久しぶりに垣谷美雨作品。
末期癌患者を担当する女医の早坂ルミ子・33歳独身。周囲の評判は「患者
の気持ちがわからない女医」。空気が読めず、さらに言葉の追い込みが足り
ていないため、まもなく人生を終える患者にとんでもない一言を放ってしま
う、という致命的なクセに悩んでいる。ところがある日、ルミ子は病院の中
庭で不思議な聴診器を拾う。その聴診器を使うと、何故か患者の心の“後悔”
が聞こえてきて・・・という内容。
芸能界デビュー出来なかったことを後悔する大女優の娘や、結婚に反対した
ため行かず後家となった娘を持つ母、中学生の頃の罪を友人一人に押しつけ
てしまった男など、そりゃあ人生に「悔い」あるよなぁ、という末期癌患者
が多々登場。ルミ子の聴診器の機能で人生のやり直しを試みるものの、違う
道も決して平坦ではない、ということを皆一様に思い知る、という、かなり
骨太なファンタジー。いやぁ、好きだな、こういうの。
物語の特性上、登場人物は次々に死んで行くし、ドロドロな人間関係も随所
で垣間見える。しかし、読後感は驚くほどさわやかで、「隣の芝生は青い」
とか、「後悔先に立たず」などの諺が妙にしっくり来る。垣谷美雨はこれま
で何作か読んでいるのだけど、満足度はこれまででいちばん高い。
全体的な完成度はすばらしく、読み応えは充分なのだけど、「もうすぐ死ぬ
自分に対して金の話しかしない妻を持つ男」のエピソードだけはちょっと心
が痛くなった(^^;)。あの状況のまま死んだら怨念しか残らねぇな、きっと。
ということで、この作品だけは、登場人物を自分に置き換えるのは止めとい
た方がいいかも。ストレスで病気になっちゃうかもしれないので。