最後の証人

▼最後の証人「佐方貞人」シリーズ / 柚月裕子(Kindle版)

間もなく全読破しそうな勢いの柚月裕子強化月間
ここでタイミング良く電子書籍化された「最後の証人」をチョイスしてみた。

こちらは法廷ミステリー
元検事、いわゆる“ヤメ検”の弁護士、佐方貞人が主演を務めるシリーズ。ちゃ
んと調べたワケでは無いが、これがシリーズ1作目というワケでは無いらしい
ので念のため。

いやぁ、コレも唸った
まず凄いのが、終盤に入るまですっかりミスリードを許してしまった叙述トリ
ックの巧みさ。ほぼラストの段階で思わず「へ?」という言葉が割と大きめの
音量で飛び出してしまったのだから凄い。

加えて、読んでいるだけで憤りを感じる過去関連事件の描写が生々しく説得力
に富んでいるのもポイント。巻末で解説を書いている作家の今野敏「柚月裕
子は動機を書く作家」と評したが、この言葉は本当にストン、と腑に落ちる。
この作家のすばらしさは、「動機描写の絶妙さ」も多分にあると思う。

初期の作品のようだが、コンパクトにまとまった良作
柚月作品のファーストタッチには最適な気がするので、ちょっと気になってい
る人は価格も安く手を出しやすいこの作品を最初に読むことをオススメします。

ところでこのシリーズ、他の作品は未だ電子書籍になっていない。
宝島からリリースされた作品は、この作家に限らず電子書籍化されていない作
品が多い気がするのだが、何故なんだろう?
とにかくこのシリーズ全作品のKindle化を強く望みます!面白いので

ウツボカズラの甘い息

▼ウツボカズラの甘い息 / 柚月裕子(Kindle版)

柚月裕子強化月間継続中
特に意識したワケでなく、「まだ読んでいない」という理由でチョイスしたの
だが、これがまたとんでもなくハードミステリー。ネタは基本的に「マルチ」
である。

マルチとはいわゆるマルチ商法のことで、悪い言葉で言えばネズミ講、良さそ
げな言葉で言えばネットワークビジネスのアレ。マルチの細かな解説があるワ
ケではなく、あくまで物語の重要な部分の盛り上げとして使われているところ
がポイント。

人を騙す、という行為のメカニズムが一目瞭然。
どちらかと言えば僕は騙す側の人間だと思っていたが、この作品に登場する連
中に比べたらまだまだひよっこだな、と思った(^^;)。

もう慣れてもおかしくない頃なのだが、相変わらずこの人の作風は漢臭い
「漢」とは言っても、冴えない中年サラリーマン連中がなんだかんだで読んで
いる実話系週刊誌の世界であり、コレを女性が書いている、というのが非常に
興味深い。どんな生い立ちなんだろうなぁ、柚月先生・・・。

そんなことを言っている間に全読破間近。さて次は・・・。

合理的にあり得ない

▼合理的にあり得ない 上水流涼子の解明 / 柚月裕子(Kindle版)

またしばらくは柚月裕子強化月間。
ということで、今回は刺激的なタイトル「合理的にあり得ない」をチョイス。
不祥事を起こして法曹界を追われた元敏腕弁護士・上水流涼子が、探偵として
主に“悪徳商法”系の敵を次々に駆逐していく、という痛快な物語。

形式は全5話からなる連作短編集で、それぞれのネタはエセ予言・悪徳バブル
成金・ヤクザ賭け将棋・仇敵・野球賭博の5つ。柚月裕子と言えば、全ての作
品に共通する“漢っぽさ”というのがあるのだが、このネタ一覧を見て貰うだけ
でソレがぶれていないことがお解りいただけるかと。本当に女性とは思えない
なぁ、この作家(^^;)。

個人的に印象深かったのは野球賭博を扱ったラストの「心理的にあり得ない」
僕はもちろん手を出したことは無いが、野球賭博というギャンブルの仕組み
買い方までがキッチリ解説されているところが凄かった。

・・・ハマってるなぁ、柚月裕子。
おそらく近いうちに著作を全部読破してしまうと思うのだが、そうなった場合
喪失感がちょっと心配。なるべくゆっくり読もう、今後は。

家族シアター

▼家族シアター / 辻村深月(Kindle版)

本年度の本屋大賞受賞作家辻村深月の短編集。
実はかなり前から読もう!、と思っていた作品なのだが、タイミングが合わず
にここまで来てしまった(^^;)。まぁ、満を持して、という感じで。

タイトル通り「家族」の物語が7篇
どれもこれもいわゆる「あるある」系の話であり、似たような家族構成の人
ら確実に共感出来そうなエピソードばかり。ニヤッとさせつつモヤッとさせ、
さらにキュン、と来させる辻村ワールドが見事に構築されている。感心するの
は、一篇の中にキッチリした起承転結が組み込まれていること。その所為か、
一つ読み終わる度にイチイチ「納得」出来るところが凄い。

オススメは小学校6年生の息子(当時)を持つ父親のエピソードで、タイトル
「タイムカプセルの八年」。子どもを持ったことの無い僕でも、思わずグッ
と来てしまうストーリーは妙に清々しく、なんか明日も生きていけそうな気分
にさせてくれた。

この作家の「読ませ方」は本当にすばらしい。
映像化にも凄く向いている作品な気がするので、NHKあたりで連ドラにして
くれると嬉しいなぁ・・・。とにかく良作です!

未来

▼未来 / 湊かなえ

湊かなえの新作。
純粋な小説としては、2年前の「ポイズンドーター・ホーリーマザー」以来。
あいだにボリュームのあるエッセイ2冊出しているとはいえ、これだけ期間が
空くのは珍しい。つまり、ファンとしては待望の作品なのだが・・・。

なんと、今回も“原点回帰”とされるイヤミス
そもそも僕がイヤミスにハマったのは正しく湊かなえの「告白」があったから
であるから、女史がその手の作品を連発することになんの文句も無い。
しかし・・・。

今作に関しては、なんというか・・・。今ひとつ食い足りない感があった。
イジメに始まり、DV近親相●AV出演から殺人までいろいろな負の要素
網羅されているのは初期からのファンである僕には嬉しいし、それらを繋いで
形成されるミステリーもかなりのレベルだと思う。実際読書中はかなりドキド
キし、湊マニアとして極上の時間を貰った。じゃあ何が悪いのかと言うと・・・。

おそらく、ラストの処理
イヤミスならイヤミスらしく、最後まで救いようのない展開で全うして欲しか
った、と言ったら贅沢なのかなぁ・・・。

ミーニングのちゃんとあるタイトルや、ソレと真逆を行くデザインの装丁など、
気合い充分の新作ではあるだけに、この中途半端さがちょっと残念。もしかし
たら今の湊かなえに「圧倒的なイヤミス」を求めてはいけないのかも・・・。