EGGS

#武道館23時集合


▼EGGS / 中江嘉孝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先週、何かの拍子に急に思い出したマンガがあった。
しかし、思い出せたのは「内容」のみ。作者はもちろん、タイトルすら
忘れており、いろんなワードを頼りにネット検索。1時間くらい頑張り、
ようやくタイトルが判明。Amazonに古本が出品されていることを知り、
速攻で注文したのがこの1993年の作品。

どんな内容かと言うと、【コンサートアルバイト】の世界を描いたモノ。
あの頃は本当にありとあらゆる世界マンガになっており、何が書かれ
ても驚かなかったのだが、さすがにコレが出て来た時は驚いた。まさか
こんなニッチな分野の青春モノが刊行されるとは、と。

僕自身、ずっとコンサートバイトをやっていたクチ。
あの頃は明確に音楽が好きで、このバイトをしてればタダでライブが観
られるんじゃないか?というあまりに不埒な理由(^^;)で始めたのだけど、
実際やってみるとそんな事が全く考えられない程にハード100kg近く
スピーカーを運ばなければならないし、照明セッティング中は数時間
舞台にただ立ち続けなければならない。警備に立てば絶対にステージの
方を振り返ることは出来ないし、弁当を食べる時間は約10分。当時流行
りの言葉で言えば、3K極地のような仕事だった。

それでも続けていたのは、そこに集まる人たちがあまりに個性的であり、
その集団の中に居るのが本当に心地よかったから。結局このバイトから
発展する形で仕事を選び、今に至っちゃってるのだから我ながら凄いと
思う。

そういう極悪だけど素敵な世界が、しっかり正直に描かれた佳作。
中江嘉孝というマンガ家は間違い無く僕らとほぼ同じ時期にこの仕事を
していた人間で、その辛さも楽しさも知っている「同志」なハズ。
残念ながらコレ以降での著作は発見出来ないけど、渾身の作品を残して
くれた、と僕は思う。

個人的にはノスタルジーに浸れるが、そうでない人にもきっと響く。
額に汗して働くことの意味がきっと解るハズなので、万人が読むべし。
古本でもなんでもいいから入手せよ!

フシギ

#イヤミスの教祖 #ミスリードメーカー


▼フシギ / 真梨幸子(Kindle版)

ちょっとビックリ、なんと真梨幸子新作
前作「聖女か悪女」からまだ3ヶ月も経っていないことを考えると、この
ペースは驚異的。そしてファンとしてはもちろん嬉しいリリース。

今回も女史最大の持ち味である「イヤミス」のテイストは全篇にしっかり
ばらまかれている。状況描写だけでグロッとした雰囲気を出せるのはさす
がと言う他無いのだが、今作はちょっと違う感想が先に来た。それが何か
と言うと・・・。

・・・完っ全に騙された(^^;)。
中山七里に代表される「どんでん返し」は大好物なのだが、それらに引け
を取らない驚愕のオチ。個人的にミステリーはそこそこ読み込んでいる、
という自負があり、最近では結末に驚くことは殆ど無いのだが、今回は久
しぶりに気持ち良いくらいビックリした。終盤、「え〜!」という言葉が
本当に口を付いて出てしまったのだから。

誤解を恐れずに書くと、今作のどんでん返し、ハッキリ言って非常によく
あると思われるパターン。にも関わらず、最後まで全く気付かなかったの
は、何重にも仕掛けられたミスリードのテクニックが【超絶】のレベルま
で上がった、ということ。

これまでは幸子サマを『イヤミスの教祖』として崇めて来たが、今回から
新たに『ミスリードメーカー』の称号を付加したい。脱帽ですよ、ええ。

だからミステリー好きはもちろん、オカルトマニアの皆様も是非。
・・・さすがにちょっと空いちゃうのかなぁ、次は(^^;)。

虚の王

#渋谷ノワール


▼虚の王 / 馳星周(Kindle版)

読むべき本がまもなくリリース、というタイミングで、繋ぎとしてチョイ
スしたのは定番・馳星周作品。これまで読んだ多くの馳作品と同様、善人
が一人も出てこないザ・ノワール

