ヤタガラス

▼下町ロケット ヤタガラス / 池井戸潤(Kindle版)

池井戸潤下町ロケットシリーズ第四弾
やはり、前作「ゴースト」とこの「ヤタガラス」はほぼ一本の物語だった
らしく、ゴーストのリリースから約2ヶ月という短いスパンでの新作発表。
いやぁ、やるなぁ、やっぱり(^^;)。

前作で新展開を迎え、新たに登場した人物や会社の立ち位置が明確になる。
当然、物語の中でこの人は善玉・この会社は悪玉、などの役割もハッキリ
して来るのだが、凄いのはベビーフェイスにはベビーフェイスの、ヒール
にはヒールの理論がしっかりあり、それぞれになんとなく共感を覚えてし
まうこと。逆に、今やすっかり超善玉の立場を確立している佃製作所が、
ちょっと色褪せて見える瞬間さえあった。

そもそも、本当のビジネスの世界もそういう場面は多々起こりうる。
僕自身、これまで決して公明正大に仕事をしてきたワケではなく、間違い
無く卑怯汚い仕事に手を付けたことも正直あった。そう考えると、これ
までの勧善懲悪なビジネス物語を逸脱し、更にリアルなビジネスシーン
描く、というのは大正解。この作品でビジネスマンたちの評価は更に上が
ると思う。

池井戸潤、ビジネス小説の世界では最早最高峰に達した感。
確定している、というTVドラマ化が、今から本当に楽しみ!

サークル

▼サークル 猟奇犯罪捜査官・厚田巌夫 / 内藤了 (Kindle版)

内藤了猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズスピンオフ
以前レビューした「死神女史」こと石上妙子のサイドストーリーに続いて2作目
となる本作の主役は、頼れるボス・ガンさんこと厚田巌夫。時代設定としては、
石上センセイとガンさんが「夫婦」だった時期。想像するに、昭和後期頃のエピ
ソードだと思われる。

今回もストーリー展開が解りやすく、入り込みやすい物語なのだが、前作の石上
ストーリー「パンドラ」と比較すると、少々食い足りなさを感じたのも事実。

ここからチョイネタバレ注意。

・・・というのは、今作の冒頭で起こる事件が解決しないまま終わってしまう、と
いう、このシリーズ特有の引っ張りがあるから(^^;)。藤堂比奈子シリーズ本編
で慣れたつもりなのだが、スピンオフでもコレをやられてしまうとさすがにちょ
っと萎える。払拭するにはもうとっとと続編を出して貰うしか無い(^^;)のだが、
本編クライマックスになるであろう「BURN」のリリースすらまだなのだから、
さすがにもう少し待たなければならないかも。

まぁ、続きが気になる、というのは良い作品の証拠でもある。
諸々早めに出してくれるとすっごく嬉しい。

そして、電子書籍版巻末オマケの「妙子レシピ」がかなり微笑ましい感じ。
ファンの人はココを楽しみにしても良いと思います!

屈辱出版

▼屈辱出版 / 黒野伸一(Kindle版)

またもや読むべき本を読み切ってしまったのでKindleストアを徘徊したところ、
Unlimited扱いで興味深い作品を発見した。「限界集落株式会社」でお馴染み、
黒野伸一エッセイ集。サブタイトルは「出版社に戦力外通告された小説家が
自力でエッセイ集を出してみた」。え〜、戦力外って(^^;)。

というワケで、こちらはKindleのみでリリースされた自費出版作品。
戦力外云々はともかく、確かに黒野伸一のエッセイはこれまで読んだ覚えが無
いので、ここは迷わずダウンロード。しかし・・・。

いやぁ、くるなぁ、コレ・・・。
内容の8割は動物について書かれている。飼っていた小鳥や近所の犬・猫の話
題であり、どれも軽妙で緩やかなエピソードなのだが、どうしたワケか全ての
物語で鼻がツーンときてしまう。愛玩動物の生死、というのは僕にとってかな
りの劇薬で、この手の話には本当に弱い。読んでいるうちに過去のいろいろな
ことを思い出してしまったらしい・・・。

いくつかの誤字・脱字があり、レイアウトも適当、等のインディーズ感が漂う
のは否めないが、ストレートで肩に力が入って居ない黒野伸一の文章はなかな
か魅力的。しかし、活躍の舞台が自費出版の世界になっちゃう、というのは、
ちょっと寂しいのだが・・・。

心配になって調べてみたら、2018年3月以降のリリースが無い
本当なのかなぁ、戦力外って・・・。

検事の死命

▼検事の死命「佐方貞人」シリーズ / 柚月裕子(Kindle版)


柚月裕子
佐方貞人シリーズ
およそ1ヶ月待った電子書籍がやっとリリースされたので、さっそく読んでみた。

今回ももちろん連作短編法廷ミステリーなのだが、シリーズを通して読んで
来た人たちにある種の「納得」を与えてくれるエピソードがいくつか。特に前
半、非業とも言える死を遂げた佐方の父に関するエピソードでは、読者感情的
腑に落ちなかったストーリーがしっかり処理されており、このシリーズでは
珍しく、実に爽やかな展開に

そして、ラストの中編「死命を賭ける」で、検察という組織の歪な構造に迫っ
ているのがポイント。事件自体はどうということの無い条例違反なのだが、そ
れが検察で働く何人かの人生を左右する事件に発展していく様がダイナミック
に描かれている。法廷での検事・佐方と弁護士との応酬は思わず手に汗を握っ
てしまうほどのリアリティ。いやもう、ただただすばらしいと思います。

このリリースで、このシリーズは全ての作品の電子書籍化が完了。今のところ
この作品が最終だが、こうなってくると弁護士に転職した佐方のその後が非常
に気になる。ぜひぜひ、早い段階で続編を出して欲しいなぁ、本当に。

ブロードキャスト

▼ブロードキャスト /  湊かなえ

湊かなえの新作は、なんと驚きの「学園青春小説」
もちろん「告白」「高校教師」など、学校を舞台にした作品は多々あるのだ
が、まさかこのジャンルを攻めてくるとは・・・。

正直、最初は違和感バシバシだった。あの湊かなえが青春モノを書いている、
というのが俄には信じがたく、混乱すら覚えた。しかし、途中からグイグイと
物語に引き込まれて行く。熱いじゃん、コレ!という感じで。

舞台は高校「放送部」
有望な陸上選手だった主人公が交通事故で夢を絶たれ、流されるままに文化系
放送部に入部。そこにも「全国」を目指す世界があって・・・という、青春小説
のステレオタイプとも言える内容。信じて貰えないかもしれないが、実は僕、
文化系の部活動を殆どやったことが無い。故に描かれる世界は非常に新鮮で、
感情移入の度合いは激しくなる一方。しかし・・・。

途中でやたら不安(^^;)になった。
このメチャクチャ熱い小説はぜひハッピーエンドで終わって欲しい、と思って
いたのだが、なんと言っても作者はあの湊かなえ(^^;)。とんでもなくイヤ〜
な結末を持ってくるんでないか?と勘ぐらざるを得ない。そういう意味でも、
まぁ最後までドキドキさせてくれる作品であった。

湊かなえがイヤミス完全封印、というのはちょっと寂しくもあるのだが、こう
いう全く予測も出来なかったジャンルでしっかりと面白い作品を創り出してし
まう湊かなえも非常に魅力的。この作品の続編も含め、湊かなえの描く青春小
をもっともっと読んでみたい。

かなりの傑作。掛け値なしでオススメです!