臣女

▼臣女(おみおんな) / 吉村萬壱(Kindle版)

Kindleストアを物色中、タイトル表紙のインパクトに惹かれてなんとな
く購入してしまった作品。作者は吉村萬壱というこれまで全く知らない
作家。

主人公は高校の非常勤講師にして3流の小説家の男性。
この人が自分の小説のファンだという女性と浮気をし、それを元教え子
に知られてしまう。その日から妻はどんどん「巨大化」していく。
普通ではない量の食事の準備、家庭用のトイレでは処理出来ない排泄の処
理など、懸命に介護しつつ、異様な風体となった妻を世間から必死で隔離
する主人公だが、経済的にも精神的にもジリジリと追い詰められて・・・と
いう内容。

・・・なんかねぇ、良い意味でも悪い意味でも、久しぶりに猛烈に「キツい」
作品(^^;)。人間がどんどん巨大化していく、というファンタジー的な要
素を、写実的に書き切るのは良いアイデアだし、ホラーのような世界観を
まといながら、じつは恋愛小説である、という設定も一捻りの工夫がある。
だけど・・・。

とにかく、全体を覆う雰囲気があまりにも「暗い」。イヤミス好きであり、
ドロドロ系統は大好物な筈の僕が、物語に入り込めないほど真っ暗なのだ
から、ある意味では大したモノなのかもしれない。でも、没頭出来ない原
因はそれだけではなく、冗長な場面描写ややたら難しい言い回し、使わな
くてもいい漢字の多用や功を奏さない詩の引用など、正直ゲンナリ

ハッキリ言うと読むのがやたら苦痛。実は読書開始から数ページで一度断
念し、その後なんとか再開したものの、読了まで4日を要する、という小
難しさ。そもそも文体が僕に向いていない、ということなんだろうなぁ、
きっと。

この感覚、以前にもあった、と思い返してみたら、苦手の芥川賞受賞作
書時に何度か経験した感覚。もしや、と思い調べてみたら、この人やっぱ
芥川賞を獲ってました(^^;)。

苦手なんだよなぁ、やっぱり(^^;)。
残念ながらこの作家の作品、もう読むことは無いと思います(^^;)。
好みの問題だとは思うけど。

COPY

▼COPY 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 / 内藤了(Kindle版)

内藤了藤堂比奈子シリーズ第九弾
長く続いたこのシリーズだが、もしかしたら次かその次くらいで終了するん
じゃないか・・・、そう思わせる内容なんですよ、今回は。

まず、これまで8冊に渡って繰り広げられてきた猟奇犯罪の数々が、今回の
エピソードでほぼ全て繋がっていく(いくつか忘れてる件も・・・w)。
確かにこれまでも作品間のリンクは存在し、そのたびに前の作品をちょっと
読み返す、という事態は起こったのだが、さすがに今回は無理(^^;)。
しかし、読んでいるうちに緊迫感はやたら増す。さぁ、いよいよ!とか思っ
てたら・・・。

・・・え〜、完全なる「前振り」に徹した模様(^^;)。
今回もかなり陰惨な事件が起こったワケだが、全く解決せずにお得意の
To Be Continue処理されちゃったもんだから、正直ちょっとずっこけた。
内藤先生、この手法多用しすぎ(^^;)。性格悪い人じゃ無いと思うんだけど。

しかし!
今回は本当に先が気になる。とにかく集大成的な香りがプンプン漂うし、こ
れまた恒例となっている巻末付録の次回作「BURN」のプロローグがかなり
意味深。いつ発売になるか解らないが、次が10作目ということを考えると
最終作という可能性大。早いとこ出して欲しいなぁ、コレは。

とにかく、クライマックス目前確実
・・・次が出た時にコレもまとめて読む、でも問題無いかもしれないけどw。

家族写真

▼家族写真 / 荻原浩(Kindle版)

荻原浩テーマ短編集
いわゆるファミリー系のエピソードが7篇収録されているのだが、殆どの篇で
主役を張っているのが定年間近のオヤジ世代。若い頃はそれなりに夢があった
ものの、今ではしがないサラリーマン、ITの進化に付いて行けず、嫁に早くに
先立たれる、という共通項。さらに全員が、体重に関して悩みを抱えている
というところまで同じ(^^;)。

例えば10年前にコレを読んでいたら、おそらく全く響かなかったハズ(^^;)。
ただ、現在の僕はここに描かれているオヤジたちと年代的には全く変わらず、
なんかもう共感度が半端ない感じ(^^;)。娘が居るワケでも無いのに、嫁に行
く娘のことを思って涙してしまうのだから、僕もかなり年をとった(^^;)。

