新宿歌舞伎町 マフィアの棲む街

#歌舞伎町が歌舞伎町らしかった頃


▼新宿歌舞伎町 マフィアの棲む街 / 吾妻博勝(Kindle版)

久しぶりに読むべき本に困ったので、Unlimitedで表示されたノンフィ
クションを選択。タイトルには馴染みの「歌舞伎町」。これは面白そう
だ、ということで。

基本的には1990年代前半の歌舞伎町のエピソード。
この頃に歌舞伎町で暗躍した外国人マフィア、具体的には中国・台湾・
韓国・コロンビアなど、いかにも歌舞伎町に居そうな怖い人たちが総力
取材されている。

何よりも「恐ろしい」と思ったのが、登場する外国人マフィアや日本の
ヤクザではなく、著者・吾妻博勝氏の取材方法。あの歌舞伎町で毎晩の
ように酒を呑みながら外国人ホステスに話を聞き、時にはクスリの密売
現場にまで踏み込む一般人。想像するに、見た目がその筋の誰よりもソ
レっぽく見える人(^^;)のような気が。でないと、こんな取材絶対出来
ない気がする。

正直、この時期の歌舞伎町にはあまり足を運んでいない。だからこそ、
その「怖さ」リアリティを感じるし、今よりも間違い無く歌舞伎町に
「活気」はあったのだと思う。良い悪いはともかく、その雰囲気こそが
新宿・歌舞伎町なのだ、と改めて感じた次第。

・・・まぁ、今の歌舞伎町もけっして悪い感じでは無いのだけど。

年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで

#文化系プロレスの進化論


▼年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで
/ 高木三四郎(Kindle版)

今や名実共に「業界第2位」の立場を確立した感のあるDDT
飯伏幸太ケニー・オメガを発掘・育成し、両名に退団されても勢いは衰
えず、新たなスターをバンバン産み出すDDTの「大社長」高木三四郎
インタビュー集である。

プロレス団体と言うより、成功したベンチャー企業の社長の本を読んで
いるような感覚。確かにDDTの「やり方」はこれまでのプロレス団体で
は絶対に出来なかったことだと思っていたが、その様をこうやって一冊
にまとめられるとソレが凄い説得力を放つ。この人が出てこなかったら
日本のプロレスはどうなっていたのか?とかを考えると、本当にゾッと
するくらい。

DDTはサイバーエージェントの傘下に入り、今後の大爆発が期待されて
いる。いろいろ考えてみると、企業としての伸びしろブシロードより
サイバーエージェントの方がやや上かもしれない。もしかしたら、本当
新日本プロレスを超えることが出来るかも・・・。そんな可能性を感じた。

プロレスファンのみならず、企業経営者が読んでもきっと面白い。
ベンチャーのなんたるかをちゃんと解っている「大社長」。この言葉は
聞くべきだな、マジで。

ひよっこ社労士のヒナコ

#労務ミステリー


▼ひよっこ社労士のヒナコ / 水生大海(Kindle版)

Kindleのリコメンドに出てきた作品。
小説のタイトルに「社労士」の文字が躍る違和感に惹かれ、思わず購入。
もちろん水生大海の作品は初めて。

新卒で就職が叶わず、派遣でOLとして働き、一念発起して国家資格であ
社会保険労務士となった朝倉雛子・26歳が主人公。ちなみに社労士と
は、企業の依頼を受けて労働問題の相談に乗ったり、社保・年金などの
管理・アドバイスをする有資格者を指す。

僕はこれまで社労士が入るような会社で働いたことが無いのだが、故に
経理関係の雑務を自らこなすことはママある。したがってこの手の仕事
どんなに面倒かはよ〜く知っており、ソレのスペシャリストになろう、
などとは夢にも思わない(^^;)。だからこそ、若干26歳で資格まで取り、
初々しくも一生懸命仕事をする主人公が可愛くて仕方ない。まるで親に
でもなったかのように、「オイオイ、それは違うよ」とか「大丈夫だ、
ガンバレ」とかイチイチ思ってしまった。

正直、国を挙げてコンプライアンスを声高に叫ぶ今の風潮には納得出来
ない部分もあるのだが、間違い無く現実でも起こりうる事象がこの作品
の中に多々ある。大きくなりつつある会社の経営陣はきっと参考になる
と思う。

・・・ウチは当分要らないなぁ、社労士(^^;)。なんつっても一人だから。

最強の系譜

#ストロングスタイルの源流


▼最強の系譜 プロレス史 百花繚乱 / 那嵯涼介

ある意味「待望」の本が遂に出版。
著者は那嵯涼介氏。小泉悦次氏・ミック博士氏と並び、僕が個人的に尊敬
している「プロレス史」探求家が、もの凄い“ボリューム”の本を出してく
れた。

基本はG SPIRITSに掲載された記事をまとめたもの。ということは、全て
を既に読んでおり、どの記事にも唸らされた覚えがビンビンにあるのだが、
こうやってまとめて読むとやっぱり唸る。巻末の参考文献一覧までをしっ
かり読んだ後、しばらくの間呆けてしまうくらい、凄まじい本である。

カール・ゴッチダニー・ホッジローラン・ボックに関する記述はお
そらく世界一の精度と内容を誇り、その手の、いわゆる”シューター”
“フッカー”と目されるプロレスラーに興味を持たざるを得ない我々のよ
うな昭和プロレス者にはやたらと響く内容。コレに加え、幼い頃に秋田
書店プロレス入門で読んだ「恐怖のトルコ人」こと、ユーソフ・イシ
ュマイロロ(本編ではユーソフ・イスマイロと表記)の件やトルコレス
リングの解説が詳細に描かれており、そのあたりを鬼のように読み込ん
でしまう。三つ子の魂、ってヤツなのかなぁ・・・。

本体価格2,000円はかなり高めの設定だと思われるだろうが、実際に本
を手に取り、ページをめくってみればそ値段がかなり「安い」という事
実に気付くと思う。最低でもプロレスに興味のある人しかターゲットに
なり得ない本だが、一度でも「プロレスこそ最強の格闘技」を信じた人
なら持っていなければいけない作品

作者の冒頭の言葉を、僕も拝借させていただく。
「プロレスラーに”強さ”を求めて何が悪い」と。

バック・ステージ

#舞台裏ミステリー


▼バック・ステージ / 芦沢央(Kindle版)

ずいぶん久々の芦沢央作品。
最初に読んだのは5年前、彼女のデビュー作。あの時は気合いの入った
イヤミスを期待しながらも食い足りなかった印象があったのだが、果た
してコレは?という感じで。

基本は連作短編集。主軸としては1本の舞台公演があり、そこにまつわ
る人々の悲喜こもごもを描いたヒューマンミステリーである。「まつわ
る人」のチョイスが秀逸で、俳優・女優はもちろん、PR会社の人や舞台
を観ようとしている、挙げ句は近くの図書館に居た小学生の母親など
という、全く関係の無さそうな人たち。ソレらをキレイに繋げ、舞台仕
立ての構成で一本の物語を作ってしまっているのだから恐れ入る。

ユーモア溢れる文体に加え、いくつかある恋愛系のエピソードがかなり
ツボ。しっかり欺された上になんとなくホンワカした気分になれたのは、
ちょっと意外だった。

芦沢央、凄くいい作家に成長している模様。
あれからかなり著作が溜まっているようだし、しばらく読むモノに困る
ことは無さそう。なかなかやるじゃん!