脱出老人

#老後対策


▼脱出老人 / 水谷竹秀(Kindle版)

リコメンドに出た表紙のインパクトに思わず購入したノンフィクション。
あとがきを読むと、この表紙の写真も作者の水谷竹秀氏が撮ったモノだ
とか。写真家としても相当腕の良い人らしい。

高齢者の海外移住が流行しているとかしていないとか。
仕事をリタイアし、悠々自適の生活をしようにも、けして充分でないの
「年金」。10〜15万円の支給額ではカツカツになるのは目に見えて
おり、充分な貯蓄が無ければ困窮は必至。であるのなら、物価・家賃
安くて気候も温暖な外国に移住すれば良い、という考え方らしい。

この作品は、高齢期に入ってから海外移住、それもアジア・フィリピン
への「脱出」を図った様々な人たちの、様々な記録である。自分より20
も若いフィリピン人妻を貰い、ゴルフ三昧の生活を送る成功例もあれば、
借金から逃げた挙げ句フィリピンのスラムでの生活を余儀なくされた
困老人の話も。同様なことを考えている人たちにとっては、かなり有用
ケーススタディとなるのではないか?

実は僕も、かなり真剣にコレを考えたことがある。
子どもも無く、退職金どころか年金の受給さえ怪しい感じの僕にとって、
まもなくやってくる老後恐怖でしかない。どうせ寂しく死んで行くの
であれば、ある程度のお金を作ってある程度の贅沢が可能な国で生涯を
閉じるのも悪く無い、と思っていたのだけど・・・。

・・・この本を読む限り、生半可ではダメだな、と(^^;)。
ただ、もし老後の海外移住を実行に移す時は来るとしたら、選択肢は
やっぱりフィリピンになっちゃうのかなぁ、という気もした。かの国で
老後を過ごすには、やっぱりもうちょっと予算が必要なことも解った。
なんにせよ、もう少し頑張らないと!という心構えも少し出来たかも。

この作家、著作はそれほど多くないのだが、他にも似たテーマの作品
出しているらしい。機会があれば全部読んで、いろいろ備えてみるのも
良いかもしれない。そろそろ人ごとでは無い問題なので・・・。

Eine kleine Nachtmusik × Ryo Ikuemi

#ベリーベリーストロング


▼アイネクライネナハトムジーク上 / 伊坂幸太郎・いくえみ綾

▼アイネクライネナハトムジーク下 / 伊坂幸太郎・いくえみ綾

・・・ぶったまげた
何にぶったまげたのかというと、僕の中で殿堂入りしている漫画家のこと
を、僕の中で殿堂入りしている小説家大好きだった、ということ。

その殿堂入りしている漫画家が、殿堂入りしている小説家の作品を転がし、
彼女の真骨頂とも言える世界を見事に構築している、ということ。

いくえみ綾伊坂幸太郎のコラボは、思った以上にスパーク
僕の大好きないくえみ綾のあの世界が、もう一度僕の胸を幸せで満たす
なぜなら、伊坂幸太郎という最高にして最強の素材を料理したのだから。

この甘酸っぱい幸福感、一体なんなんだろう?
小説と、マンガと、そしてもうすぐ公開の映画で、僕は3回幸せになれる
ベリーベリーストロングだ、コレ。

コイコワレ

#螺旋プロジェクト


▼コイコワレ / 乾ルカ(Kindle版)

螺旋プロジェクト第四弾その1
作者の乾ルカ、もちろん初めてで知っている知識は北海道在住の美人作家
である、ということくらい(^^;)。螺旋プロジェクトに関わっていなかった
ら、おそらく作品を目にする機会も無かったかもしれない。

時代は昭和、具体的には太平洋戦争末期。日本の敗色が濃厚となった時
期に東北集団疎開に出される小学生たち。その中の一人に、“蒼い目”
を持つ清子が居た。清子が寝泊まりする寺は、身寄りの無い子どもたち
を受け入れる場所。そこには“長い耳”の少女、リツが。巡り会ってしま
った海族と山族はお互いを嫌悪して・・・という内容。

