逆ソクラテス

#僕は、そうは、思わない


▼逆ソクラテス / 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の新作は、久々のテーマ短編集
リリースは随分前から知っており、その段階で予約注文を入れておいたモノ
が、(おそらくこの騒動の所為で)何日かリリース日を遅らせた後、先日よ
うやく届いた。

「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマ
ンライク」「逆ワシントン」5本は、全く違う状況の物語ではあるが、幾つ
かのストーリーが細かく繋がっている、という伊坂幸太郎得意の構成。

全てに共通しているのは、各章の語り部が全て「子ども目線」、それも小学
の目線あること。考えてみれば、これまでの伊坂作品ではありそうで無か
った展開なのかと。少なくとも、僕にはあまり覚えがない。

・・・いや、本当にまいった。陳腐な言葉になるが、傑作としか言い様が無い。
何の変哲も無い日常が描かれているだけなのに、その世界がやたら羨ましい
読中、自分の矮小さを自覚させられ、ちょっと涙する部分さえあった。
状況は全く違うのだが、僕の中の伊坂ベスト5の上位に食い込んでいる名作、
「週末のフール」に非常によく似た雰囲気。小説はあまり積読しない僕だが、
この本はきっと何かに辛くなった時、もう一度読む気がする。

もう一つ。
普通、伊坂作品では象徴的とも言える「カッコイイ言い回し」が多々出てく
るのだが、今回はけしてそういう言葉が多いワケではない。ただ、ピンポイ
ントで特に目立つものが無いだけで、全体からそういう雰囲気をビシビシ感
じる。作者の本意では無いかもしれないが、小学校高学年くらいの子どもた
ちは、ぜひこの作品に触れて欲しい。その中から、ポスト伊坂幸太郎の位置
につく作家が生まれてくる気がするなぁ・・・。

人生に必要なことは、電流爆破が教えてくれた

#ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチ(正式)


▼人生に必要なことは、電流爆破が教えてくれた / 大仁田厚(Kindle版)

邪道大仁田厚へのインタビューを書き起こし、一冊にまとめたモノ。
大仁田厚という男、個人的には完全否定(^^;)しているプロレスラーなのだが、
著書というのはこれまで読んだことが無い。ヒマな上に読むべき本が無かった
ので、取り敢えず電子書籍で購入してみた。

・・・悔しいが、ちょっと面白い(^^;)。
大仁田厚というある意味で唯一無二のプロレスラーのこれまでの人生が網羅さ
れており、どれもコレもそれなりに興味深い内容。考えてみれば、僕は一時期
邪道を肯定していた時期があるワケで、だとするなら楽しめないワケが無い。

特に面白かったのは、全日本プロレス時代格闘技連合時代FMW前夜とも
言える部分がやたらエキサイティングだったのは、自分でもちょっと意外であ
った。インタビュアーの能力が高いんだよな、きっと。

・・・しかし、どんな言葉があろうとやっぱり否定しちゃうんだよなぁ、大仁田。
未だにFMWでの引退興行川崎球場でのハヤブサ戦が引っかかっている。
もしあの時、大仁田厚がハヤブサの金網最上段からのフェニックススプラッシ
を受けていたら、今でも大好きなママだったと思う。

肝心なところを受けないプロレスラーって、ダメだと思うよ、本当に。

暴虎の牙

#暴対法


▼暴虎の牙 / 柚月裕子(Kindle版)

柚月裕子「孤狼の血」シリーズ最新作、そして最終作らしい。
今作は二部構成で、前半は在りし日の「ザ・悪徳刑事」大上章吾と、当時最狂
と呼ばれた広島ヤクザを敵に回し暴れ回る愚連隊「呉寅会」沖虎彦との邂逅
が描かれる。後半は大上の後を継いだ日岡が、二課の問題刑事として登場。刑
務所から出た沖虎彦と対峙する、という内容。

相変わらず気合いの入った本格ヤクザ小説。今回はヤクザに真っ向から挑んで
いく愚連隊のヘッドを主人公に据え、任侠道とはまた違った「男の世界」を生
々しい描写で展開。この主人公を一旦刑務所に収監させることで、暴対法施行
それ以前という2つの時代を、ある種対照的に描いているのがポイント。

この種の小説の中では、他よりも圧倒的に深い物語性と、凄まじいリアリティ
を有している。間違い無く傑作だし、とんでもなく面白い。ラストにも「続き」
への惹きを凄く感じるし、やたら期待できるのだが、これが最終作とされてい
るのは、やはりこの後の時代・・・暴対法施行後の世界・・・が、ヤクザ小説として
面白みに欠けるからなのかなぁ・・・。
柚月先生ならなんとかなりそうな気もするんだけど。

PUZZLE

#時をかける新人 #猟奇のマジシャン


▼PUZZLE 東京駅おもてうら交番・堀北恵平 / 内藤了(Kindle版)

内藤了東京駅おもてうら交番・堀北恵平シリーズ第三弾
現在絶賛研修中新人女性警察官堀北恵平(ケッペー)ちゃん、この段
での所属はまだ鑑識。クリスマスを迎える東京駅周辺、留置場で年始を迎
えるために置き引きをしたホームレス自首。彼が証拠品として差し出し
キャリーバッグの中には冷凍状態にある男性の胸部と足が。同じ頃、別
の場所で白骨化した女性の手首が発見され・・・という内容。

お得意の猟奇犯罪モノながら、ファンタジーの色合いが強いシリーズ、と
認識していたが、この第三弾でやはり猟奇方向に舵を切ってきた感(^^;)。
もちろん先輩刑事・平野とケッペーちゃんの微笑ましいコンビネーション
や、キーマンである謎の警官・柏村との邂逅もあるのだが、今回の事件は
本当に胸クソが悪くなる(^^;)くらい非道い。おかげで前作までで感じられ
ホンワカ感がすっかり薄れてしまったのはちょっと残念。

しかし、考えてみればこの世界こそが内藤了の本分
そして遂に、本作のラストでおそらくこのシリーズのとなる伏線が貼ら
れた模様。これまでと全然違う意味で、この先が気になって仕方無い。
次巻のリリースは夏予定。と言ってもこのご時世、しっかり出版されると
いいんだけど・・・。

ツインソウル

#エンマ様


▼ツインソウル / 佐藤青南(Kindle版)

佐藤青南行動心理捜査官・楯岡絵麻シリーズ第8弾
読むべき本が無くなったところで確認したら、タイミング良く最新刊が
リリースされていた。ある意味ラッキーである。

今作は「一冊を通してのテーマ」というのが無いワケでは無いのだが、
かなり稀薄な印象。逆に初期のストレートな連作短編に回帰しており、
初めてこのシリーズを読んだ人でもスッと入っていける。ミステリーの
ギミックもかなりこなれており、普通に及第点を付けられる内容。

・・・が!
このシリーズを読み続けている人たちは、かなりの「衝撃」を感じるで
あろう事実がラストで明らかになる。ちょっと卑怯な展開にも思えるが、
これまでの全てを考えるとストンと腑に落ちちゃうのが悔しい

やりやがったな、佐藤青南(^^;)。
もう次が気になって仕方無い。早いところ次作が出るといいんだけど。