藻屑蟹

#山渓釣り


▼藻屑蟹 / 赤松利市 (Kindle版)

『鯖』に衝撃を受けたので、まずはUnlimited扱いになっている赤松利市
作品を物色したところ、ソレに該当したのがこの作品。

東日本大震災に被災し、多額の補助金を手に入れ、避難先で贅沢に過ご
避難民たちを横目で睨みつつ、これまでと全く代わり映えのしない生
活を余儀なくされる受け入れ先に住む中年期に差し掛かった男性。金に
対する欲望が最高潮に高まった時、幼なじみから原発関連の仕事を斡旋
されて・・・という内容。

東日本大震災に絡む、原発避難民とその受け入れ先住民たちの「闇」
部分にスポットが当てられており、物語は終始暗いトーンで進行する。
しかし、緊迫感が最初から最後まで一貫して保たれている所為で惹き
強く、読書中に全く飽きることが無いのが凄い。

この作品も「釣り」が重要な場面で描かれる。
今回は山渓・ヤマメの毛針釣り。この作家、本当に釣りが好きなんだろ
うなぁ、と感じた次第。

惜しむらくは、緊迫感を切らさずに続いた物語が、やや尻切れトンボ
ような状態で終わってしまっていること。もう少しだけエンディングに
凝って貰えれば、もっと満足出来たかもしれない。

あと1作Unlimited作品があるので、赤松利市強化月間は続行。
この迫力ある文章、ちょっと病みつきになるかも・・・。

#一本釣りミステリー


▼鯖 / 赤松利市 (Kindle版)

Kindle Unlimitedで発見、タイトル買いした作品。
赤松利市という作家はもちろん初めてなのだけど、高齢になってからデ
ビューした曰く付きの人物っぽい。この作品で長編デビューとのことだ
が、その当時は無職ホームレスだったとか。

醜悪な容姿にコンプレックスを持つ主人公の属する漁業船団雑賀衆
は、紀州雑賀崎発祥の一本釣り漁師たちの集まり。彼らの獲る魚、品質
は一級品だが、網を使った大量捕獲の漁には数で勝てず、漁協にも加盟
出来ない。船頭の買い上げた瀬戸内の無人島を拠点に、唯一の取引先で
ある料亭に収穫を卸し、細々と最低限の生活を余儀なくされている。
そんな彼らに、料亭の女将から大きな仕事の話が持ち込まれて・・・とい
う内容。

とにかく、時代から見放されたアウトローの集団「雑賀衆」のメンバー
が、全員恐ろしく個性的。どちらかと言えばの部分が強調されている
ので、憧れや共感を抱くことは出来ないが、その破滅的な生き方に妙な
魅力を感じる。特に痘痕顔女性恐怖症の主人公が小金を持ち、あから
さまに変わっていく様子は、やたら人間臭くて非常に良い。

残念ながらミステリーとしての構成はそれ程でも無く、結末は正直読め
てしまったのだが、ソレを補って余りあるレベルの濃密な人間ドラマ
赤松利市は他にも魅力的な煽り文の作品が多々あるので、片っ端から読
んでみようと思います。

・・・雑賀衆の持ってくるサバは美味いな、きっと。

人面島

#肩のアイツ


▼人面島 / 中山七里(Kindle版)

Unlimitedで発見した未読中山七里作品。
以前読んだ「人面瘡探偵」続編相続鑑定士ヒョーロクと、彼の
に居座る意思ある人面瘡ジンさんが、またもや事件に巻き込まれる。

彼らの今回の仕事場は「島」
ある意味で文明から閉ざされ、独自のヒラエルキーが存在する島の絶対
的な実力者である村長死亡。その遺産の鑑定に呼ばれたヒョーロクだ
が、島民の殆どが村長の小作人、という異様な状況で、作業は遅々とし
て進まない。さらにこの島、隠れキリシタンの里で・・・。

・・・いやぁ、相変わらず凄まじい設定(^^;)。
ここまで設定を緻密にすれば、どんな伏線でも貼れる。従って序盤から
怪しげな人物が大量に登場、こちらの推理欲を思いっきり刺激してくれ
るのだが、思いを巡らせば巡らすほど混乱する(^^;)。クソ、中山七里め!
と何度も思った(^^;)。

悔しいことに、幾重にも仕掛けられたお得意のどんでん返しの果ては、
最初に“怪しい”と思った人物。こういう騙し方もするんだよなぁ、この
作家は・・・。負けないぞ、次は(^^;)。

火のないところに煙は

#神楽坂怪談


▼火のないところに煙は / 芦沢央(Kindle版)

最近ハマり気味の芹沢央作品、引き続きKindle Unlimitedにて。
今回はなんと「怪談」。著者の芹沢央自身が語り部として登場するこ
とで、物語に妙なリアリティが。その所為か、効果的にミスリード
引き起こす構成になっている。

とにかく、怪談部分異様に怖い
実在する場所極一般的な登場人物たち、そこに巻き起こるちょっと
した怪異。これが全5篇のエピソードとして続くことで、かなり壮大
なミステリーを醸成しているのだから凄い。

お世辞抜きで、これまで読んだホラー・オカルト系のミステリーの中
ではいちばんの内容かも。怪談部分で怖がらせるだけ怖がらせ、そこ
で油断したところで知らぬ間に張り巡らした伏線をキッチリ回収する。
芦沢央、ハッキリ言って只者では無い

しばらく続いちゃうだろうなぁ、芦沢央強化月間

特殊清掃人

#あなたの知らない世界


▼特殊清掃人 / 中山七里(Kindle版)

ラノベ強化月間(^^;)もようやく終了したので、久々にUnlimitedを徘徊。
読む本に困った時にはこの人、ということで中山七里作品をチョイス。

「特殊清掃」を営む会社の社長と、そこに勤める男女二人の物語で、四篇
から成る連作短編集。ここで言う特殊清掃のターゲットは、カンタンに言
うと「死体の出た部屋」。自殺や事故で死体が出て、それが腐乱した場合、
床板等に大きな影響が出る。その部分をリフォームした上で、沸いた
ハエを除去、場合によっては遺品整理まで行う模様。

あまりに特殊な世界、と思いがちだが、もしかしたら身近な話かも。
最近では「一人暮らしの孤独死」なんて吐いて捨てるほどあるし、将来的
に自分がそうなる可能性もかなり高確率。そう考えながら読むと、ちょっ
としたホラーよりよっぽど恐怖を感じた。

そしてさすがは中山七里、各篇でしっかりどんでん返しを用意していると
ころがニクい。ミステリーとしてもやっぱり一級品だから、その手が好き
な人には強力にオススメしときます。

コレは続編が欲しい!さすがだな、この作家は。