以前から気になっていた直木賞作家、藤原伊織の短編集。
バラエティに富んだ短編ミステリーが6篇入って居るのだが、その内容は
噂以上。というか、久々に凄い作家と出会ったかもしれない。
ちなみに藤原伊織は既に故人。ちょっと出会うのが遅かったかも・・・。
ともかくこの作品、テイスト・トーン共に重く、そして暗い。ミステリー
としてのギミックも決して凝っているワケではなく、どちらかと言えば
純文学系の作品を読んでいるいるような気分。こういうのってだいたい
途中でイヤになっちゃうのだが、文章全体から醸し出される独特な“惹き”
のレベルが尋常ではない。これはきっと物語それぞれにハッキリした緩急
が付けられているためで、1篇を読み始めるとその世界観の虜になってし
まうから凄い。無理に説明するなら、「基礎体力運動を毎日欠かさずやっ
ているアスリート」のような安心感がある。
6篇はどれもすばらしいのだが、印象に残ったのはこの中でも一風変わっ
たテイストの「トマト」。他の篇よりも若干短めの不思議系ストーリーが
絶妙な位置に配置されており、その効果に驚嘆した。
ミステリーとして読み始めたのに、読後は極上のヒューマンストーリーを
読んだかのような感覚。よくできた企画書を熟読し、一発で採用を決める、
みたいな・・・。
・・・なんて思ってたら、この作家の前職は広告マンだったらしい。
現役時代はきっと凄い企画書書いてたんだろうなぁ、と羨ましく思った。
・・・営業だったらちょっと寂しいなぁ、いろいろ(^^;)。