翼がなくても

▼翼がなくても / 中山七里 (Kindle版)

中山七里の最近(2017年1月)の作品。
オリンピックを狙えるポテンシャル持つ女性スプリンター・沙良が、不慮の交通
事故で左足の切断を余儀なくされる。加害者は隣の家に住む引きこもりの幼なじ
み・泰輔。いきなり全てを失った沙良は、当然のように泰輔を深く恨むのだが、
その泰介が死体で発見される。犯人は? そして沙良の未来は?・・・という内容。

ミステリーとして発表されているが、今作に関してはその部分がメインでは無い。
オリンピックを目指していたアスリートが、不屈の精神でパラリンピックを目指
す様子が赤裸々に描かれていると共に、日本におけるパラスポーツの問題点が浮
き彫りになる構成。硬派な人間ドラマである、と思う。

そういうわけで今回のミステリー部分はそれほど大きな役割は無いのだけど、
登場人物はやたら豪華犬養刑事の登場は驚きつつも展開上“ある話”な気がする
のだが、まさかこの手の話にあの御子柴弁護士が登場してくるとは・・・。
犬養と御子柴という中山作品二大スターの邂逅には注目せざるを得ず、人間ドラ
マの中で効果的なアクセントとなっている。

最近、各所でパラリンピアンのデモンストレーションを見る機会があるのだが、
単純に彼らは「凄い」。車椅子バスケの選手のマシンの取り回しはある意味で
芸術に近い技術だし、ウィルチェアラグビーの選手に全力でタックルされるよ
り、軽自動車と正面衝突した方がいくらかマシ、とすら思える。ただ見ている
だけでも充分に楽しめる競技なのに、やはりオリンピックスポーツに比較する
と悲しいまでに人気が無い。でも・・・。

この作品がきっかけとなり、パラスポーツがもっと一般に認知されるようにな
り、競技者と技術者が本気で取り組める体制が日本でも出来ればいい、と思う。
3年後東京で行われるパラリンピックで、日本人メダリストが一人でも多く
輩出されるように・・・。

シャンデリア

▼シャンデリア / 川上未映子 (Kindle版)

「パンドラ」を思ったより早く読み終わってしまったため、久々にUnlimitedスト
を徘徊。ピンと来るタイトルのモノがあれば読もう、とか思っていたのだけど、
Unlimited商品によく見る名前の作家を発見。芥川賞作家川上未映子がソレ。

・・・因縁の芥川賞関係作品だが、「コンビニ人間」でややストレスが薄まった気が
していたので、取り敢えず読んでみることにした。そしてこれまで作品こそ読んで
いないものの、川上未映子は若干気になっていた作家。いわゆる文学系アイドルで、
プロとして音楽活動も続けるミュージシャンでもある、という偏った予備知識アリ。
ハッキリ言えば、その「見た目」に惹かれていただけなのだけど(^^;)。

この作品はお馴染みのKindle Single
ものの数分で読み終わる短編が1本掲載されているだけなので、この作家について
深く語る資格は本来僕には無いのだけど・・・。もし他の作品もこういう文体で書い
ているのだとすれば、僕にはちょっと敷居が高い(^^;)かもしれない。

登場するアイテムの殆どが「女性」にしか解らないものであり、何がどう凄いの
かが全く理解出来ない。というか、積極的に理解しようとも思えない(^^;)。
その所為か、ラストの唐突な展開も全く心に響かなかった・・・。

基本、そんなもんなんだろうなぁ、アクタガワ系統の人は(^^;)。
ただ、僕にはなぁんの関係も無いのだけど、もしかしたらいわゆる「感度高い系」
の女性陣には受ける可能性アリ、とだけ言っておく。

この作家の他の作品を読む機会は・・・無いだろうなぁ、きっと(^^;)。

パンドラ

▼パンドラ 猟奇犯罪検死官・石上妙子 / 内藤了 (Kindle版)

あれ、新作?と思っていたらちょっと違った。
テレビドラマ化もされた内藤了の猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ初のスピ
ンオフ作品。主役はお馴染みの「死神女史」こと石上妙子。しかも若い頃。
・・・このシリーズのファンには、設定だけでもうたまらない、と思う。

実際、非常に面白く、いろいろな意味で穴の無い物語
ある意味ボスキャラの死神女史が何故に法医学を学び、どうして検死官となった
のか?など、藤堂シリーズのコアとなる部分のルーツが非常にエキセントリック
だし、かつての恋の相手とされる2名(ジョージとガンさん)との邂逅シーンも
非常に印象的。コレを読んでから本編を読む、というのがいちばんスッキリする
かもしれない。

そしてこのスピンオフ、いつもの通り何段階かのオチが用意されているのが凄い。
たいへん困ったことに、難解さが増して物語がこんがらがっている比奈子さんの
エピソードよりも、若き日の死神女史がどのように成長していくのか?、をもっ
と読みたくなってしまっている

もしかしたらこのスピンオフ、完全に本編を食っちゃったかも(^^;)。
コレを言っちゃったら元も子も無い気もするが・・・。続編に期待!

