家族シアター

▼家族シアター / 辻村深月(Kindle版)

本年度の本屋大賞受賞作家辻村深月の短編集。
実はかなり前から読もう!、と思っていた作品なのだが、タイミングが合わず
にここまで来てしまった(^^;)。まぁ、満を持して、という感じで。

タイトル通り「家族」の物語が7篇
どれもこれもいわゆる「あるある」系の話であり、似たような家族構成の人
ら確実に共感出来そうなエピソードばかり。ニヤッとさせつつモヤッとさせ、
さらにキュン、と来させる辻村ワールドが見事に構築されている。感心するの
は、一篇の中にキッチリした起承転結が組み込まれていること。その所為か、
一つ読み終わる度にイチイチ「納得」出来るところが凄い。

オススメは小学校6年生の息子(当時)を持つ父親のエピソードで、タイトル
「タイムカプセルの八年」。子どもを持ったことの無い僕でも、思わずグッ
と来てしまうストーリーは妙に清々しく、なんか明日も生きていけそうな気分
にさせてくれた。

この作家の「読ませ方」は本当にすばらしい。
映像化にも凄く向いている作品な気がするので、NHKあたりで連ドラにして
くれると嬉しいなぁ・・・。とにかく良作です!

未来

▼未来 / 湊かなえ

湊かなえの新作。
純粋な小説としては、2年前の「ポイズンドーター・ホーリーマザー」以来。
あいだにボリュームのあるエッセイ2冊出しているとはいえ、これだけ期間が
空くのは珍しい。つまり、ファンとしては待望の作品なのだが・・・。

なんと、今回も“原点回帰”とされるイヤミス
そもそも僕がイヤミスにハマったのは正しく湊かなえの「告白」があったから
であるから、女史がその手の作品を連発することになんの文句も無い。
しかし・・・。

今作に関しては、なんというか・・・。今ひとつ食い足りない感があった。
イジメに始まり、DV近親相●AV出演から殺人までいろいろな負の要素
網羅されているのは初期からのファンである僕には嬉しいし、それらを繋いで
形成されるミステリーもかなりのレベルだと思う。実際読書中はかなりドキド
キし、湊マニアとして極上の時間を貰った。じゃあ何が悪いのかと言うと・・・。

おそらく、ラストの処理
イヤミスならイヤミスらしく、最後まで救いようのない展開で全うして欲しか
った、と言ったら贅沢なのかなぁ・・・。

ミーニングのちゃんとあるタイトルや、ソレと真逆を行くデザインの装丁など、
気合い充分の新作ではあるだけに、この中途半端さがちょっと残念。もしかし
たら今の湊かなえに「圧倒的なイヤミス」を求めてはいけないのかも・・・。

ONE PIECE DOORS①

▼ONE PIECE DOORS① / 尾田栄一郎

ワンピースの最新刊である89巻と併せて発売された企画モノの単行本。
タイトルの「DOORS」とは、いわゆる「扉絵」のこと。この1巻では、懐かし
第2話から第305話までの249カットが収録されている。

・・・何故に数字が合わないのか?と言うと、基本扉絵は無い場合もあるから。と
いうか、ヘタすれば各話1ページ目にタイトルだけ入れている漫画家さんの方が
圧倒的に多い気がする。あの壮大な物語を連載しながら、ここまで緻密な扉絵を
書き続ける尾田栄一郎、今さらながら只者じゃない、と脱帽。

そしてワンピースでは、時折「短期集中扉絵連載」という人気企画が発生する。
おおよそはルフィたちに倒された悪役キャラたちのその後が描かれているのだが、
コレを一気に読める、というのが非常に楽しい。来月には早くも2巻が出るらし
いので、それも早々に手に入れようかと。

一緒に買った89巻はこれから読む!
ホールケーキアイランド編のクライマックス、読み応えありそうだな、きっと♪

あの夏、二人のルカ

▼あの夏、二人のルカ / 誉田哲也(Kindle版)

