スーツケースの半分は

▼スーツケースの半分は / 近藤史恵(Kindle版)

久しぶりの近藤史恵作品。
ちょうど読む本が切れたところでKindleストアを徘徊中、表紙デザイン可愛さ
に惹かれて思わずポチっと。いわゆるジャケット買い、というヤツ。

「旅」をテーマとしたヒューマンドラマ
ある女性がフリーマーケットで見掛け、一目惚れした青いスーツケースを入手。
やがてそのスーツケースは友人たちに貸し出され、世界中を駆け回る。そのう
ちに「幸運のスーツケース」と呼ばれるようになって・・・という物語。

旅モノの小説はこれまで幾つも読んで来たが、この作品ほど「清々しさ」を感
じたモノはこれまで無かった。偶然手に入れたスーツケースがキッカケとなり、
いろんな人たちが旅先で「生きて行く上で大事なモノ」が何かを見定めていく。
役割を終えるとスーツケースは次の人の手へ。そうやって巡り巡るストーリー
は、はかなくも美しい。大きな事件は全く起こらない「静かな小説」だが、ど
の篇を読んでもジーンと来てしまうのが凄い。

ファンタジー・・・とまで言わないものの、読後感はソレに非常に近いモノが。
おそらくこの作品、きっと何度か読み返すタイプの本になると思う。

旅行、それも一人旅が好きな人はきっとハマりそう。
ウチの今のスーツケースも色は青だが、いつの日か幸運のスーツケースに化け
てくんないかなぁ・・・。

ツキマトウ

▼ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係 / 真梨幸子(Kindle版)

真梨幸子新作なのだが
このタイトルを見ると普通に思い浮かぶのがいわゆるシリーズモノミステリー
中山七里今野敏などの秀作群をどうしても想像してしまいがちで、最初は
「遂にイヤミスの教祖もこういう世界に進出してくるのか・・・」と考え、ある種
寂しくなった。そういうのは他の作家に任せといてもいいじゃねぇか、と。が・・・。

幸子サマ、あまりにお見事です!
今回も徹底に徹底を重ねたイヤミス。イヤミスとはこうあるべき、的な構成は
本当にコチラのアレな部分ガツガツ突いてくる。なんつったて起こる事件が
詐欺・ストーカー・リベンジポルノ・地下アイドル偏愛・盗撮・盗聴。人間が
起こす事件の中でも相当に陰湿イヤラシイモノばかりをかき集め、暗黒の世
を構築してしまう手腕、凄いと言わざるを得ません!

そして、完成度が異様に高くなっている独自の叙述トリックにも注目。
とにかく胡散臭い人物がこれでもか!とばかりに登場し、整理が追いつかない
状況をカッチリ仕立て上げる。「鸚鵡楼の惨劇」あたりで開発され、磨き上げ
てこられた技術だが、以前感じた面倒くささが全く無く、整理出来ない状況で
興味が継続する、という凄まじいテクニック。もしかしたら今現在、日本の
代表的なミスリードメーカーは、真梨幸子かもしれない、とまで思った。

とにかく、最強のイヤミス作家入魂の一作
今年に入ってから3ヶ月に1作のペースでリリースが続いているのも嬉しい。
ただ、身体を壊さないように願います。真梨幸子作品が読めなくなっちゃたら、
もう楽しみが半分無くなっちゃうのと同じなので。

検事の本懐

▼検事の本懐「佐方貞人」シリーズ / 柚月裕子(Kindle版)

柚月裕子の旧作がゆっくりと電子書籍化中。
今回の作品はこないだ読んだ「最後の証人」の主役・佐方貞人が検事だった頃
の物語で、全5篇からなる連作短編集

もちろん法廷ミステリー、それも気合の入ったハードな内容なのだが、全ての
エピソードがいわゆる「人情モノ」。服装こそ無頓着だが、若手で一本ビシッ
と筋の通った優秀な検事。彼がブレずに様々な事件に審判を下す様は実に清々
しい。起こる事件はそれなりに暗澹としてるんだけど(^^;)。

