みとりねこ

#最強猫作家


▼みとりねこ / 有川ひろ

およそ1年半ぶりとなる有川ひろ新作
いわゆる短編集で、共通テーマは「猫」。既に各所で発表されていた
6篇に書き下ろしが1篇足され、全7篇の単行本となっている。

さて。
有川作品で表紙が村上勉猫のイラスト、となると、どうしてもあの
名作「旅猫リポート」を思い出さずにいられない。旅猫は僕に史上最
大量の涙を流させた小説であり、思い入れの深さは尋常ではない。
アレと比べちゃうのは正直どうかと思ったのだけど・・・。

悪い言葉なのを解った上で言うと、構成はかなりの「寄せ集め」
初出が2012年から2021年とあまりに幅が広い上に、全7篇のうち2篇
既に読んだことのある話。こういう場合、ちょっと損したなぁ、と
思うことが殆どなのだが・・・。

・・・いやぁ、またやられました(^^;)。
冒頭の旅猫外伝2篇(うち1つは既読の話にも関わらず)で盛大に泣か
され、後半の最近書かれた作品2篇でやたらとほっこり。そしてタイト
ルになっているラストの篇で、今度はさめざめと泣かされた

前作「イマジン?」の時にも感じたのだが、読後に「有川ひろの本を
読んだ!」という幸せな充実感に包まれた。未だにリリースのペース
はゆっくりなままだけど、こういう気分が味わえるのであれば、多少
のブランクは我慢出来る。次は書き下ろし長編で、存分に有川ワール
ドを魅せつけて欲しい。

・・・ま、1年に1冊くらい新作が読みたい、が本音ではありますが(^^;)。

フロンティアは終わらない

#有刺鉄線


▼フロンティアは終わらない / 武内正義(Kindle版)

Kindle Unlimitedのリコメンドに出て来たプロレス本
サブタイは『有刺鉄線に捲き込まれた「神様」とFMWの日々』
著者の武内正義さんは、大仁田厚率いる旧FMW時代から外国人バスの
運転手を務めた方で、ボードバットなどの有刺鉄線アイテムを製作
していた職人さん。凄く期待して読んだのだけど・・・。

・・・いやぁ、この本はちょっと酷い構成(^^;)。
武内さんの本の筈なのに、巻頭・巻末で寄稿している関係者(^^;)の
件が異様に長い上に、武内さんの偉業に殆ど触れていない、という
体たらく。文中に差し込まれているプロレスラーたちのコメントは
しっかり内容に沿っていただけに、最初と終わりの無駄さが際立つ、
という最悪の結果。特に最後はマジで無い方が良かった、とハッキ
リ言える。

ソコに束を使うのであれば、もっと外国人レスラーたちのエピソー
ドが読みたかった。武内さん、ちょっと気の毒です・・・。

死の臓器2

#移植ビジネス


▼死の臓器2 闇移植 / 麻野涼(Kindle版)

こないだ読破した麻野涼「死の臓器」の続編
すっかり医療系TVディレクターとして認知された沼崎だが、今回巻き
込まれたのは【心臓移植】。果たして心臓は臓器なのか?と問わ
れると、ちょっと疑問は残るのだが・・・。

・・・う〜ん、コレはちょっと。
小説なので、もちろん解りやすい悪役は存在するし、そこまで行かな
い「小狡い」系のヒールも多々登場する。ただ、その全員が「闇落ち」
したのには明確な理由があり、その心を思うと一概には責められない
気がして、ちょっと考え込んでしまった。

何よりも物語の終わりで一人、『徹底的な犠牲者』が出てしまう。
そこを回収しないままエンディングを迎えてしまったので、読後感
非常によろしくない

移植ビジネスの光と闇がよく解る作品だっただけに、物語としての完
成度がやや低かったのがちょっと残念。難しいなぁ、この問題・・・。

死の臓器

#修復腎


▼死の臓器 / 麻野涼(Kindle版)

Kindle Unlimitedのリコメンドに出て来た作品。
麻野涼という作家名に見覚えがあったような気がしたので事前に調べた
ところ、どうやら読書履歴無し。タイトルからして大好物医療ミステ
リーであることは間違いないし、加えて初めての作家。ちょっとドキド
キしながら読み始めた。

ワケアリTVディレクターが、富士樹海のロケで女性の死体を発見。
コレがちょっとしたスクープとなり、人生に明るい兆しが見えてくる。
検死の結果、死体からは腎臓が抜き取られていることが確認されたが、
身元は不明のママ。コレに一念発起したTVディレクターは、死体の身
元についての独自捜査を始める。同じ頃、熊本泌尿器科医は、警察か
ら任意の取り調べを受けることに。容疑は身に覚えの無い「臓器売買」
この2つの事件が、とんでもない事実からリンクして行く・・・という感じ。

これ、なかなかのヒット
臓器移植のチャンスを心待ちにする人工透析患者とその家族の現実が浮
き彫りにされる、という社会派な切り口が功を奏し、そこで葛藤する医
師の心情が痛いほど伝わってくる。さらに、透析を利用して良からぬこ
とを企てる悪の勢力の暗躍もあるので、とにかく緊張感を切らずに楽し
むことが出来た。

ただ、ミステリーおよびハードボイルドの構成処理は、正直稚拙
真相が読めた、ということではなく、「え、それがオチなの?」という
ラストの処理があまりに残念。

もちろん全体的には上質な佳作であると思うし、今後の展開も期待でき
るストーリーなのは間違いない。取り敢えず、続編も読んでみるか・・・。

独学のプロレス

#究極龍


▼独学のプロレス / ウルティモ・ドラゴン, 小佐野影浩(Kindle版)

究極龍こと、ウルティモ・ドラゴンプロレス人生が記された作品。
元週刊ゴングの小佐野編集長との共著であり、ウルティモの語り下ろしと
小佐野さんの状況分析の組み合わせで構成されている自伝本。

90年代獣神サンダー・ライガーグレート・サスケと共に、ジュニア
の黄金時代を創ったプロレスラーがウルティモ。浅井嘉浩としてユニバ
ーサルに初登場した時は、その華麗な空中殺法に度肝を抜かれたし、そ
の後の見事なまでの「成り上がり」っぷりも実に見事。何よりも評価に
値するのが今のドラゴンゲートに繋がる闘龍門を作ったこと。このプロ
レスラー養成学校が存在しなければ、冗談抜きで今のプロレスは存在し
なかった、と言って過言は無い気がする。

プロレスから離れたところでも、ウルティモのグローバルセンスに注目
すべき。海外を主戦場する選手は多々居るが、ウルティモほど様々な国
で活躍した日本人プロレスラーを僕は知らない。この本を一読すればよ
く解るのだが、海外に対する良い意味での「恐れの無さ」に関しては、
彼が持ち得た天賦の才だと思う。こういう感覚、出来れば僕も持って生
まれたかった。

とても良いドキュメントなのだけど、願わくばもう少し遅い段階でこの
作品を読みたかったかも。具体的には引退後、もうリングに立たなくな
った浅井嘉浩の口から語られる話であれば、普通に感動出来た気がする。
ココで引退を匂わせるのは、ちょっとだけ切ない。できることならこれ
から先もずっと、現役のプロレスラーでいて欲しいので。