ボーダレス

▼ボーダレス / 誉田哲也(Kindle版)

誉田哲也の新作。
この作家は非常に振り幅が広く、警察ミステリーから剣道モノ音楽モノ、更
にはほのぼのお仕事モノなど、いろんなジャンルの作品を描いており、驚くこ
とに基本殆どハズレの無い天才。そういう人が今回手を付けたのは・・・。

最初の3章くらいまで、正直意味が解らなかった
毛色が全く違うエピソードが次々に繰り出され、果たして同じ作品世界なのか?
と疑問に思った程。いや、下手すれば落丁本を買っちゃった、とすら思った(^^;)。
まぁ、電子書籍だからそれはあり得ないのだけど(^^;)。

具体的に言えばストーリーは4つ、共通点はほぼ「女性」が主人公ということ。

・ミステリー小説家志望の友だちが出来た基本フツーな女子高生
・格闘家の父と事故で失明した妹を持つ姉
・音楽家の夢が破れ、才能ある妹に嘲まれつつ実家の喫茶店を手伝う姉
・病弱で外出すらままならない人(後の方まで性別不明)

・・・の4名のエピソードを軸に物語は展開する。
誉田哲也ファンならすぐピンと来ると思うが、この中にこれまでの誉田哲也の
ほぼ全てのジャンル、すなわち警察・格闘技・音楽・ヒューマンが組み込まれ
ているのがポイント。この「全く別」と思われるエピソードが、クライマック
ス近辺で予想出来ない状況でリンクしてくるから凄い。

こういうの、やりたかったんだろうなぁ、きっと。
とにかく今回は際だった構成力が勝因。全部入りにした弊害か、それぞれのエ
ピソードがやや軽い感はあるが、これから誉田哲也を読もう、という人には格
好のプレゼンテーション作品になりそう。オススメです、かなり。

猪木は馬場をなぜ潰せなかったのか

▼猪木は馬場をなぜ潰せなかったのか / 西花池湖南

プロレス「黄金時代」とされる1980年から89年までの10年間の解説本。
俗に新日本・全日本「二団体時代」とされる時期で、両団体の試合が地上波の
ゴールデンタイムで放映されていた、プロレスがいちばん熱かった時代。その頃
に選手としても経営者としても団体のトップを張っていた日本プロレス界の象徴
アントニオ猪木ジャイアント馬場対立と、両者の権力が衰えていく様子が時
系列で描かれている。

・・・この手のプロレス本に関してはかなりの数を読んでいるのだが、正直中途半
な印象。ディープなプロレスファンであればおおよそ知っている事実に対し、
主観を混ぜた状態で淡々と書かれているのだが、その肝心の「主観」があまりに
画一的。一冊の本としてまとめる場合、もう少し自分の考えが前面に出てきてく
れないと、すれっからしの我々は共感も批判も出来ない

そして、がっかりしたのはタイトルに対する明確なアンサーが記載されていない
こと。まぁ、文脈から察しろ、ということだとは思うのだが、だとするなら特に
必要の無い本(^^;)、ということになっちゃうと思う。

それなりに読める本ではあるが、良い意味でも悪い意味でも「問題作」では無い
そういうプロレス書籍ってインパクトも無いんだよなぁ、実は・・・。

スーツケースの半分は

▼スーツケースの半分は / 近藤史恵(Kindle版)

久しぶりの近藤史恵作品。
ちょうど読む本が切れたところでKindleストアを徘徊中、表紙デザイン可愛さ
に惹かれて思わずポチっと。いわゆるジャケット買い、というヤツ。

「旅」をテーマとしたヒューマンドラマ
ある女性がフリーマーケットで見掛け、一目惚れした青いスーツケースを入手。
やがてそのスーツケースは友人たちに貸し出され、世界中を駆け回る。そのう
ちに「幸運のスーツケース」と呼ばれるようになって・・・という物語。

