プロパガンダ・ゲーム

▼プロパガンダ・ゲーム / 根本聡一郎(Kindle版)

週プロ定額購読のために申し込んだKindle Unlimitedサービス。
せっかく読み放題なんだから小説も少し漁ろう、ということで深く考えずに
チョイスしたのがこの根本聡一郎作品。

そのものズバリタイトル挑発的な表紙のデザインで最初は軍事モノだと
思ったのだが、なんとこれは「就職」「最終選考」の様子が描かれた物語。

大手広告代理店(モデルは間違いなく今話題のD通^^;)の最終選考に残った
男女8人「政府」「レジスタンス」の2チームに別れ、バーチャル国家
「パレット」が行おうとしている「戦争」についてそれぞれの立場で広報
活動を行う。決着はバーチャル国家国民の「投票」で行われ、政府側は賛成
レジスタンス側は反対の結果を目指す、という内容。

およそ8割はこの「プロパガンダ・ゲーム」と名付けられたゲームの実況。
それなりに文章量はあるのだが、展開がスピーディーかつスリリングなので
あっという間に読み終わってしまう。刻一刻と変わっていく状況に手に汗を
握らずにいられない状況。そしてこの作品のポイントは“ゲーム終了後”にあり、
そこを読んだらで誰もが唸るハズ。かなりの傑作、と言っていいと思う。

実際に近場で起こりうる話であり、そういう怖さに溢れたエピソード。
あの仕事に着手した時、ボスに「返事はハイかイエスだ!」とハッキリ言わ
れ、麻薬に侵されたかのようにその言葉通りに動き続けてしまったことを思
い出した・・・。

・・・正直、Unlimitedで読んでしまったのが申し訳無いくらい(^^;)。
お詫びにUnlimited対象になってる根本聡一郎作品、全部読ませて貰います!
10ページ読めばメーカーに1冊売れたとカウントされるらしいので(^^;)。

がらくた少女と人喰い煙突

▼がらくた少女と人喰い煙突 / 矢樹純(Kindle版)

矢樹純作品。
Kindleで読める純粋な「小説」は3冊リリースされており、この作品がいち
ばん古い。最後までとっておいたのは、唯一の“長編”であるから。

抽象的なタイトルだが、実際にはストレート過ぎるくらいのド直球タイトル
「がらくた少女」はリアルにがらくた少女として登場するし、「人喰い煙突」
もその通称にキッチリ謂われのある象徴的な建造物として物語にそびえ立つ。
それでもタイトルの印象は不可思議不気味なのだから凄い。

これまで読んだ短編集と同じく、決して性急で無いゆっくりとした文章
しかし、行間から滲み出る何とも言えない薄気味悪さはここでも相変わらずで、
舞台設定の異様さと組み合わせられると息が詰まりそうになる程。
基本的に“怖い”んだね、この人の文章って(^^;)。

正直、「或る集落の●」「かけがえのないあなた」などの短編集で感じた
ソリッドな恐怖感は稀薄だが、ミステリー部分の秀逸さがそこを見事に補って
いる。途中で「コイツが怪しい」と思った人物は完全に的外れ(^^;)で、結局
最後の最後まで犯人が誰か解らなかった。ちょっと悔しいな、コレは(^^;)。

矢樹純を最も評価出来る点としては、ホラー&ミステリーという実は厄介な
両ジャンルの共存をちょうどいい案配で配分出来る作家であることだと思う。
こういうテイストの作品ならいくら読んでも苦にならない。
次回作品、マジで期待してます!

・・・その前にこの作品の前のエピソードを文庫で読まなきゃ(^^;)。
できればKindleで読みたいんだけどなぁ・・・。

かけがえのないあなた

▼かけがえのないあなた / 矢樹純(Kindle版)

個人的に2作目矢樹純作品。
リコメンドで手に入れた「或る集落の●」がかなり面白かったので、他の作品
も読もう、という事で。「●」を除くと現在Kindleストアで入手出来る矢樹純
の小説は残り2つ。まずは「●」と同じ短編集から読んでみた。

全8篇からなるホラー短編集
それぞれに繋がりがあるワケではなく、場所や時代設定等は様々。最近では珍
しい純粋な短編集であり、下手をすれば作品としてのまとまりに欠けてしまう
状況に陥りそうなのだが・・・。