ただ僕の場合、下手すれば彼らよりもずっと下層を歩いてるんだよなぁ・・・。
だから、こういう幸せは間違い無く手にできないワケで、そのあたりがちょ
っと腹立たしくもある。

氏の作品としてはややおとなしめだが、同年代をウルっとさせる人物描写
やっぱり名人芸。難点を無理に挙げるのなら、表題作「家族写真」がちょっ
とだけ食い足りない気が。かなり良い話なので、出来れば長編にリライトし
てくれると非常に嬉しい。

いわゆる昭和テイストの好きな人は是非!
・・・ちょっと運動しないとダメかな、僕も。波平5つしか変わらないし。

“レヴェルが違う!”生き残り術

▼To Be The 外道”レヴェルが違う!”生き残り術 / 外道

・・・最近何故かプロレス関係の書籍ばっかり読んでる気がするのだが(^^;)。
プロレスリングマスターこと外道自伝。最近ではプロレスラーと言うよりも、
レインメーカーことオカダ・カズチカプレイングマネージャーとしての活動
の方がやたら目立っているのだが、すれっからしのプロレスファンからすると
間違い無く「出来るヤツ」。いわゆる“いぶし銀系”職人の半生記である。

日本のプロレス界にまだ“インディ”という概念が無い頃にプロレスラーを志し、
そのインディの創世記の頃から活動を開始した外道。僕は彼の国内デビューの
頃からその存在を認識しており、あまりにも波瀾万丈キャリアを端から理解
している。だから、読む前から「まぁ、おもしれぇだろうなぁ」とは予想して
いたのだが、これがまぁ、面白かった(^^;)。

やっぱりFMW・ユニバーサル・W★INGあたりの話がやたら懐かしいのと、
「らしさ」がいちばん発揮された冬木軍の頃のエピソードの深さに思わず唸る。
今もマイクパフォーマンスの上手さには定評のある選手なのだが、そういう人
は媒体が“文章”になってもやっぱり面白い。新日本プロレスというメジャーな
団体で要職に就く、というのは、やっぱりそれなりのモノがあるんだと思う。

まぁ、こないだの鈴木みのるの本と同様、コレもプロレスラーになりたい人
絶対に読むべき本。更に、選手じゃなくともプロレス業界での仕事に興味のあ
る人にも効果絶大。もちろんプロレスファンなら掛け値無しで楽しめる。
そして関係の無い一般の人にもちょっと読んで欲しい。もしかしたら「仕事」
厳しさが認識出来るかもしれないので。

PRIDE

▼プライド / 金子達仁(Kindle版)

著者は金子達仁
この名前になんとなく覚えがあり、著作を調べてみたら、高田延彦「暴露本」
として話題になった「泣き虫」の作者。作風とか文体以前に、あの本には正直
悪印象しか無く、最初は普通にパスしようと思っていたのだが、どういうワケ
かKindle版が648円。ちょうど読む本がなかったので、取り敢えず買ってしま
った。もしかしたらまたイヤな気分になるかもしれないのを覚悟して・・・。

・・・ちょっと驚いた
サイドストーリーの類いを悉くそぎ落とし、我々にとってリアルに「悪夢の日」
となった1997年10月11日にだけフォーカスした構成、そこにまつわる関係者
たちへの的を得た取材。ノンフィクションとしては異色な作り方であるにも関
わらず、グイグイ読ませる。金子達仁、実は凄いライターだった。

この本の主役である3名(高田延彦・榊原信行・ヒクソングレイシー)に、今や
正であれ負であれ、思い入れのある人物は1人も居ない(高田に対しては複雑な
んだけど・・・)。あれからかなりの年月が経ち、僕もいろいろな事にをするこ
とが出来るようになった。嫌悪感を抱いていた“あの本”の中身をとうの昔に忘れ
ていたことも、逆に良かったのかもしれない。

そして冒頭、かなり大事な部分でいきなり登場した広島カープ捕手(当時)・
西山秀二のコメントが大胆に使用されていることにビックリ。この意外過ぎる
導入部分の効果は絶大で、もしココが無かったら最後まで読まなかったかもし
れない。日本の総合格闘技のエポックとなった「あの日」を構成したエピソー
ドの中に、西山さんが居たという事実。個人的に驚愕なんですよ、コレ。

とにかく、筋がビシっと通ったすばらしいノンフィクション作品
同じ系統のテーマを扱った作品が出るのなら、また読んでみたいと思う。
・・・まぁ、「あの日」を思い出すのはもう本当にイヤなんだけど(^^;)。