殺した夫が帰ってきました

#タイトル問題


▼殺した夫が帰ってきました / 桜井美奈(Kindle版)

Kindle Unlimitedから最近のチョイス。
桜井美奈、失礼ながら全く知らない作家さんだが、コレはかなり直球
タイトルに惹かれた。結構なホラーが読めると踏んだのだが・・・。

驚く勿れ、かなり本格的なミステリー
全体の中に数段階のどんでん返しが盛り込まれている上に、随所に巧妙
ミスリードを誘う文章が配置されている。台詞回しや状況説明の文書
にも無理は無く、しっかり「読ませてくれる」作品であった。

内容も実はかなり重く、ストーカー幼児虐待DV、果てはあの震災
も踏み込んでおり、ヒューマンドラマとして読んでもインパクトは絶大
まさかこんなところで、ここまでしっかりしたミステリーが読めるとは
思わなかった。

・・・故に、このタイトルの付け方は非常に微妙(^^;)。
僕はまんまとやられたが、わりと多数居る筈の『ホラーを嫌うミステリ
ー愛好家』にとっては、思いっきり逆効果になる気がする。コレは作家
の所為ではなくて、書籍編集者の責任かと。かなりの傑作なのだから、
そういう人たちに響くネーミングをして欲しかった(^^;)。

とにかく桜井美奈、注目しておいて損は無いかも。
著作も結構あるようなので、取り敢えず短編集あたりから手を出してみ
ようかな?

初めて彼を買った日

#ERO


▼初めて彼を買った日 / 石田衣良(Kindle版)

こちらもKindle Unlimited × 講談社フェア作品だが、石田衣良はさすが
知っている作家(^^;)。何作か読んだ覚えもあるので、わりと信頼感
持った上で読み始めたのだが・・・。

・・・え〜、官能小説でした(^^;)。
具体的に言うと、全8篇+付録からなる短編集で、男女の区別無く様々
『性』が、独特なタッチで描かれている。のだが!

ごめん、コレは非常に中途半端(^^;)。
どの篇にも共通しているのは、全てにオチがついていない、ということ。
おそらく今後の展開を想像させるためのギミックだとは思うのだが、個
人的にはそこまでその先を考えなければならなくなる程では無い。結果、
消化不良の内容を8篇も読まされるのはそこそこ“苦行”であった。

さらに言えば、もっと極端にエロに振っても良かったのでは無いかと。
正直、描写の仕方が妙にスタイリッシュで、ハッキリ言えばハナに付く
だから、エロ小説としては全く食い足りないし、興奮したりもしない。
場面設定はそれなりに興味深かっただけに、非常に惜しかった。

この作品に関しては、ただただ残念(^^;)。
他の人はどう思うのかなぁ、こういう短編集・・・。

ジウX

#歌舞伎町セブン


▼ジウX / 誉田哲也(Kindle版)

Kindle Unlimited × 講談社フェアを一旦中断
誉田哲也最新作にして、ファン待望のジウSAGA・歌舞伎町セブンシリ
ーズの最新作がリリースされたからに他ならない。そりゃあ先に読みた
くなるよな、コッチを(^^;)。

ジウSAGAシリーズとしては、4年前の短編集『歌舞伎町ゲノム』以来。
随分間が空いてしまったので、いろんなことを忘れてしまっていたのが
ちょっと不味かった(^^;)。イントロダクションからグロさ全開、思わ
ず目を背けてしまう程の残酷な描写が矢継ぎ早に繰り出される。いや、
元々誉田哲也の警察小説の「売り」は、このハードコアながらもリア
リティに溢れる表現であったハズ。心構えをちゃんとしなかった僕が
悪い(^^;)。

今作のキーワードは「中国」
ジウSAGAはこれまでもかなり重いテーマを扱っていたが、今回のソレ
は少し・・・いや、かなりヤバイところまで踏み込んだ気配が。陰惨な殺
人事件が立て続けに起こるので目が逸らされがちだが、その辺りを無視
してもう一度読むと、ソチラの方がよっぽど怖い。今回は本当にいろい
考えさせられた気がする。

