デスマッチよりも危険な飲食店経営の真実

#またくる  ゆるさん


▼デスマッチよりも危険な飲食店経営の真実 / 松永光弘

最凶ステーキハウスオーナーシェフ・松永光弘
自ら経営するステーキハウスの名は「ミスターデンジャー」、今や行列の
絶えない大人気店となったこのお店の経営状況を振り返る繁盛記であると
共に、今後「セカンドキャリアを飲食業界で!」と考える人たちに向けた
指南書でもある。

我々にとって松永光弘とは「デスマッチの神」であり、誰も考えつかない
ことを多々実行してきた尊敬すべきプロレスラーなのだが、今回のレビュ
ーはそのキャリアを敢えて忘れて書いている。というのは・・・。

プロレスラーの経営する飲食店、というのはいろいろあり、ファンはそうい
うお店に足を運びがち。もちろん僕もその中に含まれるのだが、おおよその
お店は1〜2回訪問したところで行かなくなる。しかし、松永光弘が経営する
東あずま・ミスターデンジャーだけは完全に他の店と一線を画す。なぜなら、
純粋に「ステーキが美味しく、安い」のだから。

記録によると、僕が最初にデンジャーに行ったのは、今からちょうど25年前
もちろん松永さんが目当てだったのだが、2回目からは完全に目的が異なった
「都内でいちばん美味しいステーキを食べさせてくれる店」。今でもその思
いは全く変わらず、年に数回は必ずお邪魔させていただいている。

コレを単なるプロレスファンの忖度と取られたら甚だ心外。
僕はこのお店にこれまで何十人という人を連れて行ったのだが、「不味い」
とか「苦手」とか、そういうネガティブな意見を一度も聞いたことが無い
ミスターデンジャーは「確かな味の名店」なのである。

そんなデンジャー、これまで幾つかの徹底的な危機を乗り越えてきた。
狂牛病騒動、リーマンショック東日本大震災、そして今回のコロナ騒動
驚いたことにこの本は2020年の2月に企画され、たった半年で発売された。
だからもちろん「withコロナ」とか「アフターコロナ」等と言われる新しい
時代に対応しているし、イチイチ頷ける話が多々。飲食業界に限らず、全て
の社会人が読むべき本だと思う。

ちなみに昨日届いてたった1日で完読。今はデンジャーのステーキが食べた
くて仕方ない。450gは余裕だな、きっと。

参考:牢獄ステーキハウス・ミスターデンジャー(official)

イダジョ!医大女子

#女子”医”大生


▼イダジョ!医大女子 / 史夏ゆみ(Kindle版)

以前からKindleのリコメンドに度々登場し、長いこと次の候補になってい
た作品。こないだふと気付いたらUnlimited対象になっていたので、速攻
でダウンロード。史夏ゆみ、もちろん初めての作家。

ジャンルで言えば間違いなくお仕事系。職種は「医師」で、それを目指す
若者のお話。主人公はあるキッカケで医者を志し、私立医大へ入学。悲喜
交々いろいろありながらも医師の道へ踏み出す、という内容。

ポイントになるのは、主人公が「女子」であること。まぁ、タイトルから
もそれは明確なのだが(^^;)。この女子医大生、まぁまぁ個性的魅力的
な性格をしており、その言動から目が離せなくなる。さらに医大というか
なり特殊な環境にいながら、大胆に恋愛要素を混ぜているところに感心。
・・・しかし、この恋愛要素にはかなり腹立たしい部分がある、というこ
とだけは一応書いておくべきかも(^^;)。

とにかく、医大という知っていそうで知らない世界の仕組みが非常によく
理解できる佳作。研修医篇と銘打たれた続編も近いうちに読むな、きっと。

君と夏が、鉄塔の上

#平均的中学生ファンタジー


▼君と夏が、鉄塔の上 / 賽助(Kindle版)

Unlimitedのリコメンドに表示されていた作品。
タイトルチョイスではなく、どちらかと言えばジャケットチョイスかも。

主人公は鉄塔(送電線繋いでるアレ)をこよなく愛する地味中学生男子
日常的に奇抜な行動を取る同級生女子とひょんなことから会話し、知らぬ
間に不可思議な事象に巻き込まれていく・・・というストーリー。

ジャンルで言えば間違いなくファンタジー。この作品内で起こる事件はど
れも荒唐無稽であり、改めて考えればかなり無茶苦茶なのだが、読書中に
それを感じさせない技量は見事。ファンタジックな世界よりも登場する中
学生たちの心情描写に重きが置かれており、その世界観に時折キュンと来
てしまうのだから凄い。

更に、重要なアイテムとして「鉄塔」を持ち出してくるところにセンスを
感じる。ウチの近所でも立派にそびえ立っている鉄塔に種類があることす
ら知らなかった身としては、目からうろこな記述が多々。賽助という作家、
なかなか侮れない気がする。

ホンワカした青春系のストーリーを好む人にオススメ。それでいて鉄塔に
興味のある人なら、完全にハマると思う。そういう人はあんまり居ないと
思うけど。

脳科学捜査官 真田夏希

#プロファイリング


▼脳科学捜査官 真田夏希 /鳴神響一(Kindle版)

Unlimitedのタイトルチョイスの中の一冊だが、実はちょっと前から気に
なっていたシリーズ。著者は鳴神響一、コレがシリーズ第一作にあたる。

妙齢美人警察官・真田夏希は、博士号を持つ心理学のエキスパート。
臨床心理士時代に挫折し、神奈川県警の科学捜査研究所へ転職。あまり
に高学歴なことで彼氏が出来ず、婚活にいそしむ毎日を送っていたのだ
が、友人に紹介された男とデート中、近隣で爆破事件が。その捜査に巻
き込まれることになって・・・という内容。

いわゆるプロファイラーの物語。作中にかなり難解な専門用語が出てく
るため、とっつきにくい印象があるのだが、文体が軽快な上にユーモラ
スなので、けして読みにくいタイプの本では無い。

とはいえ、ちょっとした中途半端さが残ってしまっているのも事実。
登場する各キャラはそれなりに魅力的だからこそ、誰かにもう少し突出
した能力を与えれば、物語に深み緊迫感が出てくる気がする。シリー
ズはまだまだ続いているので、今後そういう展開になることを期待する。

警察犬と心が通じていく場面の描写は良かったなぁ・・・。
僕はこういうのに弱いんだ、結構(^^;)。

瑕死物件

#ワケアリの部屋


▼瑕死物件 209号室のアオイ / 櫛木理宇(Kindle版)

最近続くUnlimitedタイトルチョイスした中の一冊。
タイトルはもちろん、表紙デザインからもそこはかとなく漂うホラー臭
この季節にピッタリ、ということで。

とある高級マンションが舞台。ある時期、ここで陰惨にして不可思議
事件が連続して起こる。巻き込まれたのは、全員がちょっとワケアリの
女性。その影には、必ず不思議な「少年」が居て・・・という内容。

最初に評価から書いておくと、「完成されたホラー」
いや、お世辞抜きで状況設定から構成アイデアの全てが本当にすばら
しい。連作短編形式で、それぞれの章で状況の異なる主人公が設定され
ているのだが、各々の“ヤバさ”の描写が秀逸で、恐ろしい程のリアリテ
が醸し出されている。

櫛木理宇という作家はもちろん初めてだったので、後で調べてみたとこ
ろ、ホラー専門のある種「硬派」な作家さんらしい。ある程度長いシリ
ーズモノもあるし、他の作品も読んでみるべき、と感じた。おそらく、
ホラー職人の矜恃が味わえるハズ。良い出会いだったな、コレ。