知らなきゃよかった プロレス界の残念な伝説

▼知らなきゃよかった プロレス界の残念な伝説 / ミスター高橋

プロレス界の「超A級戦犯」とされるミスター高橋の作品。
ミスター高橋とは、自著の流血のなんちゃら(^^;)でプロレス界の内幕を
バッサリカミングアウトし、各方面に問題を投げかけた元新日本メイン
レフリー

かつての著書については僕も完全に「否定派」寄り。
内容が真実かどうかなんて正直どうでもいい。そういうのを含めて語れる
のがプロレスの良いところであり、だからこそ40年以上プロレスに魅了さ
れてきた。ミスター高橋に対する思いは「余計なことをブツブツと・・・」
といったところ。

そんな僕が何故こんな本を買ったのかというと、コレがもう魔が差した
しか言い様がない(^^;)。無理に言うなら、新日本の黄金時代に外人係とし
て数々の名選手たちと接してきた氏のキャリアだけはバカに出来ず、とい
ったところだが、それが吉と出るか凶と出るか・・・。

・・・凶でした(^^;)。
まず、エピソードが非常に薄っぺらい上に、これまで知らなかった事実が
殆ど無い、というトホホさ。コレに加え、文章があまりに稚拙で、続けて
読むのが苦痛。あれだけ話題になった本を書いておきながら、この成長の
無さが辛い(^^;)。「知らなきゃよかった」と感じるエピソードすら無い、
というのはある意味凄いけど。

そういう風に読んじゃうのは、やっぱり僕にわだかまりがあるんだろうな
ぁ、とは思う。良い意味でも悪い意味でも、プロレスと格闘技に線が引か
れるようになったのは「流血」があったから。しかし、僕は今でもプロレ
スを格闘技の上位概念として捉えている。

意味は違うかもしれないが、格闘技よりもプロレスの方がよっぽど真剣。
「技を逃げずに受ける」という怖さは、いわゆる格闘技には絶対に存在し
ないし、リング上での動き一つを間違っただけで何ヶ月も業界が低迷する
場合もある。ミスター高橋があの本を出す前に、僕は、いや、僕と同じよ
うにプロレスを観てた人たちはソレに絶対気付いていた

だからまぁ、この人に出来るのは余計なことを言うくらいなんだろうなぁ、
と思う。この辺が私利私欲に走った人の限界なんだよね、きっと。
説得力は無いのを承知で言う。買わなきゃ良かったな、この本(^^;)。

THE SUN ALSO RISES

▼日は、また昇る。 / スタン・ハンセン(Kindle版)

「ブレーキの壊れたダンプカー」ないしは「不沈艦」の異名を取り、その
キャリアの殆どを日本のリングに捧げたレジェンド、スタン・ハンセン
自伝

ハンセンの存在を認識したのは、僕が小学校4年生くらいの頃だったと思う。
ニューヨークであのブルーノ・サンマルチノの首をへし折り、鳴り物入りで
新日本プロレスに参加したハンセンは、その段階で既に驚愕だった。ファイ
トスタイルは荒削りで直線的だったのだが、凶器などの反則を殆ど使わず、
フィジカルのみ圧倒的な強さを魅せる。最初こそインサイドワークに長け
アントニオ猪木に手玉に取られたが、2回・3回と来日を重ねる度に猪木
に肉薄。ついにはNWF王座まで奪ってしまった。ちなみに、NWF王者時代
の猪木がタイトルを明け渡した選手は、ハンセンとタイガー・ジェット・シ
2人だけである

僕が最初に生で観た猪木の試合は、ハンセンとの一騎打ち。それも、NWF
王者のハンセン猪木が挑むリターンマッチ。ここでスタン・ハンセンを、
そしてウェスタンラリアートを目撃してしまった事が、僕の人生を変えた、
と言って間違い無いと思う。

そんな「最重要」な選手の自伝だから、やはり居住まいを正して読んだ
現役時代の話ももちろん興味深かったのだが、それよりも引退後、未練を
残さずにキッパリリングから去った後の姿に感銘を受けた。

プロレス界には「引退」を撤回し、何度も復帰するレスラーが多々居るし、
正直ソレを否定する気はもう失せているのだが、ハンセンの態度は本当に
立派。だからこそ僕は今でもハンセンをリスペクト出来るし、大きな大会
にウィットネスとして来日するハンセンに惜しみなく大声援を送ることが
出来る。スタン・ハンセンこそが、本物のプロレスラーである。

そんなハンセンは、来年2月19日の「ジャイアント馬場没20年追善興行」
両国国技館大会に久々に来日する。当日集まるであろう多くのプロレスフ
ァンと共に、僕も大きな「ウィー!!」を叫ぼうと思う次第。

ちなみに現在この作品はUnlimited扱い。今がチャンスだ!

