盤上の向日葵

▼盤上の向日葵 / 柚月裕子(Kindle版)

今年の本屋大賞次点に付けた柚月裕子作品。
基本、僕の柚月裕子に対する興味は本屋大賞のノミネートから始まっているの
だから、ここに来てようやく本命に辿り着いた感。

七冠王を目指す将棋界の重鎮に挑むのは、養成組織である奨励会を経ずにプロ
となった東大卒・元IT企業の経営者。その頃、埼玉県の山中で身元不明の白骨
死体が発見された。遺体には刺傷の跡があったため、県警は殺人および死体遺
棄事件として捜査を開始。奇妙なことに、死体の側には数百万円の価値がある
将棋の駒が一緒に埋まっていた。元奨励会員という異色の肩書きを持つ刑事が
一課のベテランと組み、この事件の捜査に当たるのだが・・・という内容。

この作品を含め、これまで4冊読んだ上での僕の柚月裕子評はこれしか無い。
『誰よりも「漢」を感じさせてくれる女流作家』である、と。「漢」は、もち
ろん「オトコ」と読んで欲しい。

この直前に読んだ孤狼の血シリーズの2冊は、いわゆる「任侠」に則った上で
漢臭さだったが、この作品に登場する漢たちで印象深いのは「真剣師」と呼
ばれる賭け将棋の達人たち。財産はもちろん、自らの生死まで賭けて勝負に挑
む彼らの姿には、神々しさまで漂う。将棋モチーフの小説だから、棋譜解説
文章も多々出てくるのだが、その意味が全く解らなくても伝わる緊迫感。この
作家、本当に「恐ろしい」と思う。

さらに、ミステリーとしての組み立てもかなりのレベル。
登場人物の過去が明らかになるにつれ、ジリジリと核心に迫って行く構成は
見事の一言。そして、ラストシーンはまるで映像のストップモーションを観
るかのような臨場感があった。

作品の持つ魅力は、本屋大賞を受賞した辻村深月「かがみの孤城」に勝る
とも劣らない。個人的には、こちらの作品の方が強烈な印象を残してくれた
ように感じる。惜しいなぁ、本当に・・・。

とにかくこの作品で柚月裕子は僕の「全冊読む」作家リストに入った。
このオトコらしい女流作家、僕は大好きです!

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