共通しているのはどの篇も主人公は女性であることと、その主人公が「家族の
中の誰か」、つまり「かけがえのないあなた」翻弄されるお話であること。
この設定が全8篇で一切のブレを見せないため、読後はちょっとした長編を
読み切ったくらいの充足感がある。

ホラーとしての「怖さ」はもう一級品の域。
淡々とした解説風の描写は薄気味悪さを募らせ、どの篇も一度は必ずゾワっ
と来る。ホラー系の小説はこれまで何作も読んできたが、こういう「真綿で
首を絞められる系」の怖さを矢継ぎ早で感じさせてくれる書き手はこれまで
居なかったかもしれない。

さらに驚いたのは、ミステリーとしてもかなり秀逸である、ということ。
単に怖いだけの話ではなく、ちょっとした仕掛け全ての篇にオチを付けて
くるところがすばらしい。この種の作品なのに読後感がわりと爽やかなのは、
この部分の充実がその要因なのだと思う。

ホラー部分の怖さをキープしつつ、ミステリー部分を強化していけば、この
作家は最強のホラー&ミステリー作家になっちゃうかも。
少なくとも僕は完全にハマったし、小説が残り1作しか無いのが非常に不満
だったりする(^^;)。

今後は・・・。行っちゃうだろうなぁ、加藤山羊作品に(^^;)。

ONE

▼ONE 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 / 内藤了(Kindle版)

藤堂比奈子シリーズ第六弾
前作の「ZERO」が驚愕の「続きは次巻」体裁。6作目は“秋”、ということ
で仕方無く待っているうちに・・・忘れてました(^^;)。
Kindleストアの優秀なリコメンドシステムはおおよそリリースタイミング
でお知らせしてくれるのだが、今回はエラー起こした模様。7月に出てた
のね。“夏”じゃん・・・。

気を取り直して読み始めたところ、前半が全く理解出来ない状態(^^;)。
さすがに3ヶ月以上空くと細かな内容は忘れてしまう。おかげで前作の
「ZERO」、後ろ1/3を読み直すハメに。やっぱ止めて欲しいな、こういう
のは(^^;)。

しかし、今一度導入部分を理解した上で読むと、完結編となるこの作品は
やっぱりスリリング。特に今回は主人公の藤堂比奈子が前半から中盤まで
殆ど登場せず、脇を固めるいつもの猟奇犯罪捜査班メンバーがまんべんな
く活躍する状況。これまでと違った展開、非常に興味深い。

以降、ちょっとネタバレ注意。
前作で復帰が予告された“稀代のヒール”が、まさかの展開に。いや、別に
ベビーターンするワケでは無いのだけど、さらに上を行く“悪”に飲み込ま
れる、という恐ろしい構成。んでもってその“最悪”の正体が、完全にこち
らの想像を上回った。久々に気持ち良くヤラれましたよ、ええ。

とにかくここで一段落。以降もシリーズは続く筈だが、まさにこの作品が
シリーズのターニングポイント。ファンは絶対必読です!

・・・次回は間隔空けの連続展開は避けて欲しい。コレはマジで(^^;)。

江戸川区あるある

▼江戸川区あるある / 東京23区あるある研究所

マイクロマガジン社発行の「地域批評シリーズ」というMOOKがあり、個人的
にそのシリーズのファン。タイトルは「これでいいのか東京都足立区」とか
「これでいいのか横浜市」、あと「これでいいのか鳥取県」なんてのも。

内容は基本的に該当地区の「悪口」(^^;)なのだが、自分の住んでいる場所や
かつて遊んでいた街など思い入れがある舞台だと、思わず「あるある!」
か感じることもあったりして(^^;)。

しかし、残念ながら「これでいいのか東京都江戸川区」は発行されていない
「これでいいのか足立区vs葛飾区vs江戸川区」はある)ので、似たような
ネタ本を探してみたら、コレに行き着いた。

まさに「あるある集」であり、短い文章イラスト江戸川区あるある
網羅。そこそこの物量はあり、それなりに感心するネタも多いのだが、ちょ
っと踏み込みが不足しており、満足感は希薄。モノによっては江戸川区内の
どの街か解らないネタが存在するのはちょっとどうかと思う。

内容的にはマイクロマガジンの圧勝。装丁はなかなか素敵なんだけど・・・。