連続殺人鬼カエル男ふたたび

#忘却の彼方


▼連続殺人鬼カエル男ふたたび / 中山七里

中山七里初期の名作「連続殺人鬼カエル男」続編
僕が中山七里にハマり始めた頃に読んだ作品であり、ファンの間では未だに
No.1と推す人の多い前作。当然期待して読んだのだが・・・。

・・・え〜、忘れてます、前作の内容を(^^;)。
とにかく序盤から前作を引き摺る事件が多々起こり、その度に「あれ、こん
なことってあったっけ?」とか「え?コイツって誰だっけ?」みたいな疑問
がいくつも沸いて出てくるのだから、非常に始末が悪い。さすがに途中で読
むのを中断し、前作をおさらいするべきだった、と自分でも思うのだが、そ
んな中途半端な状態でも先が気になる奥深さ偉大な作家だよな、やっぱり。

ということでひとまず読了してしまったのだが、端的に言うのであればコレ
中山七里版のオールスター戦。他作品で何度も登場する重鎮たちが最高の
タイミングで登場し、深い言葉を吐いていくのだから、中止しようにも中止
出来ない、という呆れる程の完成度。もちろん「帝王」と形容される氏の得
意技、「どんでん返し」も冴え渡っており、前作が未読の人でもそれなりの
満足感が得られてしまいそうなのが凄い。

・・・とはいえ、やっぱり前作を読んでいない人、それから前作を読んでいる
にも関わらず忘れてしまっている人(^^;)に関しては、やはり事の始まり
あるオリジナルカエル男を読むべき。そうすれば誰もが恐ろしいまでの悪意
満腹になりそうな気がする。

予断だが、この作品は久々に購入した「文庫本」
出来る限り電子書籍キャンペーンを張っている僕だが、さすがにこのタイト
ルの本を放っておくことは出来なかった。

げに恐るべしカエル男。どんでん返しの帝王・中山七里に栄光あれ!

クジラアタマの王様

#本当に効果的なコラボレーションの見本


▼クジラアタマの王様 / 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎新作
タイトル「クジラアタマの王様」とは、ペリカンの仲間である巨大な薄黒い鳥
ハシビロコウラテン語での名称を和訳したモノ。当然、物語のモチーフはこ
悪党面をした鳥。まさかあの鳥から、こんな物語が生まれるとは・・・。

伊坂フリークを自認する僕だが、この作品は本当に語るべきことが山ほどある。
いつものシニカルでカッコイイ言い回し、けっして斬新では無いのに独創的な
アイデアを加えることで全く新しいモノに思えてしまう設定、魅力的なキャラ
クターなど、伊坂幸太郎の「全て」が詰まっていることを前提とした上で、遂
恐ろしい手法を実践に移してきた。

重要なのは、普通の書籍で言うところの「挿絵」
いや、僕の感覚ではもう「サイレントマンガ」とも言える、効果絶大なイラス
トページが、場面の合間ごとに堂々と展開されていること。これまでも小説と
マンガのミックスなどは幾らでもあったのだが、文章→絵→文章→絵と続いて
行くストーリーはどちらが欠けても成立しない本当に効果のあるコラボレー
ションとは、こういう作品のことを言う気がする。

だから、この作品に関しては絶対に紙の本を買った方が良い、と断言。このと
んでもなく説得力に溢れるストーリーの神髄は、「紙」でなければ体感出来な
い、と言い切ってしまおう。

こちらでは殆どマンガのレビューを書かない僕は、小説愛好家だと思われてい
ると思うのだが、実は出版物の中で「最強」と思っているのはマンガ。その考
え方を、一部改めなければならない、とすら感じてしまった。

読了してからもう数日が経過しているのだが、久々に興奮が抜けない
あれ以来、闘いこそしないものの、誰かが何か恐ろしいモノと闘っている場面
を実況しているような夢まで見てしまう始末。

いやぁ、本当にまいりました! 文句無く、傑作
僕の中ではこれまで読んだ伊坂幸太郎作品の中で3本の指に入る。
今年のNo.1だな、いまのところ。

希望の糸

#絆のはなし


▼希望の糸 / 東野圭吾

東野圭吾令和最初の新作は加賀恭一郎シリーズ!
・・・だが、今回はいつも主役であるハズの加賀恭一郎があまり表には出てこず、
中心は従兄弟松宮脩平刑事。もしかしたら、スピンオフ扱いで良いのかも。

