優しい死神の飼い方

▼優しい死神の飼い方 / 知念実希人(Kindle版)

こないだ読んだ「黒猫の小夜曲」前作(^^;)、知念実希人作品。
またもや順番を間違えたことは既に書いているのだが、この作品を読み
終わった後に猛烈に後悔した。順番通り読むべきだった、と(^^;)。

こちらも後作(^^;)の「黒猫」同様、余計な一言が原因で地上に左遷・・・
いや、派遣されてしまった死神の物語。彼の肉体はゴールデンレトリー
バー。しかし、真冬夏毛のまま地上に送られ、死神なのにいきなり死
にそうになってしまう(^^;)。

こちらもファンタジックミステリーなのだが、「黒猫」よりも人間ド
ラマの風合いが強い。人との触れあいを描写するのであれば、一般的に
はやっぱり犬の方が好印象。恩人のために図らずも一生懸命になってし
犬・・・いや死神の様を、ほっこりした感じで眺めることが出来た。

・・・これもまた清々しい作品
読中に何度も昔一緒に暮らしていた犬の姿を思い出し、ホロッと来てし
まう自分が居た。世の犬好きなら、否が応でも気に入ってしまう作品な
気がする。

とにかく、この死神シリーズは絶対に順番通りに読んだ方がいい(^^;)。
両作品はほぼ「連作」であり、話の繋がりをキッチリ楽しむことが出来
るハズなので。失敗した人間が言うのだから、間違い無いかと。

そして、次の作品はどんな死神がどんな動物に変化するのか注目。
犬猫以外があったら本当に感心するな、きっと。

平成プロレス 30の事件簿

▼平成プロレス 30の事件簿 / 瑞佐富郎

サブタイは「知られざる、30の歴史を刻んだ言葉と、その真相」
章のは選手(もしくは関係者)の発言であり、ソレに纏わる「事件」
考察したノンフィクション平成元年新日本プロレス東京ドーム初開催
から、30年中邑真輔レッスルマニア出場まで、我々の心に確実に刻まれ
ている事件絶妙にチョイスされている。

・・・この作家のこれまでの著書としては、「泣けるプロレス」シリーズがあ
るのだが、そちらは残念ながらまだ未読。しかし、平成17年・橋本真也
葬儀に関する記述を読んでいるうちに、自然と目に涙が溢れてしまった。
泣かすのは上手いんだろうな、きっと。

まぁ、正直言えば、全てのトピックが「ほぼ知っていること」。であるか
ら普通なら興味が続かない系の読み物になってしまうのだが、この人の書
く文章は「誠実」な上、なによりプロレスラーに対する「リスペクト」
溢れている。読後感の清々しさは、この種の他の本では感じたことが無い。

そして、もう30年も経ち、今年には終わってしまう「平成」に感慨も。
僕のライフワークでもある「プロレス」で総括されると、その時に起こっ
たプロレス以外のことも明確に思い出すことが出来るのが不思議だった。

プロレスファンなら、読んで損は無いのは間違いないが、出来ることなら
そうでない人が読んだ時の感想を知りたい本。良いです、コレ。

歌舞伎町ゲノム

▼歌舞伎町ゲノム / 誉田哲也

誉田哲也の新作は歌舞伎町セブンシリーズ
最近は好きな作家の新刊が出ると、なんとなくKindle版がリリースされる
まで待ってしまう場合が多いのだが、このシリーズに関しては話は別。全く
ガマン出来ず、ハードカバー版を入手。貪るように読んだ。

今回は全5篇から成る連作短編語り部は章ごとに違うセブンのメンバー
担当する、というこれまでに見られなかった意欲的な構成。これまでの長編
作品よりも良い意味で緊張感が無く、その分メンバーの意外な個性が浮き彫
りになる展開。そして前作のノワールでメンバーを一人欠いたセブンに、か
なり意外なキャラ抜擢(^^;)されるのが大きなポイント。

興味深いのは誉田哲也が久しぶりに「生々しく怪しげな濡れ場」を描写して
いること。初期作品には多々あった場面であり、それが誉田作品の魅力でも
あったのだが、久しぶりでもその手腕は健在。ちょっとワクワクしました♪

そういうワケで非常に面白かったのだが、ジウの流れを汲む歌舞伎町セブン
シリーズとしては「中継ぎ」の位置にある作品、という感は否めず。しかし、
この一冊を読み切ったところでなんとなく「次」のテーマを予感させて来る
のだから、この作家の手法は絶妙である。

・・・早く続きが読みたい!!
年内、いや、出来ることなら半年以内新エピソードを発表して欲しい。
お見事でした!

