スイート・マイホーム

#オズミス


▼スイート・マイホーム / 神津凛子(Kindle版)

LINEで送られて来るダ・ヴィンチニュースのトップ記事にて、「史上最恐の
ミステリー!」なるキャッチの付いた作品。さらには、「イヤミスを超えた
オゾミス(おぞましいミステリー)」などの記述も。あのダ・ヴィンチにこ
こまで推されてしまっては、読まないワケにはいかない。ということで速攻
で購入してみた。

神津凛子なる作家はもちろんコレが初めて。
著者的にもデビュー作らしく、この作品で第13回小説現代長編新人賞を受賞。
まぁ、過度な期待をしてしまったことは間違い無いのだけど・・・。

まず、「ミステリー」というよりは「ホラー」にカテゴライズされるべき作品。
物語の構成と、主人公が『1台のエアコンで家中を暖められる「まほうの家」
を購入する』というディテールは凄く良いのだが、文章がやや説明的で読んで
いるうちにネタバレしてしまうのが非常に残念。中盤からおおよそ内容が見え
てしまい、謎解きに関する興味は殆ど無くなってしまった。

それでも緊張感は持続したのだから、才能ある作家なことは間違い無い。
ただ、「イヤミスを超えたオゾミス」という表現に関しては真っ向から否定
べき。おぞましかったのはラストシーンだけで、それすらかなり無理矢理な感
は否めなかった。

・・・これはちょっとダ・ヴィンチの紹介記事がやや誇大だったかも(^^;)。
気の毒に思わなくも無いが、前記の通り才能は多々ありそうなので、次回作に
期待は出来る。もう少しミステリーの要素が進歩しさえすえば大化けする可能
性大。ちょっと期待しときます。

おひとりさま作家、いよいよ猫を飼う

#マリモ様


▼おひとりさま作家、いよいよ猫を飼う / 真梨幸子(Kindle版)

我が「教祖」こと、真梨幸子新作
なんとまさかのエッセイ。もしかしたら初めてなんじゃなかろうか?と思い、
これまでの読書記録をチェックしたところ、Kindle限定販売の「私的怪談」
以来。まぁ、あの作品はエッセイか?と問われるとやや謎なのだけど。

これまで彼女の全ての著作を熟読し、サイトに掲載されたインタビューバイ
オグラフィーの類いも貪るように読んで来た僕のアタマの中には、彼女がその
時々で置かれていた状況が手に取るように解る・・・気がする(^^;)。
だから、いわゆる「普通の文章」であり、ウィットに富んだユーモアに溢れる
口語体の作品であっても、何故だか切迫する恐怖感に苛まれてしまう。
この作品で初めて真梨幸子に触れ、面白い作家だ!と思った人は、是非目次の
ページで各章のタイトルを確認して欲しい。
「生存確認」・・・こんな恐ろしい章題を思いつくのだ、この人は。

完全に心を掴まれちゃってるんだよな、幸子サマには。
だから、エッセイを読んでも何故か「悪意」を感じるし、いつものようにドキ
ドキ感も止まらない。小説も良いが、エッセイストとしての腕も相当なモノだ
と思う。以降、定期的にエッセイ集を出してくれると嬉しいかも。

ただ!
twitterやブログ等でお馴染みの愛娘・マリモ様に関する記述に関しては、
圧倒的に「愛」だけを感じた。というのは本当に恐ろしい。あの真梨幸子
さえも、普通の女性にしてしまうのだから。

マリモ様ビジュアルの年賀状、僕も欲しいなぁ・・・。カワイイ・・・。

検事の信義

#秋霜烈日


▼検事の信義「佐方貞人」シリーズ / 柚月裕子(Kindle版)

柚月裕子・佐方貞人シリーズの新作。
物語の時系列で言えば、主役の佐方貞人は現在「弁護士」であるハズ。前作の
「検事の死命」で検事時代の活躍は最後、と勝手に思っていたのだが、どうや
まだまだ続く模様(^^;)。ちなみにこの本での佐方は“任官5年目”らしい。