そしてニッチな部分でも幾つか。
今回も登場した謎の組織「NWO」新世界秩序、いわゆるニュー・ワ
ールド・オーダー頭3文字だが、我々としては「nWo」と表記して欲
しいところ(^^;)。それだとまんまなのかなぁ、やっぱり(^^;)。

もう一つは、唐突に登場した『藤波辰巳』という固有名詞
この作品世界に藤波さんを登場させるセンスに、多大なるシンパシー
を感じた。やっぱり解ってるよな、誉田哲也。

しかし、今回もとんでもないところで唐突に終わってしまったのが残念
と言えば残念(^^;)。毎回のことだからしょうがないのだけど、さすが
にこの続きは一刻も早く読ませて欲しいところ。せめて2年で!

愛されなくても別に

#別に、何?


▼愛されなくても別に / 武田綾乃(Kindle版)

Kindle Unlimited × 講談社のフェア作品より。
コレをチョイスしたのは、ちょっと前に少しだけハマッたアニメ「響け!
ユーフォニアム」の原作者がこの作家・武田綾乃だったのが原因。だから、
それなりに前向きな内容を予想していたのだが・・・。

学費・生活費のためにアルバイトに明け暮れる女子大生が、ある日使わず
に取っておいたハズの奨学金実の母親に使い込まれていた事を知り、家
を出て行く事に。同じバイト先で働く同級生の家に転がり込むのだが、そ
こで今まで知らなかった感情に目覚めて・・・という内容。

誤解を恐れずに言えば、ある種の「虐待」から逃れようとする女性の物語。
故に物語はかなり重いトーンで進むし、ラストまでに明確な「救い」があ
るワケでも無い。先月読んだノンフィクション『東京貧困女子』で奨学金
のあくどい仕組みも知ってしまっただけに、主人公の将来が気の毒に思え
てしまう。正直、読後はちょっとしたモヤモヤが残った。

ただ、読むのが辛い内容なのにも関わらず、とにかく最後まで読ませてし
まう文章力はかなりのモノかと。出来ればもう少し明るめな内容の別作品
を読んでみたいなぁ、この作家さん・・・。

半グレ

#NEO GANG


▼半グレ / 草下シンヤ(Kindle版)

こちらもKindle Unlimited × 講談社のフェア作品。
言葉は知っていてもその実態がイマイチピンとこない『半グレ』の世界の
構造がよく解るように構成されたフィクション。作者の草下シンヤ氏、他
著にアンダーグラウンド系ノンフィクションが多々。おそらくその道の
プロ、と思われる。

就職難でなかなか内定の取れない大学生。家庭の事情でどうしても新卒
就職せねばならず、藁をも掴む思いで面接を受けたイベント会社が、実は
半グレ団体である環状連合フロント企業。就職後にその事実を知り、な
んとか転職しようとするのだが、いろいろな事情で抜け出せず、そのまま
どっぷりとその世界に染まっていく・・・という内容。

僕は現・元を問わず、いわゆる半グレと呼ばれる団体の構成員との接点が
これまでに全くと言って良い程無い。辛うじてそういう人の使い走りをや
らされていたヤツを一人知っているくらいな上、ソイツがこれまで知り合
った人の中でも群を抜くレベルのバカだったので、その世界の様子の断片
すら知ることが出来なかった。

なので、この作品の内容がリアルなのかどうかは、正直解らない(^^;)。
しかしリアリティはなかなかのモノで、思った以上に引き込まれる。以前
はよく読んでいた任侠系のマンガと似たような読後感ではあるのだが、
こちらの方はいわゆる「救い」の類が一切無い。絶望的なバッドエンド
含め、非常によく出来た作品だと思う。

しかし、コレがリアルに近いとしたら怖い世界だなぁ、半グレ。
今後も絶対に関わらないようにしよう、マジで。