著者本人が広告等で語っているとおり、こちらは「絆」の物語。
それもかなり特殊な、しかし確かにしっかりと存在する、いくつかの
「親子の絆」のお話である。

とにかく、よくぞこの設定を思いついた、としか言い様がない。
誤解を恐れずに言えば、ジュラシック・パークの初刊のようなリアリティ
溢れる素材であり、普通なら当然生じる筈の「あり得ない」を読中に全く感
じないところが凄い。そういえば東野圭吾ってそういう作家でもあったな、
と今さらながら思い出した。

もちろん加賀シリーズであるから、ミステリーの要素もふんだんに在るのだ
が、今回は最大と思われた謎が途中で解けてしまう(^^;)系。しかし、そこか
ら生まれる人間模様の描写は相変わらず見事で、細かな部分でグッと来る良作。
ヒューマンミステリーの好きな人は、きっと夢中になれると思う。

問題があるとすれば、この作品がいつもの面子ドラマ映画になった時に、
溝端淳平がしっかり演技出来るか、ということ(^^;)。心配だな、ソコ(^^;)。

笑え、シャイロック

#仕事のやり方


▼笑え、シャイロック / 中山七里(Kindle版)

ヒットメーカー・中山七里の新作はなんと金融ミステリー
タイトルの「シャイロック」とは、ヴェニスの商人に登場する金貸しの名前で、
以前読んだ池井戸潤の作品でも表題となった元祖悪徳金融屋。さすが中山七里!
と感心したのは「渉外部」、つまり債権取立の現場を舞台にしていること。
このシチュエーション、他ではあまり見られないと思う。

一流の大学を卒業し、幹部候補生として順風満帆にメガバンクの営業畑を歩い
て来た男が、まさかの渉外部へ異動。出世コースから外れた、と落ち込みなが
らも、そこで“シャイロック”の異名を取る取り立てのエキスパートが上司とな
ってしまう。反発しながらもだんだんとこの上司に惹かれていく主人公だが、
ある日その上司が不慮の死を遂げてしまい・・・という内容。

リーマンショック前の杜撰な融資体勢はイヤミたっぷりに、その後の困難極ま
りない債権回収部分はリアリティ抜群に描かれているため、起承転結の流れが
解りやすく、のめり込んで読める。さらに著者の他作品とのコラボもひっそり
と実現しているため、ファンにはたまらない内容となっている。

金融系と言えばどうしても池井戸潤の一連の作品を思い浮かべてしまうのだが、
こちらにはまた違った「熱さ」がある。ビジネス系の小説がすきな人は一読し
ておくべき。続編及びシリーズ化、強く希望します!

・・・惜しむらくは、氏の代名詞とも言える特徴、週末付近でのどんでん返しが、
今回は中盤の段階でほぼ読めてしまった(^^;)こと。あからさまに怪しかった
からなぁ、真犯人(^^;)。

証言「プロレス」死の真相

#R.I.P


▼証言「プロレス」死の真相 / V.A

タイトルに「証言」と付いているが、お馴染みの宝島シリーズではなく、
河出書房新社から出版された企画本。構成は基本宝島版と一緒であり、
パクリと取られかねない本なのだが・・・。

・・・正直、読むべきでは無かったのかもしれない。

採り上げられているプロレスラーは力道山、山本小鉄、ジャイアント馬場、
三沢光晴、マサ斎藤、ジャンボ鶴田、橋本真也、ラッシャー木村、上田馬
之助、阿修羅・原、永源遙、冬木弘道、ブルーザー・ブロディ、ザ・デス
トロイヤーの14名。冒頭、アントニオ猪木の語る力道山までは普通に読め
たのだが、そこから先の13名に関しては全て「現役時代」を知っている人
ばかりなのが不味かった。

とにかく、読んでいるそばから彼らの現役時代を思い出してしまい、ジワ
ッと涙が溢れてくる。 既に死後20年以上経過しているレスラー(馬場・
ブロディ)も当然入っているのだが、どうやら僕は未だに彼らの死が受け
入れられないらしい。まさかプロレスの企画本を読んで号泣するとは、夢
にも思わなかった。

改めて故人の皆様に感謝を述べると共に、向こうの世界での再会を強く望
む。この本に載っている全員、本当にすばらしい試合をしていたのだから。