倒れるときは前のめり ふたたび

#ひらがな


▼倒れるときは前のめり ふたたび / 有川ひろ

エッセイ集
内容云々の前に、この本が出版されたこと自体が結構なニュースにな
るべきなのだが、僕は出版の事実をわりと長い間知らなかった。それ
には理由があるのだが・・・。

少なくとも、僕にとって「有川浩」という作家は特別の中でも特別
存在だった。友人に勧められるがままに読んだ一遍は、とんでもなく
「ベタ甘」恋愛小説。それまでの僕なら完読すら難しかった種類の
小説を最後まで読ませ、さらに虜にした。以降はありとあらゆる著作
を読みまくり、全てを制覇した後は新刊を心待ちにするようになった。
「フリーター家を買う」「県庁おもてなし課」、そして「空飛ぶ広報
室」。ハードカバーで購入した何冊もの本は、いつも期待以上。そし
「旅猫リポート」は、読中から僕の五感を刺激しまくり、文字を読
みながら号泣する、という人生初の体験をもたらしてくれた。そんな
小説家は、今まで有川浩一人だけしか居ない。

そんな有川浩が、2016年を最後に一切の作品を発表しなくなった。
それまでの最終作「アンマーとぼくら」は、正直納得のいく内容では
なく、それについて否定的なレビューを書いた記憶がある。この評価
はどうやら僕だけでは無かったらしく、氏の著書にしては賛否が入り
乱れる状況。その段階で「有川浩」の名前は出版界から消えた。

ネットでは憶測で溢れる。編集者への虐待、大手出版社への反旗、メ
ンタルがメチャクチャ、干された、etc。そういう記述を目にする度に
悲しくなったし、もしかしたらもう二度と有川浩の作品は読めないか
もしれない、と覚悟すらした。

それでも、東野圭吾・伊坂幸太郎・湊かなえ・誉田哲也・真梨幸子・
池井戸潤らと共に、必ず有川浩を新刊検索する毎日。だとすればヒッ
トして当然なのに、発売から長い時間が過ぎるまでこの本の存在を知
ることが出来なかったのは、作家名が違っていたから。まさか名し
ていたとは、夢にも思わなかった。

有川浩は「有川ひろ」として復活。その第一弾が、拾い集め感の強い
エッセイ集なのはちょっとだけ残念だったけど、アイドリングにはち
ょうど良かったのかも。歯に衣を着せない有川節は健在であり、賛否
はともかくとして少なくともストレートにこちらに切り込んでくる
あ、来たな!と素直に感じた。

トドメはやはり巻末に掲載された2篇短編恋愛小説
この手の小説はきっと他の作家でも書けるが、少なくとも僕の心に響
く恋愛小説は有川浩・・・いや、有川ひろにしか書けない、と思う。

急ぐ必要は無い。もし有川ひろが新作小説を手掛けるのであるとすれ
ば、僕はそれを確実に読むし、内容に納得がいかなかったとしても、
満足出来る小説が届くまでずっと待ち続ける覚悟は当然ある。一度好
きになった作家を嫌うのは、最高に難しい行為でもあるので。

さぁ、準備をしようぜ!
そしてまた前のめりになって最高の仕事をして、僕を泣かせてくれ!
それが出来るのは、きっと有川ひろだけだと思うので。