殉狂者(上)

#セクトブギウギ


▼殉狂者(上) / 馳星周(Kindle版)

さて今回も馳星周作品。限りなく作品のある作家を好きになると、読むモ
ノに困らなくなるのが良い。

今回は上下巻、タイトルからしてハードボイルドな感じだが、これまでの
経験値で疑ってかかったのだが、これはもう紛うこと無きハードボイルド
1972年2005年2つのタイムラインで進む物語で、前者の主役は学生
運動が嵩じてスペインでテロリストとなった日本人、後者の主役はその息
子で日西ハーフのスペイン人柔道家。舞台はスペインである。

全共闘の時代はさすがに僕もリアルタイムでは無いが、若者の迸る感情が
危険な行為に走ってしまう、という状況は、小説はもちろん、ドラマや映
画で数限りなく見聞きしてきた。となると、食傷気味になってもおかしく
無いのだが、現場がスペイン、それもバスク地方であることが新鮮。海外
のテロ組織とその存在理由が、日本のソレと大きく異なるのが興味深い。

バタバタと人が死ぬハードな話だが、ミステリーとしてもかなりなモノ。
上巻では様々な伏線が散りばめられており、下巻でそれらがどう回収さ
れていくのか、今から楽しみ。

あと、バスク料理が強烈に食べたい。東京に幾つかあるらしいんだけど、
どこがいいんだろうか?

永遠の最強王者 ジャンボ鶴田

#おそらく最強だった善戦マン


▼永遠の最強王者 ジャンボ鶴田 / 小佐野景浩

G1中はほぼプロレスのトピックで埋まるこのブログ。狭間の移動日くらい
はプロレスから離れれば良いのだけど、今日の書評もプロレスモノに(^^;)。

全日本プロレスの“初代絶対王者”こと、ジャンボ鶴田の評伝。
著者は元週刊ゴング小佐野景浩編集長。業界では「天龍番」として知られて
いた記者が、鶴田の一生を描く、というのがまず面白い。

とにかく、半端じゃない文章量にまず驚かされる。
書かれているのは紛れもなく正確な事実ばかり。週刊ゴングという雑誌がど
れだけ丁寧な取材をしていたかが非常によく解る構成。これに加え、小佐野
さんという超一流の編集者が絶妙なバランスで解説を入れる。こういう書籍
だと鶴田を褒めちぎる内容に終始するのが普通なのだが、否定的な意見もし
っかり記述。きちんと「フェア」な作品になっていると思う。

ジャンボ鶴田の怪物的な強さは、昭和からのプロレスファンなら誰もが認め
るところ。しかし、その認識がついたのは天龍革命以降。もし天龍があのタ
イミングで鶴田に牙を剥かなかったら、僕らがジャンボ鶴田に対して持った
イメージは「善戦マン」で終わっていたハズ。悪い言い方をするのであれば、
「ちょっとマシな木村健悟」くらいのレベルである。

これは、元々怪物的なポテンシャルを持っていながら突き抜けられなかった
男が、どのように覚醒していったのか?を追った物語。だから、正直あまり
ジャンボ鶴田に思い入れの無い僕でも、興味を切らさずにしっかり読了する
ことが出来た。

ジャンボ鶴田が亡くなって、もう20年が経過する。
かなり遅くなったけど、ようやくジャンボ鶴田の一生がしっかりした作品と
してまとまったことを、とても嬉しく思う次第。

・・・そして、関係者の皆様は続いて藤波辰爾の評伝リリースを検討して欲しい。
猪木馬場も、天龍鶴田も、そして前田長州でさえもしっかりした書籍
が存在するのに、藤波の作品が無い、というのは大問題。藤波さんご本人が
元気なうちに、是非!

走ろうぜ、マージ

#犬と暮らすということ


▼走ろうぜ、マージ / 馳星周(Kindle版)

続く馳星周強化月間、今回はノンフィクション
既にレビュー済みの「ソウルメイトII」の大元になった(であろう)実話で、
作者自身の綴る日記が一冊の本になっている。

犬好きで知られる馳星周が、最初に自分の犬として迎えたのが、バーニー
ズマウンテンドッグの雌・マージ。この犬種にしては珍しく10年以上生き
た彼女と、ボスである馳星周の最後の3ヶ月間が描かれている。

