遠まわりする雛

#短編集


▼遠まわりする雛 / 米澤穂信(Kindle版)

米澤穂信古典部シリーズ第四弾
前三作は長編小説だったのだが、今回は全7篇から成る短編集

時系列がバラバラなのがちょっと解りにくい気がしないでも無いのだ
けど、このシリーズのジャンルを「文化系ミステリー」と考えると、
一度ここで短編集を入れて来るのも効果的な手法な気が。ある種偏屈
主人公を筆頭に、キャラ立ちの激しい古典部メンバーの魅力に溢れ
た一冊となっている。

以前放映されていたアニメ『氷菓』は、この第四弾までの内容で構成
されていた。つまり、次の巻からようやく初見のエピソードが楽しめ
る、ということ。

果たして折木くんと千反田さんはどうなるのか?
そのへんも注目して残り三冊を読む!

さっちゃんは、なぜ死んだのか?

#イヤミスの教祖 #ミスリードメーカー


▼さっちゃんは、なぜ死んだのか? / 真梨幸子(Kindle版)

約8ヶ月ぶり真梨幸子作品。
もう完全に「ミステリー」と予想できるタイトルで、読む前から変に心が
ときめくのが不思議(^^;)。過度に期待をかけた状態で読み始めたのだが・・・。

いやもう、非常にしっかりしたミステリー
いわゆる連関モノであり、様々な登場人物が最終的に一本の線で繋がる、
という、ミステリーのお手本の様な構成。実際、今回もお得意の叙述トリ
ックは冴えに冴え、終盤で3回くらいビックリさせられる、という理想的
な物語。でも・・・。

真梨幸子の凄いところは、絶対に【イヤミス】という要素を消さないまま
キャリアを築いているところ、だと思う。今回は登場人物がかなり多く、
それぞれの描写は短めなのだけど、だからこそ矢継ぎ早に繰り出される
『悪意』の攻撃は凄まじく、普通の読書好きなら心が折れるかも。幸か
不幸か、僕は既に真梨幸子中毒ドM体質(^^;)になっており、コレが
しくてしょうがない

もう毎回言っていることだけど、イヤミス耐性に優れた人に「読まない」
という選択肢は存在しない。心して読むべし!

・・・2022年2冊幸子サマ、来年はぜひ僕に3〜4作品ください!

テレビはプロレスから始まった

#昭和大衆史


▼テレビはプロレスから始まった / 福留崇広

プロレス関連の名著を立て続けにリリースし続けている福留崇広氏の
新作は、「プロレスのテレビ中継」、特に日本テレビで放映されてい
日本プロレス・全日本プロレスの中継にフォーカスされた作品。
サブタイトルは「全日本プロレス中継を作ったテレビマンたち」

今でも戦後復興ドキュメンタリー等を見ると、力道山シャープ兄弟
の試合を観るために街頭テレビに群がる多くの人たちの様子が確認で
きるほど、終戦後の大衆カルチャーとして認識されているプロレスの
テレビ中継。僕らの世代が虜になった怪物番組フォーマットが、ど
のような流れで構築されたのか、が、克明に記録されている。

基本新日派である僕は、あまり日本テレビのプロレス中継に思い入れ
を持っていないのだが、それでも『恩知らず』『イカ天』でインパ
クトを残した若林健治アナウンサー、『ジャストミート!』で一世を
風靡した福澤朗アナウンサーのインタビューは興味深かったし、何よ
りもストーリーテラーとなった原章プロデューサーの談話には思わず
唸るモノがあった。

福留さんの著作、いつも膨大で緻密な取材があったことが窺えるが、
それでも単なる【資料】に成り下がらず、しっかりとメッセージを感
じられるのある【作品】になっているのが凄い。今後どのようなネタ
でドキュメンタリーを作ってくれるのか、大いに期待したいと思う。

プロレスファンはもちろん、現役のテレビマン昭和カルチャーに目
の無い人にもオススメ。すっげぇおもしろいです、コレ。

クドリャフカの順番

#文化祭


▼クドリャフカの順番 / 米澤穂信(Kindle版)

米澤穂信古典部シリーズ第三弾
三作目で古典部は遂にカンヤ祭(いわゆる文化祭)本番へ突入。
製作された文集「氷菓」もギリギリだが無事に完成、後はカンヤ祭で
販売するのみ。ところが、発注ミスが原因で絶望的な量の在庫を抱え
てしまうことに。一方、カンヤ祭では【十文字】を名乗る何物かが、
犯行声明付きの連続窃盗事件(まぁ、冗談で済むレベル)を繰り返す。
古典部のメンバーはこの犯人を突き止めることで、在庫をなんとかし
よう、と躍起になるのだが・・・という内容。

・・・うむ、凄く良い
まず、高校の文化祭という舞台設定にノスタルジックな何かを感じる
し、各種の文化系クラブが程よいバランスで躍動するのもおもしろい。
個人的に高校の文化祭は3年分をバンドに費やしてしまったので、他の
出展をしっかり観ることが出来ず、ちょっとした後悔があったりした。
ここで描かれるカンヤ祭はかなりの規模の文化祭であり、その空気感
が充分に感じられたのが妙に嬉しかったりした。

ミステリー部分はちょっと難解ではあったが、最終的に充分納得出来
る人間ドラマにしっかり昇華。正直、その後が気にならないでも無い
のだけど(^^;)。

さすが人気シリーズ、しっかり読ませてくれる。あと4冊!

愚者のエンドロール

#ピンチヒッター


▼愚者のエンドロール / 米澤穂信(Kindle版)

米澤穂信・古典部シリーズ第二弾
先月のKindleストアのキャンペーンに乗っかって7冊をまとめ買いした
古典部シリーズだが、1ヶ月も間を空けてようやく2冊目読破。こりゃ
半年はかかるな、終わるまでに(^^;)。

物語はカンヤ祭(いわゆる文化祭)の準備が佳境に差し掛かる頃。
文集「氷菓」の製作に余念の無い古典部・・・のハズが、脚本家の疾患で
中途半端になってしまった上級生のクラス出展であるミステリー映画
「結末」に関する推理を依頼されてしまう。省エネが信条の主人公だが、
上級生の一言にほだされて、映画の結末を探り出す・・・という内容。

殺人事件こそ起こるモノの、それは映像の中での出来事。なので緊迫感
や緊張感の類は殆ど感じないのだが、そんな世界をしっかりミステリー
として成立させているのが見事。純粋に「推理」を楽しめる構成、僕は
けしてキライでは無い。ラストもしっかり二段落ちになっており、読了
後は思わず「お〜!」という感嘆の声を上げてしまった。

古典部シリーズ、思った通りなかなかの手応え
まだ5冊ある、というのはちょっと幸せかも知れない。