ということで内容には全く文句は無く、いろんな人にオススメ出来る良作。
問題はこのシリーズを読むにあたっての時系列なんだけど・・・。

いろいろ調べた結果、佐方が検事から弁護士に転身した「最後の証人」が第一
弾ということで正しいらしい。その後を追うように若手検事時代の当作、その
後にいまのところの最新作「検事の死命」という順で出版されている模様。
もしこのシリーズを時系列で読みたいのなら、「本懐→死命→証人」の順番で
読むのをオススメしておきます。

そして「死命」は今月末に電子書籍版がリリース予定。
それまで待てるかなぁ、オレ(^^;)。

真説・佐山サトル

▼真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男 / 田崎健太

初代タイガーマスクとして一世を風靡した佐山サトルの評伝。
著者の田崎健太とは、あの「真説・長州力」を書いたノンフィクション作
家。あの本の好き・嫌いはともかく、取材力に関しては確実に信用出来る
仕事人であることは間違い無い。

・・・いやぁ、凄かった
まずハードカバーの単行本で500ページを超える物量だけでも凄い。これ
に加え、佐山本人や周辺の人々に丁寧に取材がなされており、いい加減な
記述・断定的な記述の類いが一切無い。内容に関しては、これまでいろい
ろなところで書かれてきた初代タイガーや佐山のエピソードとほぼ相違な
く、誤解を恐れずに言うのなら、壮大な「まとめ」を読んでいる気分。だ
けど・・・。

もし田崎さんで無い人間が「まとめていた」のであれば、そんなこととっ
くに知ってたぜ!的な、妙な否定を伴った感想しか出てこなかった気がす
る。キッチリ仕事の出来る作家さんが書いてくれるからこそ、僕らが特別
な感情を持たざるを得ない「唯一無二の存在」物語を楽しむことが出来
た、と思う。田崎さん、本当に感謝します。

そして改めて、佐山サトルという男の「天才ぶり」を思い知った。その上
で、佐山サトルというプロレスラー・格闘家が、今の僕にどれだけの影響
を与えてくれたのかも再確認出来た。

タイガーマスク熱狂したこと、旧UWFゾクゾクしたこと、シューティ
ング「恐ろしい競技が始まった」と感じたこと等を昨日のことのように
思い出す。何より、本人の意には沿わないのかもしれないが、僕が変わら
ずに大好きなプロレスの世界戻ってきてくれた佐山には、本当に感謝し
か無い。

願わくば、今後の佐山サトルの人生に正当な評価があることを望む。
佐山サトルの存在に人生を変えられた人間は、本当にたくさん居る筈なの
だから。

走らなあかん、夜明けまで

▼走らなあかん、夜明けまで 坂田勇吉 / 大沢在昌(Kindle版)

Wくんより、久々の推薦図書
たいへん失礼ながら、大沢在昌という作家をこれまで殆ど知らなかった僕。
事前にちょっと調べてみたら、「新宿鮫」を初めとする多数の著作を持つ
人気作家。なんで今まで手出ししかなったんだろう・・・。

導入部分を読んだ段階では、ああビジネス小説なんだ、とか思った。
東京から単身で大阪出張を余儀なくされたサラリーマンが、慣れない土地
で奮闘する様を描いたモノ、と思い込んでいたら、程なくしてソレが大間
違いであったことに気付く。なんと、いわゆる「パニックモノ」であった
のだ、この作品は(^^;)。

カンタンに中身を説明すると、出張先大阪で不注意から重要サンプル
入ったを盗まれた主人公がソレを取り戻す話。言っちゃえばそれだけの
話なのだが、まぁコレがいろんな方向転がり続けていく。冷静に考えれ
ば、鞄一つ取り返すのに命をかける、という状況はオカシイのだが、コレ
が妙に説得力があるから凄い。圧倒的なリアリティを伴って疾走するジェ
ットコースターに乗っている感覚で、読中に「オカシイ」とか「あり得な
い」とか、その類いのことは一切考えられなかった

いいなぁ、こういうの(^^;)。
どうやらこの作品、坂田勇吉シリーズとして他に2作の続編があるらしい。
読んじゃうな、間違い無く(^^;)。

ハードボイルド系が好きな人は超オススメ。あとは「24」とか、あの手の
リアルタイムドラマが好きな人もかなり手応えがあるかと。しばらく読む
モノに困らなくなるな、きっと。