To Be The Man

▼リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン
/ リック・フレアー&キース・エリオット グリーンバーグ

ずいぶん前に購入したのだが、ずっと本棚に置きっぱなしになっていた本。
「狂乱の貴公子」にして、史上最も偉大なNWA世界ヘビー級チャンピオン
リック・フレアーの自伝である。

・・・いやぁ、面白かった
とにかくハチャメチャで破滅的な生活を送っていた旧NWA時代の話と、
不本意な世界に巻き込まれまくったWCW時代の話はあまりにリアル
リック・フレアーがリック・フレアーである理由が本当に良く解った。
が・・・。

・・・まぁこの本、プロレスファンにしか響かない、とは思う。
いわゆる海外ペーパーバック翻訳物であり、かなりいい加減な翻訳であ
ることは間違い無い。もっとも、これは翻訳者の責任ではなく、原作者の
文体そもそもいい加減だった可能性が高い(^^;)。まぁ、フレアーだから
ある意味でしょうがないのだけど。

例えば同じような翻訳モノの海外プロレスラーの自伝でも、ダイナマイト
・キッドの自伝のように一般の人にも刺さりそうな内容の本もある。そう
考えると、ちょっとだけ惜しかったかな、と。

この本、既に廃刊となっているらしく、中古価格はべらぼうに高い
だから、プロレス好きで無い人には全くオススメできませんので念のため。
個人的には「買っといて良かった!」と思ったけど(^^;)。

沈黙のパレード

▼沈黙のパレード / 東野圭吾

東野圭吾の新作は6年ぶりガリレオシリーズ。しかも長編
前作「禁断の魔術」のエピソード後、米国に渡った天才物理学者・湯川学
そこから月日は流れ、帰国した湯川先生は教授に、その親友の刑事・草薙
本庁捜査一課の警部にめでたく昇進。そんな折に起こった事件は、静岡県の
ゴミ屋敷の火事。焼け跡から発見された2体の遺体が巻き起こした事件は、
草薙の心を今も抉る過去の事件と関連していた・・・というお話。

・・・いやぁ、すげぇわ(^^;)。
登場人物がやたら多く、加えてかなり複雑なストーリーなのにも関わらず、
読書中に混乱を全く覚えない。それだけ物語の「芯」がしっかりしており、
様々に展開される心情描写に異様なまでの説得力がある。さらにこのシリ
ーズではお馴染みの化学物理のエッセンスもしっかり加えられ、その上
でラスト近くには最上級と言って差し支えの無い見事などんでん返しをぶ
ち込んでくる。東野圭吾の良いところが全て入った作品、と表現するのが
いちばん正しい気がする。

そして小憎らしいのは、ひっそりと過去作品とのリンクを作っていること。
いつもに比べて事件に積極的なガリレオ先生の様子を不思議に思っていた
のだが、それで全ての納得がいった。

ただし・・・。
これはガリレオシリーズの長編全般に言えることだが、導入から展開に入
るまでの物語が非常に「重い」のも事実。特にこのパレードは他のシリー
ズ作品と比較しても格段に重い。以前読んだ「さまよう刃」のような重さ、
と言えば解って貰えるだろうか?

ただ、ラスト近くまで読んでしまえば、そういうシーンが絶対必要であっ
た、ということに気付く筈。日本ミステリー界のトップに相応しい、入魂
の作品だと思う。もちろん、オススメ。早く映画化してくんないかな?

能面検事

▼能面検事 / 中山七里(Kindle版)

個人的には約6ヶ月ぶりとなる中山七里作品。
語り部は女性新人検察事務官惣領美晴。彼女が大阪地検の“絶対的エース”
とされる一級検事不破俊太郎に付くことに。不破の仇名「能面」
感情を決して表に表さず、あらゆる圧力に決して屈せず、自分にも他人にも
厳しい検事が、上席やある意味身内でもある警察をも敵に回しながら事件を
捜査。美晴は苛立ち、翻弄されるのだが・・・という内容。

氏のこの手の作品は多々読んできた気がするが、もしかしたら「検事」
主役に据えたストーリーは初めてなんじゃないか、と。ただこの作品、検事
が活躍するにも関わらず、いわゆる「法廷」のシーンがほぼ登場しない
TVドラマの「HERO」と同じく、“検事調べ”と呼ばれる検察官の捜査にスポ
ットが当てられている。非常にユニークな構成

そして、代名詞である「どんでん返し」が今回も秀逸。伏線の張り方から、
思わず唸ってしまうラストまで、作り込みの精密さが半端で無い。ある意味、
最も中山七里らしい作品、と言えると思う。

不破のその後も、おそらく事務官として成長するであろう美晴の未来も非常
に気になる。コレはシリーズ化して欲しいなぁ・・・。

扉子と不思議な客人たち

▼ビブリア古書堂の事件手帖 〜扉子と不思議な客人たち〜  / 三上延(Kindle版)

昨年「7」シリーズファイナルを迎えたビブリア古書堂シリーズ7年後
栞子さん大輔さんは無事に結婚、生まれた子どもの名前は「扉子」
そういう布陣でスタートした後日譚なのだけど・・・。

実際には「母が娘に過去を語って聞かせる」という形で展開するこれまで同様
の連作短編(^^;)。まぁ、卑怯だと言えなくも無い手法なのだが、これまでと
テイストの同じ「本」にまつわるエピソードを読ませてくれる、という事実に
対してホッとしている自分が。まぁ、好きなんだよね、このシリーズが(^^;)。

特に面白かったのが、まさかの「ゲーム雑誌」を取り上げた2話目。
高尚な文学作品から、この手のジャンルまで差別せずに掘り下げるのが三上延
の真骨頂。各種の「本」が好きな人なら絶対に引き込まれる世界をキッチリと
構築出来るのは、この作家だけが持っているモノだと思う。

かなり大変だったシリーズ本作が終わっても、こういう形で「続き」を読ませ
てくれるのは本当に嬉しい。以降も無理せず、丁度良いペースで新たなエピソ
ードを書いてくれるといいな、本当に。

ヤタガラス

▼下町ロケット ヤタガラス / 池井戸潤(Kindle版)

池井戸潤下町ロケットシリーズ第四弾
やはり、前作「ゴースト」とこの「ヤタガラス」はほぼ一本の物語だった
らしく、ゴーストのリリースから約2ヶ月という短いスパンでの新作発表。
いやぁ、やるなぁ、やっぱり(^^;)。

前作で新展開を迎え、新たに登場した人物や会社の立ち位置が明確になる。
当然、物語の中でこの人は善玉・この会社は悪玉、などの役割もハッキリ
して来るのだが、凄いのはベビーフェイスにはベビーフェイスの、ヒール
にはヒールの理論がしっかりあり、それぞれになんとなく共感を覚えてし
まうこと。逆に、今やすっかり超善玉の立場を確立している佃製作所が、
ちょっと色褪せて見える瞬間さえあった。

そもそも、本当のビジネスの世界もそういう場面は多々起こりうる。
僕自身、これまで決して公明正大に仕事をしてきたワケではなく、間違い
無く卑怯汚い仕事に手を付けたことも正直あった。そう考えると、これ
までの勧善懲悪なビジネス物語を逸脱し、更にリアルなビジネスシーン
描く、というのは大正解。この作品でビジネスマンたちの評価は更に上が
ると思う。

池井戸潤、ビジネス小説の世界では最早最高峰に達した感。
確定している、というTVドラマ化が、今から本当に楽しみ!