こうふく あかの

#道


▼こうふく あかの / 西加奈子

西加奈子「こうふく みどりの」の姉妹作。
2冊で1作品、ということだが、普通に【続編】と理解した方が良いかも。
だから、もしこの作品を読もう、という人が居るのなら、先に「みどりの」
を読んでからの方がおもしろい、と最初に言っておくことにします。

「あかの」の主人公は二人で、それぞれのタイムラインの物語が交互に進む、
という構成。一人は2007年の段階で調査会社に中間管理職として勤務する男
で、典型的な「事なかれ主義」を貫くサラリーマン。もう一人は2039年の
段階で「最強」とされるプロレスラー。残念ながら、その時代のプロレスは
かなり衰退している模様。

2007年のある日、妻の突然の「妊娠報告」に狼狽する夫。妻とは長い間夜の
コンタクトが無かったため、お腹の子どもが自分の子ではない、ということ
は確定。妻を問いただし、揶揄したいという願望はあるものの、事なかれ主
義が身体に染みついている男は何をどうしたら良いか解らない。
一方2039年、ドサ回りをしながら少ない観客の前で最強を証明し続ける48歳
のプロレスラーは、新人選手の挑戦を受ける。対戦相手はコレがデビュー戦。
普通では考えられないシチュエーションの試合で、王者は…という内容。

「みどりの」に比べれば、束も薄く、苦手な大阪弁表記も無いので読みやす
いハズなのだが、こちらの方が読み終えるのにかなりの時間を要した。本当
なら嫌悪すべきな調査会社課長に多大なる感情移入をして読んでしまい、そ
のいたたまれなさに読書を数度中断したのが原因。おそらく僕も「事なかれ
主義」の権化であり、問題対処の考え方が主人公とほぼ同一。共感するたび
に情けなくなる、という、やたら精神に突き刺さる作品であった。

この作品の根底には、「みどりの」よりも数倍色の濃い『アントニオ猪木』
が流れている。『俺が今まで、猪木のような眼をすることがあったかと、四
十を手前にして思うのは大変に辛く、ただただ手遅れであった』という一文
が、この作品の全てを表現している、と言って過言は無い。

…僕もだ。
50年近くアントニオ猪木を見続けて来たのに、猪木のような眼で何かに立ち
向かったことが一度でもあったのか?そう考えると、涙が出てくる。

僕より一回り若い女性は、きっと猪木と同じ眼をして小説を書き、結果的に
直木賞を受賞した。そう考えるとかなり悔しいけど、悔しさ以上に西加奈子
という稀有な才能をリスペクトせざるを得ない。

【こうふく】連作、凄いインパクト。目が覚めました、本当に。

こうふく みどりの

#道


▼こうふく みどりの / 西加奈子

先日「G SPIRITS SPECIAL EDITION vol.1 アントニオ猪木」を入手。
10年前のMOOKで、これについては改めてちゃんと書きたいのだが、その中
に今や直木賞作家となった西加奈子のインタビューが掲載されていた。
西加奈子がプロレス好き、というのは周知の事実なのだけど、何故に世代の
全く違う猪木のMOOKに彼女が・・・?

・・・インタビューを読み込み、その後すぐに2冊の本を注文。そのうちの1冊
がこちらの作品となる。

大阪の下町を舞台としたヒューマンドラマ。
裕福では無いが、何故だか近所の人が集まりがちな家に住む中学生女子が主
人公。祖母・母・叔母・イトコに加え、2匹の猫、1匹の犬までが女性という
少しだけ特殊な家族と暮らす主人公のそばに、背の高い転校生男子が現れて
・・・という内容。

メインは主人公の日常とその心情描写なのだが、章の合間に異なった語り部
による独白が挿入される、という構成。タイムラインがはっきりせず、普通
ならとっちらかって解りにくい内容になってしまうのが常なのだが、幾つか
のキーワードで統一感を保っているのは見事。もちろん、何の関連性も見え
ない話はラストでキッチリ繋がる。

僕は「大阪弁の表記」が苦手で、以前に読んだ他の西加奈子作品でもちょっ
としたアレルギーを感じたのだが、この作品はすんなりと入ってきたどころ
か、ちょっとした心地よさすら感じた。不思議な世界観を有する唯一無二の
作品、とまで思う。

