「ヒポクラテスの憂鬱」後半にちょっと登場した古手川刑事の上司、犬養隼人。
僕が中山七里にハマったのは刑事犬養隼人シリーズ「切り裂きジャックの告白」
であったため、その登場に「うおおおお!」という感じになった。アチラ読了
の後、条件反射で犬養タイトルロールを読みたくなり、Kindleストアを覗いた
ところ、しっかり出てるよ新作が(^^;)。文庫まで我慢できずに購入しました・・・。
本当は恐ろしいと言われるグリム童話の中でも、その不気味さと恐ろしさ、そ
して救い様の無さに定評のある「ハーメルンの笛吹き男」を元ネタに繰り広げ
られるミステリー。次々にさらわれるのは全員女子高生、そして彼女らには全
員に共通点があって・・・という感じで展開される大規模な誘拐事件の顛末を描い
たもの。
犬養シリーズはどの作品もやや重いモノが多いのだが、今回も相当な「重さ」。
現実世界でも実際に起こった「子宮頸がんワクチンの副作用(副反応)」とい
う“薬害”がテーマとなっており、読中に始終どんよりした気分になる。娘も無
く、何なら女性でも無い僕でも漠然とした怒りが沸いてくる程のリアリティは
やはり極上。最初から最後まで持続する緊張感もさすがである。
ただ、今回は珍しく全体の半分を読んだところで犯人の目星がついた。
“どんでん返しの帝王”の異名を持つ中山七里の作品としては珍しい事態なのだ
が、この作品ではテーマ寄りのスタンスをチョイスしたのだと思う。この件に
ついて何も知らなかった僕のような人たちに関心を持たせた段階で、目的は果
たされているんだろうなぁ、きっと。
ところで、「ハーメルン」が伏線として機能していない、有効で無い、という
書評が幾つかあるが、“社会的な嘘”と“それに引き摺られる子どもたち”が相対
的に描かれている段階で充分なモチーフ。正直、そこに突っ込む必要は全く無
いと思うのだが・・・。
テーマがテーマだけに、読む人を少し選ぶ傾向があるかも。
社会派ミステリー好きには鉄板でオススメしておきます。