まんが道大解剖

▼まんが道大解剖 / 藤子不二雄Ⓐ(監修)

コンビニのブックスタンドで偶然見かけたMOOK
同じ机に向かい、原稿に取り組みながらニッコリ笑う満賀才野の表紙を見た
瞬間、他の買い物をほぼすっ飛ばしてレジへ。まさかこの時代に、あの2人
カラーイラスト表紙を飾る雑誌が出るとは・・・。

このMOOK、藤子不二雄Ⓐ先生ライフワークとも言える「まんが道」と、
その続編である「愛・・・知りそめし頃に・・・」完全ガイドと銘打った意欲作。
Ⓐ先生はもちろん、歴代のまんが道担当編集者実のお姉様(!)、そして
トキワ荘とは一線を画しながらも親交の深い劇画家・さいとうたかを氏など
への超レアインタビューを多数掲載。体系化された資料ページもすばらし
く、作品への過剰とも言える「愛」が詰まった作品だと思う。

特集ページも“名言集”“経済白書”など、まんが道ファンなら絶対に興味を
惹くモノばかり。特に「実物」として掲載されている電報3通は思わずオォ!
と唸ってしまうほど圧巻。「スグレンラクタノム ナカヨシ」と打刻された
講談社・なかよし編集部からの電報が、今もⒶ先生の手元にちゃんと実在し
ている、という事実に思わず感動してしまった。さすがに伝説の「ゲンオク
ルニオヨバズ ヨソヘタノンダ」は捨てたのかもしれないが(^^;)。もし現存
していれば、1,000万円は下らない価値があると思うなぁ・・・。

とにかく、ファンなら絶対に購入しておくべきMOOK。
ファンでなくとも、“日本少年漫画界のアイコン”による入魂のライフワーク、
「まんが道」だけは必読図書に推したい。合言葉は「ンマーイ!」で!

カウントダウン

▼カウントダウン  / 真梨幸子

真梨幸子最新作。
「フジコ」以来、一切ブレることなくイヤミスを書き続ける真梨幸子にすっか
り感化され、今では我が教祖と仰ぎ、普段は“幸子サマ”と読んで崇め奉ってい
る作家。おおよその作品はリリースと同時に光の速さで読了してしまうのだが、
今回の作品は何故だかいつもと様子が違う感じ。

かんたんに言えば、エッセイストとして名を上げた女流作家余命半年を宣告
され、いわゆる終活を行う話。齢50、死ぬにはやや早いものの事実を受け入れ、
自分の人生を理想通りに終わらせるため、これまでの恥部を必死に整理してい
く姿を追ったもの。その課程でいろいろなことが明らかになって・・・、という、
女史お得意の「更年期ババア」(^^;)系。イントロダクションの段階では、来た
ぞ、コレ!とか思ったのだけど・・・。

前半から中盤にかけての流れがやたら「緩やか」。緩やかとは言っても、カネ
だけはある死にかけたババアが恐ろしいくらいに戯言を吐き続ける展開だから、
そういうドロドロ系が好物の人は退屈しないかもしれない。しかし、僕にとっ
ての真梨幸子作品はそれだけにとどまらない、更に上を行く悪意の塊でなけれ
ばならない。正直、中盤あたりで今作は失敗かな、と感じてしまった。が・・・。

おそらくこの「緩さ」、後半の怒濤の展開に繋ぐためにわざと敷いた伏線。
あれよあれよという間に登場人物が増えていき、ラストでその全員分の相関図
が見事に完成する。いわゆる「勝ち組」は誰一人存在せず、全員が不幸のどん
へまっしぐら。長い長い助走距離を持つジェットコースター、と言えば解り
やすいだろうか? ここまで「堕ちる」が表現されている作品は他で読んだこと
が無い。

・・・これだから真梨幸子は止められない
今回の「悪意」表現も実に秀逸であり、読了後に感じる嫌悪感が、突き抜けて
清涼感に化ける瞬間を、またも体感させていただいた。人の不幸を書かせて、
右に出る作家は一人も居ない。そういうところまで上り詰めた気がする。

幸子サマ、本当にお見事です。
ただ、実生活でコレが起こったら、と考えると背筋が寒くなりますが(^^;)。
この悪意、本当に癖になるなぁ・・・。

聖域

▼聖域 / 大倉崇裕(Kindle版)

福家シリーズ動物シリーズで完全にハマった大倉崇裕山岳小説
あとがきによると、氏はデビューからずっと「山岳ミステリー」を書きたかった、
というクライマー。ソレ風に言えば“山屋”であり、本物であるが故、執筆に要し
た時間はなんと9年(!)。読み応えたっぷりの本格長編ミステリーである。

