辻村深月作品で、2018年本屋大賞受賞作品。
今や本好きには直木賞以上に価値がある、とされる本屋大賞に於いて、二次
投票の結果が2位にダブルスコア以上の大差。ならばまず読まねば!というこ
とで、電子書籍版を購入してみた。
共通の問題を持つ7人の中学生。ある日、彼ら・彼女らの部屋の鏡が輝き始め、
そこに手をかざした途端、鏡の中に吸い込まれていく。くぐり抜けてみるとそ
こは城の中で、オオカミの面を被った少女・・・オオカミ様・・・が待っていた。
オオカミ様は彼らにある課題を出す。滞在時間は毎日9時〜17時、課題達成の
猶予は1年。あまりに不可思議な状況に戸惑いながらも、7人の中に絆が生まれ
て・・・という内容。
ジャンルで言うのなら、ファンタジーと言うより他無いのだが、この子たちの
ほぼ共通の問題というのが「不登校」、いわゆる引き籠もり。原因は様々だが、
行きたくても学校に行けない子たちの心模様があまりに切なく、故にファンタ
ジーというジャンルを軽く飛び越す。極上のヒューマン小説、という印象の強
い作品。
全ての場面の全ての台詞がとにかく心に突き刺ささり、随所で心がドラムを鳴
らす。途中、「イジメ」という絶対に無くならない「悪」について、深く考え
込んでしまい、ところどころで読書が止まってしまうほど。それでも約3日で
読破してしまうのだから、この作品の吸引力はやたら凄まじい、ということ。
もちろん、お得意のミステリー要素もあるのだが、その部分は前半でおおよそ
の状況が読めた。しかし、オーラスの部分はコチラの予想の一つ上を行くオチ
が用意されており、読了後は大いに唸った。
こりゃあ、文句無く本屋大賞取るよな、と。
ファンタジー・ヒューマン・ミステリーの3要素が絶妙に絡み合い、物語とし
て見事に昇華する。正直、この作品が取らなきゃウソだな、とさえ思う。
しかし・・・。
ある種の・・・いや、ハッキリ言えば現在進行形で不登校の人たち、そしてイジメ
にあっている人たちは、問題が解決するまで読まない方が良い気がする。
登場人物たちには「友だち」が存在するが、下手すれば彼らは仲間や理解者の
不在を改めて認識し、絶望してしまうかもしれない。そこだけが本当に心配。
そんなことを思うのも、この作品が凄い、ということなのだろうけど・・・。