フーガはユーガ

▼フーガはユーガ / 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎約1年ぶりの新作。
想像するに・・・だが、この作品、伊坂センセイはいちばん最初にタイトルを
思いついたんじゃないかと(^^;)。駄洒落と言えばダジャレなのだが、発音
すると妙に語呂が良く無根拠にセンスが良い。伊坂作品としての体裁を、
タイトルの段階で印象づけしてしまうのが凄い。

閑話休題。←オマージュ。
今回の主人公は双子。最高に虐げられ、最悪とも言える人生を送ることを
余儀なくされた2人。にも関わらず、文中から彼らの悲壮感は全く読み取れ
ず、逆にクールさが際立っている。これは間違い無く新たな代表キャラ
なる、と期待したのだが・・・。

もちろん、いつもの伊坂幸太郎ワールドがこれでもか!とばかりに展開さ
れる。何かが起こる度に一喜一憂できる文章と、何気ない感じで振られる
伏線とその回収は本当に見事。今回も最後までハラハラしながら読んだの
だが、クライマックスがあまりに切ない。読み終わった段階で強烈な寂し
を感じてしまった。

ともかく、伊坂らしい破天荒で独特な世界観はもちろん健在だし、カッコ
イイとしか言えない文体も期待通り。ストーリーもアイデアもすばらしい
ので、誰が読んでも面白い作品であることは間違い無い。

そして、流行りそうな気がするな、この本の中にあるダジャレ(^^;)は。
「デッキが出来た」とか(^^;)。

日本トンデモ児童書大全

▼日本トンデモ児童書大全 / 中柳豪文

ずいぶん前にレビューした「日本カセットテープ大全」「日本懐かしオ
ーディオ大全」と同じ、『ニホン ナツカシ タイゼン シリーズ』の一冊。
しかし、こちらの扱っている内容は本当に凄まじい

僕らの世代なら殆どの人が必ず読んでいた“児童向け書籍”を特集したモノ。
老人に限りなく近づいた今、こういのを読んだら懐かしい気分に浸れると
思ったのだが、逆に恐ろしいこと(^^;)に気付く。

・・・あの頃僕らが読んでいたコレらの本は、紛う事なき「トンデモ本」だっ
た、という事実。虚実入り乱れる、というよりも、今改めて考えれば殆ど
「虚」(^^;)。当時の編集者イマジネーション情熱っつーのは、本当
もの凄いモノだったんだなぁ、と改めて思った。

例えばお馴染み小学館からリリースされていた「なぜなに学習図鑑」シリ
ーズ。当時の扱いは、間違い無く“こども向け百科事典”であったハズで、
幼き頃から本好きだった僕に、ウチの両親はこのシリーズの殆どを買い与
えてくれた。もちろん全冊を角から角まで何度も熟読した僕に、オカルト
的なワケの解らない知識が蓄積していった(^^;)のは最早必然、としか言
いようが無い。

そして「なぜなに」だけでなく、ココに掲載されている「全て」の本に覚
えがある、という事実にはさらに衝撃を受けた。僕の中に確実に存在する
サブカル気質のルーツは、きっとこういう書籍を読みすぎた所為で生成さ
れたモノ(^^;)。そりゃあまともな仕事が出来るワケ無いよな、うん(^^;)。

・・・ただ、よく考えてみれば5〜6歳のこどもに「魔術妖術大図鑑」を進ん
で読ませた両親にも問題あるんじゃねぇか?とちょっと思った(^^;)。
どの道に進んで欲しかったのかなぁ、ウチの親(^^;)。

ともかく、昭和40年代生まれの人たちには強力にオススメ。しっかりチェ
ックしとかないと、イルカが攻めてくるぞ

蟻の菜園

▼蟻の菜園 -アントガーデン- / 柚月裕子

柚月裕子作品、今のところ最後の読み残し
なんだかんだでかなり幅広いジャンルを網羅する作家だが、こちらは以前
レビューした「ウツボカズラの甘い息」と同じく、ワケありの女性(たち)
を主役に据えた、かなりハードミステリー

いわゆる「婚活サイトを利用した結婚詐欺」が事の発端であり、それが
続不審死事件へと繋がって行くのだが、ありがちなよくある犯罪で終わら
ない、トラウマ恩讐が吹き荒れる世界を見事に構築。ミステリーとして
捻りも充分に効いており、終盤には思わず唸ってしまったほど。

この作品では女史独特のテクニックである「文体の男らしさ」がほぼ確立
されており、前途洋々さが迸っている。以降の骨太な作品群に繋がってい
く、ターニングポイントの作品と言えるかも。柚月裕子初期作品としては、
傑作と言って過言が無い気がする。

残念なのは電子書籍化がなされていないこと。そして現在文庫は再刷され
ていないらしく、現状は古本で手に入れるしか無いのがちょっと・・・。
そういう時に電子書籍って便利だと思うんだけどなぁ・・・。