おひとりさま作家、いよいよ猫を飼う

#マリモ様


▼おひとりさま作家、いよいよ猫を飼う / 真梨幸子(Kindle版)

我が「教祖」こと、真梨幸子新作
なんとまさかのエッセイ。もしかしたら初めてなんじゃなかろうか?と思い、
これまでの読書記録をチェックしたところ、Kindle限定販売の「私的怪談」
以来。まぁ、あの作品はエッセイか?と問われるとやや謎なのだけど。

これまで彼女の全ての著作を熟読し、サイトに掲載されたインタビューバイ
オグラフィーの類いも貪るように読んで来た僕のアタマの中には、彼女がその
時々で置かれていた状況が手に取るように解る・・・気がする(^^;)。
だから、いわゆる「普通の文章」であり、ウィットに富んだユーモアに溢れる
口語体の作品であっても、何故だか切迫する恐怖感に苛まれてしまう。
この作品で初めて真梨幸子に触れ、面白い作家だ!と思った人は、是非目次の
ページで各章のタイトルを確認して欲しい。
「生存確認」・・・こんな恐ろしい章題を思いつくのだ、この人は。

完全に心を掴まれちゃってるんだよな、幸子サマには。
だから、エッセイを読んでも何故か「悪意」を感じるし、いつものようにドキ
ドキ感も止まらない。小説も良いが、エッセイストとしての腕も相当なモノだ
と思う。以降、定期的にエッセイ集を出してくれると嬉しいかも。

ただ!
twitterやブログ等でお馴染みの愛娘・マリモ様に関する記述に関しては、
圧倒的に「愛」だけを感じた。というのは本当に恐ろしい。あの真梨幸子
さえも、普通の女性にしてしまうのだから。

マリモ様ビジュアルの年賀状、僕も欲しいなぁ・・・。カワイイ・・・。

検事の信義

#秋霜烈日


▼検事の信義「佐方貞人」シリーズ / 柚月裕子(Kindle版)

柚月裕子・佐方貞人シリーズの新作。
物語の時系列で言えば、主役の佐方貞人は現在「弁護士」であるハズ。前作の
「検事の死命」で検事時代の活躍は最後、と勝手に思っていたのだが、どうや
まだまだ続く模様(^^;)。ちなみにこの本での佐方は“任官5年目”らしい。

今回も全4篇からなる連作短編集
佐方の若々しい正義感は5年後もしっかり健在、今回も権力的優位者や同業の
他者(警察組織など)としっかり闘っているのだが、状況はこれまでよりやや
厳しい感。ギリギリのところで正義を貫いているものの、方法論に“寝技”的な
要素が見え始めているところが興味深い。

このシリーズが面白いのは、佐方の行う「推理」が他のミステリーと間違い無
く一線を画していること。彼の訐く事件の“真相”は、事件の犯人を炙り出すこ
とではなく、事件を起こした原因を突き止めること。その結果、たとえその案
件が“問題判決”(検察庁として納得し難い判決)となってしまっても、検事と
しての行動原理「罪はまっとうに裁かれなければならない」を愚直に遂行する。
その様は外連味の無い爽快さ。コレ、他のリーガルミステリーにありそうで無
い要素な気がする。

心情描写も相変わらず見事。最終章の「信義を守る」は、介護疲れから自らの
母親を殺害した男の物語だが、読み終えた後しばらく涙が止まらなかった程の
もの凄さ。この作家が描く人間ドラマは、やるせない美しさに溢れている。

このシリーズ、ここから先が本当に楽しみ。
佐方が何故「検事」を辞めたのか?それが明らかになるエピソードが、最大の
見どころになる、と思う。それを読むまで止められないな、もう。

死にがいを求めて生きているの

#螺旋プロジェクト


▼死にがいを求めて生きているの / 朝井リョウ(Kindle版)

「螺旋プロジェクト」第一弾としてリリースされたのは朝井リョウ作品。
この作品の時代設定は「平成」、場所は主に「北海道」。つまり、現代
舞台とした作品である。

この時代、特に初期〜中期の平成の主役になるのは、やはり「ゆとり」
時代の趨勢は競争を否定し、あの有名な歌のように誰もがナンバーワン
ではなくオンリーワンになろうとした。それが良かったのか、それとも
悪かったのかは僕にはよく解らないが、彼らが行き場の無い承認要求
持て余し、SNSに走る、というある種“歪”な社会を構成したのは間違い
無い。この作品では、プロジェクトの概念である「海族と山族の争い」
をしっかり踏襲しながら、時代に翻弄される若者たちの姿を、痛みたっ
ぷりに描いているのが見事。