戦争という規模の大きな対立の最中に、海vs山、それも少女vs少女とい
うある意味極地的な対立が描かれているのがポイント。ただお互いが気
に入らない、という理由で対立を深め、気が付いたら命のやり取りまで
発展する。もしかしたら彼女らの小さな「諍い」は、これまで起こった
多くの「戦争」大差無いのかもしれない。そんな象徴的なことを考え
てしまった。

・・・結構な問題作だと思うが、読後感はけして悪く無い。そして海vs山の
対立構造が個人レベルに落とし込まれているため、感情移入がし易く明快
で解りやすい。もしかしたら「螺旋プロジェクトの取扱説明書」的な役割
を担ってくれるのかも。

さて、残り3冊。
順番的には古代・原始・未来かぁ・・・。果たしてどんなモノか・・・。

蒼色の大地

#螺旋プロジェクト


▼蒼色の大地 / 薬丸岳(Kindle版)

螺旋プロジェクト第三弾2作目は社会派ミステリーの重鎮、薬丸岳
登場。この作家凄く読んだ気がしてた人なのだが、なんとであること
が発覚。未だに信じられない感じ(^^;)なのだけど。

時代は明治、それも幕末をやや引き摺っている頃の話で、場所は瀬戸内
・鬼仙島。これまでの作品で何度か名称の登場した“あの島”が舞台とな
っている。主役になるのは期せずして海賊になってしまった男と、これ
また何故か帝国海軍に所属してしまった男の2人。もちろん、一方は海
の者で、もう一方が山の者、という設定である。

特徴的なのは、海山双方の主役が共に「巻き込まれた」キャラである、
ということ。それぞれが全く違う方向から「人間としての正しい生き方」
を模索し、結果的に似たような場所に辿り着く、という皮肉。正直イマ
イチ行動に思い入れの持てないヒロインとか、終盤のまどろっこしい場
面などの難点はあるのだが、トータルで骨太な印象を残しているのはさ
すが。

これまで読んだ螺旋プロジェクトとちょっと違うのは、宿命的にお互い
を嫌悪する、即ち水と油である筈の海族と山族が、ある種融和する場面
があること。コレ、このプロジェクトのルール的に反則な気がするのだ
が、この後の他作家に影響が出ないかちょっと心配・・・。

もののふの国

#螺旋プロジェクト


▼もののふの国 / 天野純希(Kindle版)

気が付いたら全てが出揃っており、個人的にやや出遅れた感の否めない
「螺旋プロジェクト」第三弾2作同時リリースで、いよいよ時代が
過去に向かう。まずは千年続いた「武士の時代」が描かれる天野純希
「もののふの国」から。

何度か書いているが、時代小説はかなり苦手(^^;)。そんなワケでコレ
は最初パスしようかと思ったのだけど、結果から言えば「飛ばしてい
たら後悔した」
。学校教育で日本史を学んだ者であれば、誰もが楽し
める筈の小説である。

考えてみれば、螺旋プロジェクトのテーマである「海族と山族の争い」
をいちばん端的に表現出来るのが武士の時代。古の源平の闘いに始まり、
本能寺の変戦国時代幕末と、歴史の要所で起こった日本人なら誰も
が知る「争い」海vs山に落とし込んでいるのだから、面白く無いワケ
が無い。

正直これだけ時代小説にのめり込んだのは初めて。天野純希という作家
ももちろん初めてなのだが、「海族vs山族」というファンタジーを当て
込みながら、圧倒的とも言えるリアリティを醸し出している筆力はかな
りのモノ。螺旋プロジェクトを読み終えたら、間違い無く他の作品にも
手を出してしまいそう。

伊坂幸太郎の与えたテーマは才能ある作家陣を更に加速させている感。
このプロジェクト、やっぱり凄い。遅れを取り戻さねば・・・。