柳澤健の『「1984年のUWF」に対するアンサー』として出版された、とされ
る、ある種いわくつきの本。出版社は暴露系のプロレスムックを多数リリース
している宝島社。正直、全く期待していなかったのだが・・・。
柳澤氏の著作と大きく違うのは、この本が「関係者による証言」の集合体であ
ること。1984にも関係者のインタビューは多々掲載されているが、彼の本の
中には“実際にリングに上がっていたレスラー”の言葉が殆ど無い。その代わり
にフロントや雑誌記者、興行関係者の証言が多く掲載され、さらには柳澤氏の
鋭い見解に溢れている。そのため、読み物としてのグレードが高く、満足度の
高い作品に仕上がっていた。
しかし、こちらは完全に真逆。
基本はUWFに参加していたレスラーとその周辺の人々の“言葉”のみで構成され、
余計な脚色や編者の意見などは一切掲載されていない。1984を読んだ後だか
らこの編集方針は非常に効果的で、一度ケリが付いた筈の僕のUWFへの思いが、
もう一度頭をムクッと起こしてきたような感覚さえ産まれた。
この本に対し、“証言”をしたUWF戦士は下記の通り。
前田日明・藤原喜明・山崎一夫・中野巽耀・宮戸優光・安生洋二・船木誠勝・
鈴木みのる・田村潔司・垣原賢人。
・・・UWFのリングで、僕自身が全員のファイトを目撃している。彼らの語り口
皆一様に魅力的ながら、全員が明らかに違う見解を持つ。この証言集に説得力
が無いワケが無い。これもまた、“凄い本”である。
30年近く前に消滅した団体なのに、今もこれだけの求心力を持つUWF。
あの団体の始まりから終わりまでを観た僕も、きっと一生UWFを抱えて生きて
行くんだろうなぁ、と思った。
宝島が真面目にプロレス本を作った結果がこの本。
出版社にアレルギーのあるプロレスファンも多いと思うが、UWFに心を揺すら
れた覚えのある同志なら、読んでおかないと損をする。名作です。