのは警察でも犯人でもその
周辺の人物でもなく、なんとメディア。それも、ワイドショー的な番組を擁する
テレビ局女性レポーター制作スタッフが主役を張る、ちょっと変わった設定
のミステリー。

正直言えば、他の中山七里作品に比較するとミステリーとしてのレベルは決して
高くない。お得意の「どんでん返し」まで含め、中盤の段階で最後がどうなるか
見えていた。しかし、昨今の行き過ぎた取材姿勢が取りざたされがちな「報道」
という概念について、深く考えさせられる意欲作であると思う。

主人公がモラル視聴率の間で揺れる描写は切なくも凄まじい。確かに「いけな
いこと」と解っていても、我々は人の不幸が大好きだし、誰かの致命的な失敗
楽しくてしょうがない。だから、世論に追われてニュース的な切り口の番組に変
貌したかつてのワイドショーが、本当は恋しくてたまらない。しかし、自分の口
から出るのは、ワイドショーを揶揄する言葉のみ。擁護する言葉は絶対に出ない。

本当は多くの人が求めている「必要悪」を、罵倒されながらも作り続けなければ
ならない職業がある。そういう多くの人たちが、実は持っているであろう「信念」
を、作者は代弁したかったのではないだろうか。いや、もしかしたら「そうあっ
て欲しい」という願望かもしれないけど。

問題作。でも、しっかり読まずにはいられない作品であることも間違いない。
ある程度、覚悟して読むべき

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