僕が馳氏をリスペクトせざるを得ないのが、「犬を飼う」人としての条件
最高級のレベルで満たしており、その上で心の底からの愛情を犬に注い
でいること。単純に大型犬を飼う、という行為だけでも、例えば予算的な
ハードルは相当高い。自由になるお金が潤沢にあり、ある程度時間が自由
に使え、犬のためになんでも出来る。そのくらいの位置に行かなければ、
犬を飼う資格は無いんじゃないか?と思わざるを得ない。

少なくとも、馳氏とマージが圧倒的なまでの信頼感で結ばれていたのは間
違い無い。マージは絶対に幸せだったし、その後も一貫して多数のバーニ
ーズの一生を見つめ続けている馳氏は本当に凄い人であり、憧れるべき人。
大型犬と共に暮らそう、と考えている人は、コレを読んでおくべきだ。

かなりネガティブな印象レビューになってしまったが、言いたいのはこの
作品が「犬と共に暮らすことの辛さ・厳しさ」、そして何よりも「喜び」
が伝わるすばらしいノンフィクションである、ということ。クライマック
スの生々しさには思わず目を背けてしまったが、あとがきまで含めて読了
出来、本当に良かったと思う。

幸せな犬が、無尽蔵に増えるといいなぁ・・・。

アンタッチャブル

#これまでにない公安モノ


▼アンタッチャブル / 馳星周(Kindle版)

エンドレス状態となっている馳星周強化月間
今回は幾つかの候補の中からしっかり紹介文を読み込み、雰囲気的にハー
ドだと思われる作品をチョイスしてみた。のだが!

主人公は警視庁捜査一課から左遷され、どうしたワケか公安に入る羽目に
なった刑事・宮澤。捜一から見ればある意味で敵対組織、公安にもちろん
宮澤を歓迎する気配は無く、「公安のお荷物」とされている椿とのコンビ
を余儀なくされる。ところがこの椿がとんでもない人物で・・・という内容。

他の作家の作品で公安を題材にした作品は多々読んでいるのだが、ここま
「笑い」に寄せた内容の作品は初めて。精神破綻している椿の言動が
まず面白いし、それに付き合わされて右往左往する宮澤の様子がソレに和
を掛けて面白い。ただ面白おかしいだけではなく、ちょっとゾッとする
うな真実や人間関係のもつれが絶妙に描写されており、ミステリーとして
の完成度もかなり高い。

さらに、この小説にはいわゆる「濡れ場」が多々。その表現が妙に艶めか
しい。馳星周、以前は官能小説の書き手だったらしく、そのテクニックに
も注目しておいた方が良い。

何よりもこういうアプローチの公安モノ、というのが新鮮で、最初から最
後までとにかく読ませてくれる。どうやら続編があるようなので、アンリ
ミテッド探索が終わったらすぐ読めるように買っておいた。

恐ろしくハマってるなぁ、馳星周・・・。

アルルカンと道化師

#倍返し


▼アルルカンと道化師 / 池井戸潤(Kindle版)

昨日大好評のうちに終了したTBSドラマ「半沢直樹」。前回同様、かなり
興奮させられた名作だったのだが、ほぼ同じタイミングで池井戸潤原作の
半沢直樹シリーズ第五弾を読了した。

前作「銀翼のイカロス」でほぼ行くところまで行ってしまった半沢。この
先は【銀行幹部物語】、ないしは【ROAD TO 頭取】的な物語を展開する
しかなくなった、と思っていたら、なんと時代は過去へタイムスリップ。
半沢が東京中央銀行・大阪西支店融資課長だった頃のエピソードであり、
敵役はこの後に半沢の倍返し敢行で奈落の底に叩き落とされることになる
浅野支店長。あと、小木曽(^^;)も出て来ます。

ロスジェネ辺りから仕事が大きくなり、なんとなく遠くへ行ってしまった
感の否めない半沢だっただけに、ここで過去エピソードで繋ぐ、というの
は非常に大胆な作戦。イカロスの時の「大手航空会社の再建」に比べれば、
等身大感情移入のし易い物語が展開される。

・・・結果、半沢シリーズの中でも屈指の作品となったかも。
池井戸センセイ、良い意味でドラマのテイストを最大限に生かし、主要登
場人物をドラマのキャストでほぼ当て書きしてるのが潔い。このシリーズ、
もしかしたら日本人がいちばん感情移入出来る小説な気がする。

既に半沢ロスを感じている僕だが、出来ればこの作品を早いところドラマ
にして欲しい。下町ロケットとかは、結構早かったんだけどなぁ、映像化