黒猫の小夜曲

▼黒猫の小夜曲 / 知念実希人

某所からの推薦図書
オススメされた時点では「知らないなぁ、この作家・・・」とか思っていた
のだが、読後に調べてみると半年くらい前に一冊読んでいたことが発覚。
しかしまぁ、それもしょうがないかと。理由は後述。

魂の道案内、いわゆる「死神」が主人公。鷹揚で自分本位だった死神が
左遷(?)され、黒猫の肉体を借りて地上に漂っている「地縛霊」たち
を救わなければならなくなる。数体の霊たちを浄化するうちに、ある
通項が浮かび、死神にして猫なのに、事件の真相を追う探偵までこなす
ことに・・・というお話。

とにかく設定ナイス
最初は不本意な左遷を嘆いていた死神が、黒猫として活動するうちに
人間の「魅力」に気付いていく流れが非常に美しい。ファンタジー要素
を強く押し出しながら、ミステリーとしての構成もかなりしっかりして
おり、双方のファンが満足する仕上がり。最終的に感じた「ほっこり感」
はかなりのモノで、ひさびさに読書で多幸感を味わった。

しかし、やや食い足りない部分も。
↑↑で書いたようにミステリーのレベルは高いのだが、犯人をもうちょ
っとだけ捻って欲しかった(^^;)。あまりに犯人らしい人が犯人だったの
がちょっとだけ残念。

ちなみになぜ読み終わるまで氏の著作を読んだことに気付かなかったか
と言うと、あまりに文体が違ったから(^^;)。それだけ引き出しが豊富な
作家だ、と評価しておきます。

そしてコレは僕のミスでもあるのだが、この作品は「死神シリーズ」
2作目だったらしい。また間違っちゃったよ、順番(^^;)。

最強のナンバー2

▼最強のナンバー2 坂口征二 / 佐々木英俊

柔道家・元プロレスラーにして元新日本プロレスCEO坂口征二
僕がプロレスに初めて触れたのはNET(現テレ朝)の中継番組「ワールド
プロレスリング」。シングルだったのかタッグだったのかはさすがに覚え
ていないが、坂口はそこでブルート・バーナードと闘っていた。つまり、
僕の40年を超えるプロレス観戦は坂口から始まった、ということ。

そんな偉大なプロレスラー坂口征二の、本人公認バイオグラフィー
著者の佐々木英俊氏とは、ファンクラブ「荒鷲」会長だった人だから、
熱の入れ方が半端ない。なにしろ生誕前の坂口家の人物考察から話が始ま
り、幼少期・青年期・壮年期・老年期から現在に至るまでをしっかり取材。
結果500ページ(!)を余裕で越えるもの凄い作品を作ってしまったのだ
から、これはもう尊敬に値する仕事。

本当に「坂口の全て」が詰まった本。
柔道日本一の時代、現役プロレスラーの時代、新日本プロレス社長の時代
など、どの時期も不足の全く無い書き込みがなされており、もう唸るしか
無い程。しかも、決して事実の記述だけが続いている系の作品ではなく、
読んでいるうちに坂口征二という「人物」の大きさが解ってくる。これは
もう、ノンフィクションの手本と言って良いかもしれない。

強烈に印象に残ったのは、やはり組織としての新日本プロレスを立て直し
た時代の章。この部分はリアルに経営指南書であり、世の企業経営者皆が
参考に出来る内容だと思う。

ちなみにこの本、今日時点で発売日前なのだが、1月4日の新日本・東京ド
ーム大会の日に先行発売されていたのを入手した。他の人より早く、この
本に巡り会えて幸運だった、と素直に自慢しときます(^^;)。凄いよ、コレ。