ある事情で山を辞めていた主人公のサラリーマンが、大学時代のパートナーで
将来を嘱望されるクライマーに誘われ、久々に山へ。ブランクによる体力の衰え
を自覚しながらも、「もう一度山をやらないか?」という友の問いかけに逡巡し
てしまう。ところが程なく、単独で山行した友人が滑落・行方不明という凶報。
技術・経験ともに豊かな人間がミスを犯すような環境では無い。友人の死に疑問
を持った主人公は、全てを投げ出して友人の死の謎を追う・・・という物語。

僕は全く山はやらないが、山岳系の物語は小説・マンガを問わずかなり読む。
従ってあの世界ミステリーを絡めることには正直無理がある、と思っていた
のだが、この作品はハッキリとそのラインを超えて来た。主軸はあくまでミス
テリーだが、本格的な山岳系要素の描写がそこに深みを与える、という理想的
な構成。そりゃあ、9年はかかるよな、と素直に納得できる力作である。

大倉崇裕ってこういう小説も書くのか・・・。
正直、これまで読んできた他の作品に比べると、この作品はテイストが全く異
なる。山岳系としては最初の作品だからなのかもしれないが、ちょっと他を読
んで確かめてみたい。コレはコレで凄く面白いのが、逆にタチ悪いな(^^;)。

クロノスタシス

▼水鏡推理6 クロノスタシス / 松岡圭祐(Kindle版)

水鏡瑞希シリーズ第六弾
まず驚くのは、今回も前作からのスパンが2ヶ月しか空いていないこと。
このペースでリリースされたら今年中に余裕で10巻を超えることになる。
すげぇな、松岡圭祐(^^;)。

前作で「研究公正推進室」という短めの名称の部署(^^;)に異動と相成った
主人公・水鏡瑞希さんが今回ターゲットにするのはなんと「過労死」

過労死過労が原因の自殺を未然に防ぐため、過労のリスクを数値化して予防
できる、という最新技術が研究公正推進室に提出された。総合職・官僚の須藤
と共に最終評価報告書の作成を任された水鏡は、自殺した財務省の若手官僚
まつわる実例を徹底的に探ろうとする。ところがいろいろなところから圧力が
かかってしまい・・・という内容。

水鏡推理は1から6まで全てを読んできたが、今回のエピソーはこれまででいち
ばん解りやすい。過労死は一般的な日本人にとって非常に身近なテーマであり、
誰にでもそうなる可能性がある。今作では専門用語殆ど出てこないのだが、
このテーマにはきっと必要が無かったのだと思う。小難しい技術を解った気に
なれる、というのがこの作品の魅力の一つだったのは間違いないが、それを補
ってあまりある緊迫感に包まれた意欲作。そして問題作でもある。

僕らのわりと近くで実際に起こった「過労が原因の自殺」は、今も騒動が収ま
らないまま。アレに関しては本当は言いたいことが山のようにあるのだが、
少なくともこの作品に登場する技術が稼働していれば、防げたことなのかもし
れない。フィクションなのが本当に残念

意外すぎ絶句する程のラスト、それでも強引では無い腑に落ちる展開は、単
なるミステリー作品として読んでもかなりの水準。シリーズ最高傑作、で良い
と思います。

手が早く、いつでも量産体制なのにもかかわらず、「質」が絶対おろそかにな
っていない松岡圭祐を心からリスペクト。でも、休めるときは休んでください
今後松岡作品が読めなくなっちゃったら大ごとなので。

問題物件

▼問題物件 / 大倉崇裕(Kindle版)

調子に乗って大倉崇裕別作品一気読み
煽り文句は”ユーモアミステリー”、しかしタイトルからは社会派の香りが・・・。
これはきっと面白い!と判断し、取り敢えず購入してみた。

こちらも連作短編集
・・・ユーモアミステリーで社会派なのは間違っていなかったのだが、この作品
に関しては“不動産ファンタジー”というのがしっくり来る。起きる事件はそれ
なりに深い闇があり、結構考えさせられる内容だったりするのだが、とにかく
限りなく優しい女性限りなく頼りになる男性(?)のコンビネーションが
潔くも清々しい。

第一章で明らかになる設定で「はぁ?」とか思う人が半分は居ると思うのだけ
ど、そうならなかった人確実にハマると思う。この手の作品としては珍しく、
読後に感じるホッコリ感は大したモノ。

大倉崇裕の作品には共通した世界観アリ。文体はシリーズごとに全く違うにも
かかわらず、どれも安心して読めるから不思議。
・・・完全にハマったかも!