ちょっと今から仕事やめてくる

▼ちょっと今から仕事やめてくる / 北川恵海(Kindle版)

書店の文庫コーナーに平積みされていた商品。
煽り文を読んで興味を持ち、電子書籍版を購入。果たしてこの買い方
は正しいのか?と問われると、自分でもちょっと疑問なのだけど・・・。

北川恵海という作家はもちろん初めて。平積みになっていたのは、第21回電撃
小説大賞・メディアワークス文庫賞を受賞したかららしい。この賞にはあんまり
興味は無いのだけど、帯だけ読むと最近話題になっている「事件」と同じような
世界を扱っている模様。先入観を捨ててに読んでみた。

かんたんに言えば、ブラック企業に勤務し、ニッチもさっちも行かなくなり、
無意識のうちに自ら命を絶ってしまいそうだった男が、突然現れた小学校時代の
同級生を名乗る不思議な男性に救われる、という物語。ファンタジー要素の強い
作品かと思いきや、決してそんなことは無く・・・という感じ。

それほど長い作品ではなく、文章のテンポも良いので、約半日程度で一気読み。
正直、テクニック的にはまだまだなところもあるし、読み応えという部分では
充分では無い。しかし、中身は決して軽くなく、読中にところどころで考え込
んでしまう部分が。作者が何を伝えたいのか?が非常にハッキリしており、何気
ない台詞の一つ一つが確実にこちらの胸を打ってくる。今後がさらに期待出来
る作家、と言って良いと思う。そして・・・。

下記よりちょいネタバレ注意

幸いなことに、僕は「ブラック」と感じる会社に勤務したことは無い(筈)。
だから、本当の意味では主人公に共感出来ていないと思うのだけど、作中に激務
が原因で自殺してしまった男母親「逃げ方を教えなかった」ことを悔いてい
る部分を読んで大いなるショックを受けた。もし自分が人の親になったとして、
親として「頑張れ」以外の言葉をきちんと言えるかどうか・・・。それを考えると、
本当に怖くなる。

岡村靖幸の歌に、こんな一節がある。

“寂しくて 悲しくて つらいことばかりならば
あきらめて かまわない 大事なことはそんなんじゃない”

・・・自分に近しい人がピンチに陥ったらこの歌を贈りたい、と改めて決意。
どれだけ不景気だろうと、どんなに就職難であろうと、やっぱり“たかが仕事”
自分がそれを楽しめるかどうかで、“されど仕事”になるんだと思う。

本当に辛いのなら、本人はまず逃げること
そして人の親ならば必ず子どもに「逃げ方」を教えなければならない
後から何を言っても、大事なものは絶対に戻らないんだから。