コンビニ人間

▼コンビニ人間 / 村田沙耶香(Kindle版)

2016年上半期・第155回芥川賞受賞作品。
・・・僕とは全く相性の合わない芥川賞作品。これまで読んだ同賞受賞作品の中で
ピンと来たのがピース・又吉直樹「火花」くらい。なので通常は避けるタイプ
なんだけど、タイトル煽り文に惹かれて思わず電子書籍版購入。さて・・・。

僕らの年代は「初代コンビニエンスチルドレン」に該当する。
今やそこらへんにあるのが普通なコンビニエンスストアだが、その頃住んでいた
街に最初のセブンイレブンが出来た時は、本当に感動を覚えた。以降は夜に手持
ちぶさたになると何故かコンビニへ(^^;)。そのクセは、今も結構変わっていな
いような気がする。

そんなコンビニで「働く」方の女性を描いた物語。
先天的生活機能障害を抱えた女性が主人公。36歳でこれまで就職の経験無し
大学在学中から18年間をずっとコンビニのアルバイト店員として過ごす。未婚
恋愛経験無し、そして処女。間違いなく常人とは異なる感覚を持つ彼女が、
唯一社会と繋がっていられる場所がコンビニエンスストア。コンビニのマニュア
に従い、店員「演じる」ことで、社会に必要な「部品」で居られる。
そんなコンビニに、あるが同じアルバイトとして入ってきて・・・という内容。

主人公はもちろんだが、途中から登場する男性(←コイツはクソ^^;)がやたら
サイコ。特に何が起こるでも無い展開なのにもかかわらず、ちょっとしたホラ
ー小説を読むよりよっぽど薄気味が悪い。その所為で読むのを中断するタイミン
グが全く無い、という見事な構成。正直、これまで読んだ芥川賞作品の中では
ベスト。一気に読ませてくれる筆力、単純にすばらしいと思う次第。

そして、個人的には主人公の女性をちょっと尊敬さえしている自分に気づく。
週5日勤務し、職場を愛し、周囲に絶えず気を配る。立場はアルバイトかもしれ
ないが、コレはもう立派な「仕事」。そしてそこに18年も勤務している段階で
もう僕は負けている。自慢じゃないが、同じところで18年働いた試しなど無い
のだから。

こういう形のプロフェッショナルが居ても全く問題無い。というか、フランチャ
イズ側の人間はそういうスタッフさんをすくい上げ、活躍する場・・・トレーナーと
か研修担当とか・・・を与えてあげるべきなんじゃないか、とすら思う。

ちなみにこの作品、問題提起が多々ある筈なのに、ラストまで一切の解決は無し
にもかかわらず、充実した読後感をくれた村田沙耶香という作家を、僕は心から
リスペクトします。

・・・芥川賞にもいい作品あるじゃん♪

蒙古の怪人

▼”蒙古の怪人” キラー・カーン自伝  / キラー・カーン

毎号愛読しているG SPIRITSで出版が予告されてからずいぶん経った気が(^^;)。
待たされに待たされたおかげか、書店で手に取った時は思わず笑みを浮かべてし
まった程の待望の一作。“アルバトロス”こと、キラー・カーンの自伝である。

誤解を恐れずに、そして最大限のリスペクトを込めて敢えて言う。
キラー・カーンとは、「世界でいちばん有名な偽モンゴル人」生粋の日本人
ありながら後頭部に弁髪を結ってモンゴリアンを演じ続け、大袈裟で無く全米を
震撼させた最高のプロレスラーの一人。もしかしたらアメリカのオールドファン
は、今もカーンを本当のモンゴル人だと思っているかもしれない。

僕の考える「アメリカで本当にブレイクした日本人プロレスラー」は、実はそれ
ほど多く無い。思いつくままに並べてみても、ジャイアント馬場グレート・カ
ブキグレート・ムタ獣神サンダーライガーTAJIRI、最近の中邑真輔くらい
のもの。もちろんその中に、文句なくキラー・カーンも入っている。

現役時代のカーンは本当に凄いプロレスラーだった。
日本人離れした体躯に加え、あまりに恐ろしい表情。外国人相手でも一切体力負
けせず、相手が誰であろうと(例えばアンドレでも)真正面から攻撃を受け、自
らも真っ向からぶつかっていく。アルバトロス殺法と呼ばれたコーナー最上段か
両膝を落とすニードロップ説得力抜群で、一時は日本人最強かと思った程。
そんな名選手が綴る自らの半生は、やっぱり豪快面白い

印象に残ったのは、キラー・カーンという男の正直さ
カーンほど秀逸なプロレスラーがどうして全盛期にプロレスを辞めなければなら
なかったのか?とか、どうしてこれまでカーンがカール・ゴッチについて語らな
かったのか?など、思わず唸ってしまうようなエピソードが多々。この本を読み
終わる頃には、誰もが新大久保の「居酒屋カンちゃん」に行き、更に深い話を聞
きたくなるんじゃないか? そんな気がする。

そして・・・。
唯一無二のプロレスラー、キラー・カーンを引退に追い込んだ長州力を、僕はや
っぱり好きになれない、と改めて思った。あのど真ん中さえ居なければ、もっと
長くカーンの勇姿を観れたかも、と思うと、改めて腹が立つ。晩年の地獄は因果
応報なんだよな、きっと・・・。