「暗殺教室」の見事な終わり方

週刊少年ジャンプで連載していた「暗殺教室」
本日売りの本誌にて4週に渡った追撃戦・スピンオフエピソードも終了の模様。
4年弱に渡った連載は単行本にして20冊分全180話+番外編4話
人気はほぼ絶頂期なのにもかかわらず、ストーリーに歪みが出ないうちに潔く
終了。全く以てすばらしい作品だったと思う。

少年誌なのにも関わらず、テーマは「暗殺」。一歩間違えば危険な領域なのに、
どちらかといえば金八系に近いハートフル学園モノの香りを始終感じさせ続け
松井優征の構成力は見事としか言いようが無い。きっと、この作品に影響を
受けて教師を志す若者も増えるんじゃないだろうか?・・・そういう事例が本当
に出て来そう(^^;)。

そして、またもや“定番”が一つ終わってしまったジャンプ。
ONE PIECEは心配無いにしても、人気作品もしくはかつての人気作品(^^;)に
終了ないしは打ち切りの香りのするものがいくつかあるのが気になる。
個人的には篠原健太の新連載を待っているのだが、果たして?

そして、もちろん松井優征の次回作にも期待。取り敢えずお疲れ様でした!

▼暗殺教室19巻 / 松井優征 ※最終巻の一つ前♪

あなたの恋人、強奪します

▼あなたの恋人、強奪します。泥棒猫ヒナコの事件簿 / 永嶋恵美(Kindle版)

さっそく永嶋恵美作品2作目。
多少予備知識が出来たので、レビューを見て評判のよさそうなシリーズモノ
チョイスしてみた。なんちゃらの事件簿、というサブタイトルは若干寒い(^^;)。

連作短編の体を為した特殊な探偵モノ
怪しげなサイト中心に広告を出すオフィスCATの業務はいわゆる別れさせ屋。
ワケあって彼氏や旦那と別れたい、もしくは誰かを別れさせたい、という種類
の依頼を受ける、ある意味でかなりダークな組織である。

こういう裏系の仕事は、いわゆるその筋の人たちがたくさん登場するヤバめの
物語になる場合が多い。それはそれで決してキライな流れでは無いのだが、こ
の作品のテイストはそういう系統と大きく異なる。

主人公の皆実雛子はどんなタイプの女性にも変身でき、人の行動様式や気持ち
が先読み出来る、いわゆる万能タイプの探偵。こういうヒューマンヒーロー
ヒロインだけど♪)な流れでこの手の題材を料理する、というのが実に痛快
本来題材は基本、オトコとオンナのトラブルだから、実際はかなりドロドロ
た話の筈なのに、さっぱりした爽快青春モノを読んでいるような気分になった
りするのが不思議。

コレはすっごくオモシロイ
既にシリーズ2作目がリリースされているのも頷ける内容だと思う。
ちょっと変わったヒューマンミステリー愛好家にオススメです!

インターフォン

▼インターフォン / 永嶋恵美(Kindle版)

久々にKindleストアのリコメンド購入。
舞台はおそらく首都圏近郊巨大団地。そこに住む様々な人々の様々な「事情」
をミステリータッチで描く全10篇短編集。もちろん、永嶋恵美作品は初。

現在は地名に「団地」が付いている場所が多々あり、その言葉の意味は昔と少し
違って来ていると思うのだが、ここで言う団地のイメージはもうすっごい昔から
ある“ザ・団地”的なもので相違無いと思う。具体的に言えば築30年前後・4階建
エレベーター無し全く同じデザインの建物が8つくらい並んでる感じ。
もう少し膨らませると、中庭には錆びたジャングルジム砂場、1号棟の1Fには
聞いたことの無い名称の小さなスーパーマーケットが細々と営業を続け、店の前
のベンチでは買い物帰りの主婦たちがお喋りに高じている・・・というところか。
こうやって改めて考えると、ちょっと異様な場所だよな、団地って。

この作品はいろんなところの短編を集めて一冊にしたモノ。しかし、全話から
“同じ団地”のイメージを感じさせるテクニックは見事に尽きる。
この作品内で起きる“事件”は、実はどれもなんて事の無い日常な気がするのだが、
団地特有の人間関係をフィルタに入れた瞬間にサイコさが増す。さらに殆どの章
結末を書かず、ラストに含みを持たせる手法が使われており、その先を想像す
ると薄ら寒くなるのだから、コレは効果抜群
この作家さん、個人的にはかなりのテクニシャンだと思います、

欲を言うのなら、各物語に関連性を付けて貰えれば楽しかったな、と。
例えば、ある篇の主人公の親子が違う篇の主婦の井戸端会議で自殺してた、と
言うことが解る、みたいなモノ。それがあれば、もう手放しで褒めた気がする。