旅モノの小説はこれまで幾つも読んで来たが、この作品ほど「清々しさ」を感
じたモノはこれまで無かった。偶然手に入れたスーツケースがキッカケとなり、
いろんな人たちが旅先で「生きて行く上で大事なモノ」が何かを見定めていく。
役割を終えるとスーツケースは次の人の手へ。そうやって巡り巡るストーリー
は、はかなくも美しい。大きな事件は全く起こらない「静かな小説」だが、ど
の篇を読んでもジーンと来てしまうのが凄い。

ファンタジー・・・とまで言わないものの、読後感はソレに非常に近いモノが。
おそらくこの作品、きっと何度か読み返すタイプの本になると思う。

旅行、それも一人旅が好きな人はきっとハマりそう。
ウチの今のスーツケースも色は青だが、いつの日か幸運のスーツケースに化け
てくんないかなぁ・・・。

ツキマトウ

▼ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係 / 真梨幸子(Kindle版)

真梨幸子新作なのだが
このタイトルを見ると普通に思い浮かぶのがいわゆるシリーズモノミステリー
中山七里今野敏などの秀作群をどうしても想像してしまいがちで、最初は
「遂にイヤミスの教祖もこういう世界に進出してくるのか・・・」と考え、ある種
寂しくなった。そういうのは他の作家に任せといてもいいじゃねぇか、と。が・・・。

幸子サマ、あまりにお見事です!
今回も徹底に徹底を重ねたイヤミス。イヤミスとはこうあるべき、的な構成は
本当にコチラのアレな部分ガツガツ突いてくる。なんつったて起こる事件が
詐欺・ストーカー・リベンジポルノ・地下アイドル偏愛・盗撮・盗聴。人間が
起こす事件の中でも相当に陰湿イヤラシイモノばかりをかき集め、暗黒の世
を構築してしまう手腕、凄いと言わざるを得ません!

そして、完成度が異様に高くなっている独自の叙述トリックにも注目。
とにかく胡散臭い人物がこれでもか!とばかりに登場し、整理が追いつかない
状況をカッチリ仕立て上げる。「鸚鵡楼の惨劇」あたりで開発され、磨き上げ
てこられた技術だが、以前感じた面倒くささが全く無く、整理出来ない状況で
興味が継続する、という凄まじいテクニック。もしかしたら今現在、日本の
代表的なミスリードメーカーは、真梨幸子かもしれない、とまで思った。

とにかく、最強のイヤミス作家入魂の一作
今年に入ってから3ヶ月に1作のペースでリリースが続いているのも嬉しい。
ただ、身体を壊さないように願います。真梨幸子作品が読めなくなっちゃたら、
もう楽しみが半分無くなっちゃうのと同じなので。

検事の本懐

▼検事の本懐「佐方貞人」シリーズ / 柚月裕子(Kindle版)

柚月裕子の旧作がゆっくりと電子書籍化中。
今回の作品はこないだ読んだ「最後の証人」の主役・佐方貞人が検事だった頃
の物語で、全5篇からなる連作短編集

もちろん法廷ミステリー、それも気合の入ったハードな内容なのだが、全ての
エピソードがいわゆる「人情モノ」。服装こそ無頓着だが、若手で一本ビシッ
と筋の通った優秀な検事。彼がブレずに様々な事件に審判を下す様は実に清々
しい。起こる事件はそれなりに暗澹としてるんだけど(^^;)。

ということで内容には全く文句は無く、いろんな人にオススメ出来る良作。
問題はこのシリーズを読むにあたっての時系列なんだけど・・・。

いろいろ調べた結果、佐方が検事から弁護士に転身した「最後の証人」が第一
弾ということで正しいらしい。その後を追うように若手検事時代の当作、その
後にいまのところの最新作「検事の死命」という順で出版されている模様。
もしこのシリーズを時系列で読みたいのなら、「本懐→死命→証人」の順番で
読むのをオススメしておきます。

そして「死命」は今月末に電子書籍版がリリース予定。
それまで待てるかなぁ、オレ(^^;)。