朝井リョウと言えば、「桐島」「何者」に代表されるヒューマンドラマ
の第一人者。螺旋プロジェクトの中でもかなり重要な年代であると思われ
「平成」という時代を担当したのが、朝井リョウという稀有人間描写
のスペシャリストであったのは、大きな幸運だった気がする。

まちがいなく、いろいろな意味で「重い」作品。
ゆとり世代でない僕にも思い当たる部分が多々あるし、そこを刺されると
心にチクチクと痛みが走る。全編に渡ってそういう感覚が続いてしまうこ
とを、覚悟して読むべし。

・・・それでも、読み始めたら止められないだろうな、この作品。

シーソーモンスター

#螺旋プロジェクト


▼シーソーモンスター / 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の新作は表題作「シーソーモンスター」「スピンモンスター」
二本立て。こないだちょっとだけ触れた「螺旋プロジェクト」中核
な作品。

今回も伊坂幸太郎節全開!
シニカルでやたらカッコイイ台詞回しが心地よい上に、相変わらず冴え渡
抜群のキャラクターメイキング。特に今回は珍しく“女性”がほぼほぼで
主役を張る、という、氏にしては非常に斬新な展開。おまけにこの女性キ
ャラがやたらカッコ良いのだから、呆れるほど感心した。

螺旋プロジェクトで伊坂幸太郎が担当した時代は、昭和後期(シーソー)
近未来(スピン)。バブルからポストバブルまでの時代を丁寧に検証し
たシーソーでちょっとした懐かしさを感じ、スピンで表現される近未来の
あまりのリアルさに感嘆する、という見事な二段構え。更にこの2本、
通する登場人物を立てることで見事に繋がっているのが凄い。

もう、明らかにオススメ。コレを読まないと、2019年度は始まらない、
とまで思った。

・・・若干心配になるのは、同じ螺旋プロジェクトに参加している他の作家
作品クオリティ。伊坂幸太郎と同じレベルを保てるかどうか・・・。

思い出探偵

#捜し物はなんですか? #京都大原三千里


▼思い出探偵 / 鏑木蓮(Kindle版)

某所からの推薦図書
鏑木蓮という作家が全くピンと来なかったのでネットで著作を検索した
ところ、なんとなくでも知っている作品が一つも無し。こういう状況は
今やかえって珍しい。久々に新鮮な気持ちで読んでみた。

タイトルから容易に予測出来る通り、ミステリー作品である。
ただし、基本人は死なないし、これはあんまりだ、という残酷な展開
無い。それもそのはず、主人公の元刑事・実相浩二郎が探偵として取り
扱う案件は「思い出」。浮気調査や身辺調査ではなく、「思い出」に纏
わる人やモノを探す、という状況なので、もちろん派手な展開は皆無。
なのだが・・・。

なんとうか、非常に暖かいお話
仕事の性質上、長い年月を掘り返さなければならない事態が多く見られ、
その中にはもちろん重い事実もあったりするのだが、それを踏まえた上
で依頼人をハッピーにしよう、という誠実さが随所に感じられる。ハー
ドなミステリーも大好きだが、こういうしっとりした展開の作品も時に
は必要なのかも。不思議と心が洗われ、ひさびさにホンワカとした緩や
かな読後感を堪能した。

思い出探偵はシリーズ作品らしく、続編が数冊ある模様。心がくたびれ
た時、もしくはいつも読んでいるハード系の作品に疲れた時に読んでみ
よう、と思った。

しかし一つだけ、非常に苦手な部分が(^^;)。
舞台は京都であり、当然登場人物の何人かは京都弁を喋る。残念ながら
僕は文字で書かれた関西系の方言があまり好きでは無いらしく、会話の
部分で読書のテンポがちょっと狂ってしまったかも。
人が喋る京都弁は決してキライではないんだけどなぁ・・・。