そして、アントニオ猪木という存在が非常に重要。何故に今までこの作品を
知らなかったのか、と自分を責めた(^^;)くらい。

この1冊だけでもかなりの完成度なのだが、【こうふく】は2冊で1作品、と
いうことらしい。このまま『こうふく あかの』を読むつもりである。

大泉洋のホラ話③&②

#雪面の飛び魚


▼水曜どうでしょう ~大泉洋のホラ話~ ③ / 大泉洋・星野倖一郎

週刊少年チャンピオンで連載されていた(らしい)マニアックマンガの金字塔、
『大泉洋のホラ話』の3巻がリリースされた。

1巻の時に、「1巻があるということは2巻もある」と書いたが、普通に3巻ま
で出てるのだから呆れるやら驚くやら(^^;)。そして、DVDの特典映像にしか
なっていない【ひぐまの洋】を、しっかり劇画にするという楽しすぎる悪ノリ。
・・・にも関わらず、作者や編集者にやたら共感してしまうのだから、僕もかな
りのバカだと思う。

さすがにコレで打ち止め・・・だと思うのだけど(^^;)。
取り敢えずマンガになっていないホラ話なんて、もう無い気がするので。

↓↓もちろん2巻も出てるよん♪

▼水曜どうでしょう ~大泉洋のホラ話~ ② / 大泉洋・星野倖一郎

OMNIBUS

#ストロベリーナイト


▼オムニバス 警部補 姫川玲子 / 誉田哲也(Kindle版)

約4年ぶりとなる誉田哲也・ストロベリーナイトシリーズの新作。
体裁は連作短編であり、幾つかの章の語り部を「現在の姫川班メンバー」が
それぞれ担当しているのがポイント。タイトルの意味としてピンとくる構成。

惜しむらくは、全7章のうち3章分が過去にKindle Singleとしてリリースされ
ている、ということ。シリーズ初作からずっとストロベリーナイターズだっ
た僕は当然その3作品は既読であり、正直若干食い足りなかった感はあった。

しかし、各ストーリーのトリックや構成は秀逸で、その辺りのテクニックは
さすが。他作品に比べればけして事件は大きくないし、派手さやグロさも殆
ど感じないのだが、姫川班というチームの実態が垣間見られる。個人的には、
こういうのもたまにはアリ。おそらく次作は長編になると思うのだが、それ
に向かって良いアイドリングになる作品だと思う。

そして!
ちょっとネタバレ注意なのだが、ラストで今後の展開が楽しみにならざるを
得ない描写が。もう一人のスター女性警察官が、姫川玲子の部下として復活
する模様。対極とも言える二人が、どんな二人三脚を魅せてくれるか、今か
ら本当に楽しみ。お願いだから今年中に出して欲しいなぁ、新作。

お電話かわりました名探偵です

#変則安楽椅子探偵


▼お電話かわりました名探偵です / 佐藤青南(Kindle版)

お久しぶりの佐藤青南作品。
非常に印象深い日本語のタイトルで、ここから想像できる通りの内容だが、
一捻りがあるところが非常に佐藤青南らしい。

いわゆる【安楽椅子探偵モノ】なのだが、登場するのは普通に警察官(^^;)。
ただし、通信指令センターという110番通報に対応する部署の警察官である。
この部署には一般からの通報内容のみで事件を解決してしまう凄腕のオペレ
ーターが。その異名『万里眼』。

・・・というすばらしい設定。
まぁ、お決まりと言えばお決まりなのだが、万里眼は幼さの残るカワイイ
系の女性で、語り部はその部下である冴えない男性警官(ただしイケボ)。
超有能な上司に対し、始終あたふたする様が非常にコミカルな上に、その
慌てっぷりでしっかりミスリードを誘っているところがポイント。

ミステリーとしてもかなりしっかりしており、ハードなマニアもきっと満
足出来ると思う。だからこそ、取って付けたような恋愛要素が正直ジャマ
だった。その辺りの真相は、是非続編で明らかにしてもらいたい。

まぁとにかく、かなりオススメ出来る良作。
この作家、個人的にかなり評価してますよ、本当に。