最強の系譜

#ストロングスタイルの源流


▼最強の系譜 プロレス史 百花繚乱 / 那嵯涼介

ある意味「待望」の本が遂に出版。
著者は那嵯涼介氏。小泉悦次氏・ミック博士氏と並び、僕が個人的に尊敬
している「プロレス史」探求家が、もの凄い“ボリューム”の本を出してく
れた。

基本はG SPIRITSに掲載された記事をまとめたもの。ということは、全て
を既に読んでおり、どの記事にも唸らされた覚えがビンビンにあるのだが、
こうやってまとめて読むとやっぱり唸る。巻末の参考文献一覧までをしっ
かり読んだ後、しばらくの間呆けてしまうくらい、凄まじい本である。

カール・ゴッチダニー・ホッジローラン・ボックに関する記述はお
そらく世界一の精度と内容を誇り、その手の、いわゆる”シューター”
“フッカー”と目されるプロレスラーに興味を持たざるを得ない我々のよ
うな昭和プロレス者にはやたらと響く内容。コレに加え、幼い頃に秋田
書店プロレス入門で読んだ「恐怖のトルコ人」こと、ユーソフ・イシ
ュマイロロ(本編ではユーソフ・イスマイロと表記)の件やトルコレス
リングの解説が詳細に描かれており、そのあたりを鬼のように読み込ん
でしまう。三つ子の魂、ってヤツなのかなぁ・・・。

本体価格2,000円はかなり高めの設定だと思われるだろうが、実際に本
を手に取り、ページをめくってみればそ値段がかなり「安い」という事
実に気付くと思う。最低でもプロレスに興味のある人しかターゲットに
なり得ない本だが、一度でも「プロレスこそ最強の格闘技」を信じた人
なら持っていなければいけない作品

作者の冒頭の言葉を、僕も拝借させていただく。
「プロレスラーに”強さ”を求めて何が悪い」と。

バック・ステージ

#舞台裏ミステリー


▼バック・ステージ / 芦沢央(Kindle版)

ずいぶん久々の芦沢央作品。
最初に読んだのは5年前、彼女のデビュー作。あの時は気合いの入った
イヤミスを期待しながらも食い足りなかった印象があったのだが、果た
してコレは?という感じで。

基本は連作短編集。主軸としては1本の舞台公演があり、そこにまつわ
る人々の悲喜こもごもを描いたヒューマンミステリーである。「まつわ
る人」のチョイスが秀逸で、俳優・女優はもちろん、PR会社の人や舞台
を観ようとしている、挙げ句は近くの図書館に居た小学生の母親など
という、全く関係の無さそうな人たち。ソレらをキレイに繋げ、舞台仕
立ての構成で一本の物語を作ってしまっているのだから恐れ入る。

ユーモア溢れる文体に加え、いくつかある恋愛系のエピソードがかなり
ツボ。しっかり欺された上になんとなくホンワカした気分になれたのは、
ちょっと意外だった。

芦沢央、凄くいい作家に成長している模様。
あれからかなり著作が溜まっているようだし、しばらく読むモノに困る
ことは無さそう。なかなかやるじゃん!

証言 新日本プロレス「ジュニア黄金期」の真実

#僕らのライガー


▼証言 新日本プロレス「ジュニア黄金期」の真実 / V.A

順調に冊数を伸ばしている宝島「証言」シリーズの最新作は、新日ジュニア
80年代にジュニア黄金期を築き、世界中に新日ジュニアをアピールする、と
いう偉業を成し遂げ、まもなく引退する我らの獣神サンダー・ライガーに関
するインタビュー集である。

証言シリーズはある意味「歯に衣を着せない」感じの文章がウリだったと思
うのだが、今回は全くそういう雰囲気が無い前田藤原を始めとする大物
もインタビューに応えているのだが、毒舌でならす彼らからすら、ライガー
に関する「悪口」が一つも見えない。ファンだけでなく、同じプロレスラー
や業界関係者からもリスペクトされているライガー。僕らの宝物である。

もう引退まで2ヶ月とちょっと
ライガーの居ないプロレスがどんな風景になるか、今はなんとも言えないの
だが、改めて残りのライガーを最後まで見届けよう、と思った。

スーパージュニアに、そして世界の獣神に栄光あれ!

掃除屋

#THE CLEANER


▼掃除屋 プロレス始末伝 / 黒木あるじ(Kindle版)

最近Amazonのレコメンドで頻繁に表示されていた作品。
まぁ、プロレス関係の書籍をあれだけ購入していればそうなるのもしょ
うがないのだけど(^^;)。丁度読むべき本が切れていたところなので、
取り敢えず読んでみた。

関係各所・・・団体社長とか・・・からの依頼を受け、対戦相手リング上で
制裁引退・廃業ないしは長期欠場に追い込みながら、試合にはキッチ
リ負ける、という裏稼業をこなすフリーランスのベテランプロレスラー
が主人公。かつて試合中のアクシデントで親友を再起不能に追い込み、
その医療費を稼ぐために「仕事」を行う。そんな主人公に重大な疾患
発見され、最後の舞台を模索するのだが・・・という内容。

最初に言っておくべきだと思う。コレ、設定にハッキリと「無理」があ
ります、ええ(^^;)。問題のある選手をリング上で制裁する、という場面
は本当に稀に実現すると思うが、それが「商売」になる、というのは考
えづらい。もし現実にこういう事態が発生したら、該当の選手は一発で
仕事を無くす。ソレをバレないようにやっている、と言われても、関係
者に解らない人間なんて居ないような・・・。

そして最近のプロレス小説には珍しく、ケーフェイへの踏み込みが曖昧。
そこらへんでやや不満になるのは、僕があまりに擦れてしまった所為
と思うんだけど・・・。

でも!
そういう感じで難点は幾つも見つかるのだが、この小説は「熱い」
若い選手にバトンを渡す場面や、クライマックスで命のかかった危険な
試合に臨む主人公が大ピンチから脱する場面などは本当にちょっと泣い
(^^;)。この作者はきっとプロレスファンの気持ちをよく解っている

当然、黒木あるじという作家はこれまで聞いたことの無い名前。
調べてみるとホラー・怪談系の作品を多々書いている人らしい。ちょっ
と読んでみようかな、プロレスファンの描く怪談を。

背中の蜘蛛

#マジでゾッとする話


▼背中の蜘蛛 / 誉田哲也(Kindle版)

誉田哲也待望の新作は得意の警察小説
僕の知る限り完全なる書き下ろし、全くの新シリーズ。これがとんでも
なく「恐ろしい話」だった。

いわゆる「プライバシー侵害」に関する話。それも、今や現代の必需品
とされている携帯電話の盗聴について。警察の捜査に現状違法とされる
テクノロジーをどこまで用いて良いのか?という現代的な命題が問われ
る問題作である。

怖いのは、ここで使われている各種ハイテク機器が、おそらく現存して
いる、という事実。法律が変わり、そういう機器類の使用がもし許可さ
れたら、とか考えると、マジで背筋が寒くなる。現実的にもマイナンバ
ー制度の導入でそういう土壌は完成しつつあり、完全監視社会の実現は
もうそこまで来ている。

・・・個人的にも思い当たる節が無いでも無い。そういう意味で、本当に
ゾッとする凄まじい作品

帯にある「読後、あなたはもうこれまでの日常には戻れない」にウソは
無い。誉田哲也が本領を発揮した傑作、覚悟して読むべし!