サイコ系の作品が好きで、さらに短編がお好みな人はぜひ。
僕は取り敢えず、永嶋恵美他作品を読んでます、現在は(^^;)。

真説・長州力

▼真説・長州力 1951-2015 / 田崎健太

ど真ん中こと、長州力の半生を居ったノンフィクション。
本人もさることながら、周辺の人物丹念なインタビューを繰り返し仕上げら
れた力作。長州だけに(^^;)。

・・・まぁ、本来の僕ならば間違い無く“買ってはいけない”本であることはまぎれ
もない事実。なんつったってこの本は、あの長州力に関する本なのだから。

ハッキリ言って僕は長州力が嫌いだ。嫌いな理由はここでは書ききれない(^^;)。
長州の試合は生で百回は観ているし、映像であればもう何百試合分観ているか解
らない程。ただし、ある一時期を除いて長州を応援した覚えが無い。この時期と
言うのは全日本プロレス参戦時「お前がダメだと新日本がダメだと思われる」
という感情から、本当に仕方無く応援していただけの話。

そんな長州の本を何故読もうと思ったのかと言うと、先にこの本の取材を受けた
他のレスラーが多媒体で受けたインタビューを何本か読み、興味が沸いたため。
おおよその人たちは辛辣であり、罵詈雑言の嵐。どんな酷い本か確かめてやろう、
という凄く否定的な理由で入手したのだが・・・。

思った以上にちゃんとした本だった。
特に学生時代、オリンピックに出場を果たす程優秀だったアマレス時代の記述は
ある理由からこれまで表に出ることは殆ど無かった。その部分が読めただけで
吉田光雄というアマチュアレスラーとその周辺の名選手たちに興味が沸いたし、
同じくこれまで語られる機会の少なかった最初の海外遠征時のエピソードには
いわゆる“下積み”の苦労が滲み出て、読み応えはかなりあった。

しかし、この内容を「真説」とするのはどうかと思う。コレはマジで。
新日本プロレスをこれまでの新日本では無い組織にしてしまったのは間違い無く
長州であり、全日本時代にジャンボ鶴田ブルーザー・ブロディに完封され、
全日ファンにニヤニヤされたのはトラウマになりそうな屈辱だった。そして何よ
り、大失敗していろいろな選手の将来を変えてしまったあのWJは、長州の我儘
で出来た団体だと言うことに間違いは無い。そういう、圧倒的な罪が明確にある
のに、論調がやや「いい話」になっているのは、ちょっと納得が行かない。

ただ、長州力というプロレスラーのキャリアに基づいた関係者へのインタビュー
には一読の価値あり。残念ながら、僕の長州力というプロレスラーの評価は全く
変わらなかったけど。

サブマリン

▼サブマリン / 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の新作は名作「チルドレン」の12年ぶりの続編。
少年犯罪を担当する最強にしてサイアクな皮肉屋である家裁調査官・陣内と、
その部下の常識人・武藤が担当した未成年交通犯罪。無免許暴走運転で人が
死んでしまう、という事案を中心としたエピソードである。

陣内というキャラクターは、僕の憧れでもある。
口から出る言葉の殆どは皮肉か屁理屈であり、周囲にはとんでもない迷惑
をかけ続ける。ところが、決して本当に嫌われることが無い、という特異
な性格。彼の発する言葉は虚言や適当な言い逃れにしか聞こえないのだが、
最終的にソレを「嘘」にはしない。そういう姿にちょっと痺れてしまう。

ただ、今回のテーマは本当に重かった
陣内はいつものようにカッコイイ皮肉を撒き散らし、語り部の武藤は軽妙に
それを収拾しようとする。その様子はいつも通りの楽しい展開なのだが、状況
を思い返す度に「笑っている場合では無い」、という気分にさせられる。
伊坂作品でそういう感情になるのは本当に珍しい。

・・・おそらくこれは凄く個人的なことが原因。
交通事故で大事な身内を亡くしている僕は、どんな理由があっても加害者の
心に寄り添うことが出来ない。だから、この作品に出てくるいろんな人たちの
「事情」について、理解こそ出来るのだが納得は決して出来ない。それはもう、
本当にどうしようもないことだと思う。

だから読中にやたら焦燥感を感じていたのだが、最後の最後でちょっとした、
しかし強烈なが見えた。その言葉を発したのはやはり陣内であり、それが
無ければこの読書は単なる苦痛になるところだった。

伊坂幸太郎、やはり恐るべき作家。追いかけ甲斐があるな、この人は。