舞台は渋谷。主人公はかつて伝説のチーマーとして渋谷に君臨しながら、
現在は末端のヤクザでシャブの売人に身を落とした男。渋谷で高校生の集
団が売春を組織化していることに気付き、コレを乗っ取ろうとするのだが、
そこには得体の知れないリーダーが居て・・・という内容。

いわゆるネオ・ブランク・ジェネレーション世代の恐ろしさを描くのが狙
いなのだと思う。渋谷を根城にしている連中は昔からヤバいヤツが多かっ
たが、その「ヤバさ」極限まで誇張した内容。自分さえ良ければ平気で
仲間を裏切り、なんならカンタンに人を殺すのに、心にダメージを一切受
けない、という、完全なるサイコパスが登場してくるのが凄い。

例えば代表作の「不夜城」にも恐ろしい連中が多々登場するが、彼らは確
実に【理由】があって悪に染まっていた。しかし、この作品の「暗」を担
っているキャラには明確な理由がほぼ見えない。それ故に、底の知れない
恐ろしさが溢れ、連続して読むことが出来なかった。

馳作品の読後感の悪さは定評があるが、コレは更に一段階上の極悪作品
こういうのが大好物の僕でもちょっと引いたので、さすがに万人にオスス
メというワケには行かないかなぁ・・・。

ギラギラ幸福論 黒の章

#世界一性格の悪い男


▼ギラギラ幸福論 黒の章 / 鈴木みのる(Kindle版)

【白の章】から続く鈴木みのるインタビュー集
2019年から先の話題かと思いきや、これまでの書籍でカバーしきれなか
った「KAMINOGE」のインタビューをまとめたモノらしい。従って年代は
多岐に渡っている。

続きモノを期待していたのでちょっと残念ではあったのだが、新生UWF
藤原組パンクラス時代の話が出てくるところがポイント。昔のことをあ
まり喋らない鈴木だが、ただ懐かしさに訴えるのではなく、しっかり近年
の動きと絡めたエピソードにしていることに思わず感心してしまった。

ここ2〜3年の新日本プロレスは、しっかりと新陳代謝が進んでおり、僕と
同年代の選手は皆「窓際」に追いやられている。功労者と言って過言の無
永田・天山・小島あたりも基本は前座であり、それがやや寂しかったり
するのだが、鈴木だけは違う。今もしっかりタイトル戦線に絡むし、一度
は外されたG1クライマックスにも再び出場している。こうなったら鈴木が
どこまで第一線で活躍出来るか、最後まで見届けたいと思う。

諦めちゃいけないんだよな、本当は・・・。解ってはいるんだけど・・・。

ギラギラ幸福論 白の章

#世界一性格の悪い男


▼ギラギラ幸福論 白の章 / 鈴木みのる(Kindle版)

名著「プロレスで〈自由〉になる方法」続編
こちらも雑誌「KAMINOGE」の連載をまとめたモノで、時期的には著者の
鈴木みのるがNOAHのリングを去って新日本に戻って来た2018年頃の話題
が中心となっている。

鈴木みのるの口調は明らかに皮肉に満ちており、普通の人が読んだ場合は
けして気持ちの良い表現では無い気がする。誤解を恐れずに言うと、多く
の人が「お前何様?」的な感覚を持つと思うのだが、鈴木みのるという男
をずっと観て来た我々は全く文句が言えない。いや、もちろん鼻に付く発
言は多々あるのだけど、それでもそれらを完全に否定することが出来ない。

とにかく鈴木みのる、本人はけして周囲にそう言われたくないだろうけど、
間違い無く「頑張っている」。この世には僕を含めてこの単純なことが全
く出来ないヤツが殆ど。それが解るからこそ、鈴木の発言には「説得力」
が溢れる。ぐうの音も出ない程に。

コレは紛うこと無きプロレス本。でも、「現状維持を目指したら緩やかに
落ちて行くだけ」とか、「世界一になるのを諦めることを止めた」とか、
誰かの人生に影響を与えそうな言葉を幾つも発見出来る。もし可能ならば、
僕も鈴木みのると同じような気持ちで残りの人生を過ごしたいのだが・・・。

この本は上下巻であり、まだ【黒の章】を残している。
次を読み終わった時、もしかしたら啓発されている可能性アリ。
やっぱ鈴木ってすげぇわ・・・。