誉田哲也の新作は、久しぶりのバンドモノ
作者が元バンドマンだったのは有名な話であり、過去の疾風ガールシリーズ
RAGEなど、このジャンルを代表する作品が幾つかある。しかし今作、若干だが
色合いが違う。

語り部は全部で3人
結婚に失敗し、生家である谷中銀座に戻ってきた30台の女性と、同じ谷中銀座
ギターのリペアショップを営む男性、そして女子高生のドラマー。それぞれ
が交互に物語を紡ぎ、最終的にそれら全てが融合する、という素敵な構成。

では何がこれまでと違うのか?というと、テイストがかなり「青春モノ」だと
言う事実。これまでの氏のバンドモノは、力を持った権力者が才能溢れる誰か
を食い物にしようとしたり、ないしは登場人物がアンダーグラウンド系の何か
と関わって危ない思いをする、みたいな流れがあったのだが、今回はそういう
ある意味でわざとらしい障壁が殆ど無い。心に大きなトラウマを持った天才少
が登場し、彼女が長い時間を掛けてその障害を払拭して行く。
そこにはオンナ同士の友情バンド愛みたいな感情が溢れており、元バンドマ
なら男女の区別なく間違い無くグッと来る筈。

氏の作品を始め、これまで何冊もバンドモノの小説を読んだが、ここまで読後
感の良いモノは初めてかもしれない。なんつったって、倉庫からしばらく弾い
ていないギターを引っ張り出そうと思ったくらいだから。

バンド小説を書く才能は、おそらく誉田哲也の能力がいちばん高い。
警察小説の合間で構わないから、5年に1作くらいこの手の作品を書いて欲しい。
できれば、同じくらいサワヤカなヤツを。

ケンドー・ナガサキ自伝

▼ケンドー・ナガサキ自伝 / 桜田一男

コアな昭和プロレスファンにはお馴染みのG SPIRITS BOOKの最新作は、なん
「消化鬼」ことケンドー・ナガサキの自伝。あまりにマニアックすぎる人選
だが、これぞG SPIRITSの真骨頂。読む人はかなり限定されると思うけど(^^;)。

著者の桜田一男とは、かつてケンドー・ナガサキを名乗ったプロレスラー
日本プロレスでデビューし、全日本に合流した後にアメリカへ遠征し、そこで
長く活躍した職人タイプのレスラー。リングネームやたら変えることでも有
名で、日本のリングでも以下6つのリングネームを名乗った。

桜田一男(本名:日本・全日本)→ミスター・サクラダ(全日本)→ドリーム
・マシーン(覆面:全日本)→ランボー・サクラダ(新日本)→ケンドー・ナ
ガサキ(新日本)→ドラゴン・マスター(FMW)

SWS参戦後はケンドー・ナガサキに戻し、以降は一貫してこのリングネームで
通した。米マットでも長くこの名前で活躍しており、通りの良さは抜群。にも
関わらず、日本で違う名前を使ったのは、桜田の”ケンドー・ナガサキ”が実は
2代目だった(かつて英国に同名のプロレスラーが存在)から、だと僕は思う。

カブキムタキラー・カーンと比較すれば、決して全米でブレイクしたとは
言えないが、しっかりした技術とシュートの強さが評価され、どこへ行っても
仕事の出来た名選手。こういうレスラーの海外滞在記はやっぱり面白く、今回
も一気に読むことが出来た。

ただ、少々食い足りない感じがしたのは、ナガサキが関わっていた団体選手
に、僕が殆ど思い入れを持っていない(^^;)のが原因。しかし、自らが大きく関
わっていた筈のSWS設立から崩壊までの件をかなりドライに語っていたのが、
非常に新鮮でもあった。

この本、プロレスファン以外が読むのはちょっと無理がある。
ただ、プロレス史に少しでも興味のある人なら間違い無く面白く読めると思う。
G SPIRITSの攻めの姿勢、好きだな、僕は。