今回も全4篇からなる連作短編集
佐方の若々しい正義感は5年後もしっかり健在、今回も権力的優位者や同業の
他者(警察組織など)としっかり闘っているのだが、状況はこれまでよりやや
厳しい感。ギリギリのところで正義を貫いているものの、方法論に“寝技”的な
要素が見え始めているところが興味深い。

このシリーズが面白いのは、佐方の行う「推理」が他のミステリーと間違い無
く一線を画していること。彼の訐く事件の“真相”は、事件の犯人を炙り出すこ
とではなく、事件を起こした原因を突き止めること。その結果、たとえその案
件が“問題判決”(検察庁として納得し難い判決)となってしまっても、検事と
しての行動原理「罪はまっとうに裁かれなければならない」を愚直に遂行する。
その様は外連味の無い爽快さ。コレ、他のリーガルミステリーにありそうで無
い要素な気がする。

心情描写も相変わらず見事。最終章の「信義を守る」は、介護疲れから自らの
母親を殺害した男の物語だが、読み終えた後しばらく涙が止まらなかった程の
もの凄さ。この作家が描く人間ドラマは、やるせない美しさに溢れている。

このシリーズ、ここから先が本当に楽しみ。
佐方が何故「検事」を辞めたのか?それが明らかになるエピソードが、最大の
見どころになる、と思う。それを読むまで止められないな、もう。

MEKAKUCITY RELOAD

#メカクシ団 #カゲロウプロジェクト


▼メカクシティリロード / じん(自然の敵P)

最近情報を取りに行っていなかったので、昨年11月にリリースされていた
ことすら知らなかったカゲロウプロジェクトの新作を入手。ジングル・アウ
トロを含めた全9トラック、ボーカルはおそらくI.A

MEKAKUCITY M’sリアル・ボーカリスト・バージョンを聴いてしまったが
ゆえに、やはりボカロでは若干物足りなくなってしまったかも。ということ
で、大好きな“歌ってみた・ゆめこバージョン”にて。

相変わらず楽曲の完成度は異様に高い。
じんの曲は音符の運びがある種異様で、それが中毒化を増長させてくれる。
ギタリストとしても超一流、とんでもないフレーズが飛び交うのが凄い。
こういう「天才」が、誰にも邪魔されずに音楽を創る環境が今は普通にある。

だけどやっぱり、歌はリアルが好ましい。
このアルバムのボーカルバージョン出してくれないかなぁ・・・。

死にがいを求めて生きているの

#螺旋プロジェクト


▼死にがいを求めて生きているの / 朝井リョウ(Kindle版)

「螺旋プロジェクト」第一弾としてリリースされたのは朝井リョウ作品。
この作品の時代設定は「平成」、場所は主に「北海道」。つまり、現代
舞台とした作品である。

この時代、特に初期〜中期の平成の主役になるのは、やはり「ゆとり」
時代の趨勢は競争を否定し、あの有名な歌のように誰もがナンバーワン
ではなくオンリーワンになろうとした。それが良かったのか、それとも
悪かったのかは僕にはよく解らないが、彼らが行き場の無い承認要求
持て余し、SNSに走る、というある種“歪”な社会を構成したのは間違い
無い。この作品では、プロジェクトの概念である「海族と山族の争い」
をしっかり踏襲しながら、時代に翻弄される若者たちの姿を、痛みたっ
ぷりに描いているのが見事。

朝井リョウと言えば、「桐島」「何者」に代表されるヒューマンドラマ
の第一人者。螺旋プロジェクトの中でもかなり重要な年代であると思われ
「平成」という時代を担当したのが、朝井リョウという稀有人間描写
のスペシャリストであったのは、大きな幸運だった気がする。

まちがいなく、いろいろな意味で「重い」作品。
ゆとり世代でない僕にも思い当たる部分が多々あるし、そこを刺されると
心にチクチクと痛みが走る。全編に渡ってそういう感覚が続いてしまうこ
とを、覚悟して読むべし。

・・・それでも、読み始めたら止められないだろうな、この作品。