雪煙チェイス

▼雪煙チェイス / 東野圭吾

東野圭吾最新作。
1ヶ月ほど前に発売された「恋のゴンドラ」“雪山シリーズ”のスピンオフ
だとするなら、こちらは同シリーズの正統な系譜であるサスペンス。何故だか
解らないのだが、東野圭吾はスキー・スノボモノ“いきなり文庫”でリリース
する場合が多い。個人的には大歓迎なのだけど。

東京で起きた強盗殺人事件を軸にしながら、ストーリーの殆どは長野の巨大な
スキー場で展開される。容疑者・警察、そしてスキー場のスタッフと語り部は
どんどん変わるが、それぞれがそれぞれに逼迫した事情を持っている、という
展開は東野圭吾の真骨頂と言って良い。最後の方にはそれなりのミステリー
要素、下手すれば恋愛的なテイストまで入れて来るあたりがニクい

正統な系譜なだけに、「白銀ジャック」「疾風ロンド」に登場して主役を張っ
根津・千晶も出陣。ただし今作では重要な脇役に徹している。あれだけ個性
豊かなキャラが脇に引いても、さながらゲレンデのように物語がキラキラして
いる。この人、本当にウィンタースポーツを愛してるんだなぁ、きっと。

疾走感の溢れるサスペンスが好きで、尚且つスノーボード愛好家なら鉄板。
残念ながら僕はスノボの良さが全く解らない(^^;)のだが、それでもそれなり
に読んでいて楽しい作品。安定してるなぁ、この人やっぱり♪

配達あかずきん

▼配達あかずきん 成風堂書店事件メモ / 大崎梢(Kindle版)

Unlimitedリコメンドに出て来た作品。
元書店員の大崎梢、以前からちょっと気になっていた作家。これは丁度いい
機会だ、ということで、迷わず読み始めてみた。

舞台は「書店」、主人公はそこで働く2人の女性正社員大学生アルバイト
の2人だが、この2人がホームズ役ワトソン役で、書店で起こる様々な事件
を解決していく物語。残念なことに、正社員の方がワトソン(^^;)なのだが。

流れる雰囲気は日常的でややユルい感じなのだが、内容はかなり本格寄りの
ミステリー。実際に書店で起こりそうな事件5篇はどれもリアリティに溢れて
おり、ユルい雰囲気ながらも手に汗を握る展開。いわゆる生活ミステリの中で
も、かなり水準の高い作品な気がする。

この作品は「成風堂書店事件メモシリーズ」の1作目。
確認した限り続編が2つあり、共にKindleで読める。近いうちに制覇しちゃう
だろうな、きっと。

天上の飲み物

▼天上の飲み物 / 三浦しをん(Kindle版)

久々のKindle Singleはこれまた久々の三浦しをん作品。
SingleはUnlimitedだとどうやら無料で読めるらしい。有名作家の作品が
そこそこ多いので、今後はキッチリチェックさせていただく(^^;)。

この短編の主役はどうやら“吸血鬼”。それも黄昏れ感満載、それでいて
見た目は20歳前後。何百年も生きた末にある種達観し、自分の生活を人間
に近づけて行く、という変わり種。人の血を吸わなくなった代わりに、高級
なワインをこよなく愛する。吸血鬼なのにもかかわらず、行動様式は完全に
草食系(^^;)。こういう設定をするところが三浦しをんの真骨頂

そんな草食系吸血鬼の、何百度目かの「恋」のお話。
どんなに誰かを好きになっても、その人は必ず自分より先に死ぬ。考えてみ
れば絶望的であまりに悲しい人生を、この短いストーリーで清々しいヒュー
マンストーリーに転化させてしまうのだから流石。

出来ればこの吸血鬼が主役を張る物語を、もっとたくさん読みたい。
単純にそう思った。そして、ちょっとワインが恋しくなる(^^;)。個人的に
の方が好みなんだけど(^^;)。

ツナウォーズ

▼ツナウォーズ / 菅原裕一(Kindle版)

Unlimitedを徘徊してる時に発見した奇妙なタイトルの作品。
菅原裕一という作家はもちろん知らなかった(^^;)のだが、煽り文章に
「東スポ創刊50周年記念特別企画東スポ官能小説大賞グランプリ作家」
いう、あまりに我々を揺さぶる表現が。これは読まなきゃ、ということで
読んでみた。

誤解を恐れずに言うのなら、近未来SF小説w
2回目の東京五輪が終わった202X年、日本政府が「絶滅危機にある、クロ
マグロを始めとする全種類のマグロを完全禁漁にせよ」との全世界からの
要求を受け入れてしまう。これに怒った『世界で一番おとなしい国民』の
日本人暴動を起こす。それも、かなり個人的な闘いを!
・・・それが、タイトルの「ツナウォーズ」である(^^;)。

この作品は、ツナウォーズに参戦した10人の戦士たちの回顧録。
あと、マグロに関する蘊蓄。というか、ほぼ(^^;)。戦士たちは職業も
年齢もバラバラ、さらに言えばマグロの好み(^^;)までバラバラ。ツナ缶
をこよなく愛する女子高生やら、鉄火巻に尋常なる思い入れのあるIT企業
オーナーやら、大トロで憂さを晴らす超高級ソープ嬢やら、もう出てくる
出てくる(^^;)。全般的に爆笑の話なのだが、ちょっといい話クズ話
が非常に良いバランスで散りばめられており、場合によってはホロッとし
たり、下手すれば唸ってしまう場面も。
この作家、結構只者では無い気がする。

ちょっとだけ期待した(^^;)東スポ“官能”小説大賞の部分はほぼ無い(^^;)。
そういうのを期待する人は、アダルトカテゴリで“菅原裕一”を検索すべし。

とにかく・・・。マグロを食べたい、と心から思った(^^;)。
そう思わせただけで大拍手。おもしろいぞ、コレ♪

少女症候群

▼少女症候群 / 根本聡一郎(Kindle版)

根本聡一郎大作戦、早くも(一次)最終回(^^;)。
今のところ氏の著作はこの「少女症候群」を含めて全4作。この作品は氏に
とってある意味特殊。なんとこの本、クラウドファンディングが見事成功し、
紙媒体でも発売! ケルニー氏の表紙のデザインは、紙の本だとさらに映え
る気がする。

しかしホンのちょっとだけ残念なのは、この本が企画モノであること。
デビュー作の「幻覚少女」、ちょっと前にレビューした「脱水少女」と、
書き下ろしの「禁断少女」の3作から成るオムニバス

こうやってタイトルを並べてみるとよく解るのだが、どの作品も「少女」
「症状」に置き換えることが可能。なかなか面白い言葉遊びだけど、
収録中2篇が既読だとちょっと損した気分。ちょっとだけど(^^;)。

ここではとにかく書き下ろしの「禁断少女」について。
若干のホラーテイストを漂わせた異色作だが、それでも独特の透明感を失わ
ないのは見事。少女シリーズの中ではいちばんキツい内容なのだが、おかげ
でラストではかなりの多幸感が味わえると思う。

Kindle系のインディーズ作家を差別するワケでは無いのだが、残念ながら
ハッキリレベルの低い作家が多いのも事実。しかし、時々こういう凄い作家
が普通に居たりするから、発見した時の喜びもひとしお。根本聡一郎、今の
段階で完全にインプット。次作が楽しみ♪