がん消滅の罠

▼がん消滅の罠 完全寛解の謎 / 岩木一麻

昨年の「このミス大賞」受賞作で、その頃から読みたかった作品
ちなみにこのミス、年間1位があったり、大賞があったりするのはややこし
いので、そういうのちゃんと整備して欲しいと思いますよ、ええ(^^;)。

タイトルだけ読むと、ミステリーではなく医療系ノンフィクションを予想
してしまいそう。だけど、読み終わった後には「このタイトルしか無い!」
と思わせてくれるくらい、あまりにも本格的な医療ミステリー

これがまぁ尋常でなくガッチガチの医療ミステリーだから、もちろん専門
用語の類も多々登場する。しかし、そういう難解な部分を「上手い」比喩
で説明してくれるから、ストーリーに恐ろしい程のリアリティが生ずる。

岩木一麻という作家はこれがデビュー作であり、昆虫学者からがん研究家
に転身した、というバックボーンを持つ、言わば「ホンモノ」。だから、
書いてあることが本当かどうかは正直解らない(^^;)が、説得力もかなり
凄い。コレに加え、常人では絶対に思いつかないトリックが幾つも散りば
められているのだから、審査員ほぼ全員一致でのこのミス大賞受賞も納得。
実際、ここ数ヶ月で読んだミステリーの中ではいちばん手応えがあった
強くオススメです、コレは。

嬉しいことに、4月2日(月)、TBSで3時間ドラマ化されるらしい。
それも、結構凄いキャストで。こちらもすっげえ楽しみ!

ニャンニャンにゃんそろじー

▼ニャンニャンにゃんそろじー / V.A

リリースされた時からちょっと気になっていたアンソロジー
短編小説5篇短編マンガ4篇変則形態で、テーマはもちろん「猫」

この世には猫バカと呼ばれる人たちが多数存在するワケだが、もちろん
僕もその一人。街中で猫を見掛けたらもう黙ってられないし、猫を飼って
いる人の家に行けばどうにかして好かれようとする努力を怠らない。餌や
おもちゃで手なづけられるのであれば、その場で買い物に行くことすら全
く躊躇しない。にもかかわらず猫を飼わないのは、お別れに耐えられない
から。猫に関わらず、一生動物は飼えないだろうなぁ、と。

そんな猫バカなら間違い無く手を出しそうな本。
そして作家のチョイスもなかなかのラインナップなので、今回は目次を見
読む順番をしっかり考慮してから読み始めてみた。

まず、4篇のマンガをざぁ〜っと流し読み。
失礼を承知で言えば、益田ミリ・ねこまき・北道正幸・ちっぴ の4名は
全く知らない漫画家であり、8ページ程度の短編で評価は出来ない。ただ、
どれもいわゆるほのぼの系の絵で、正直この画風は苦手(^^;)。他の作品
を読むことは無いと思うな、コレらは・・・。

そして小説
町田康→小松エメル→蛭田亜紗子→有川浩→真梨幸子、という順番にて。

まず、町蔵こと町田康の作品は、実に彼らしい感じのシニカルなファンタ
ジー。昔イヤってほど聴いた町蔵のと殆ど変わらない世界観を保持し続
けているのが凄い。「INU」というバンドの人が猫について書いてる、と
いうのが面白いところ。

そして、小松エメルの作品は新撰組を題材とした時代小説風。この手の
小説は苦手なのだが、物語の流れが非常に良く、思ったよりもスッと入っ
て来たから不思議。ただ、アイテムとしての「猫」があまり重要でないモ
ノになってしまったのがちょっと残念。

蛭田亜紗子作品は短いながらもしっかりとしたヒューマンドラマ。こちら
はアイテムとしての「猫」が非常に重要な位置づけで機能しており、短い
ながらも考えさせられる内容。この人の他の作品、ちょっと読んでみたい
気がする。

で、このアンソロジーの目玉とも言える有川浩の作品は、「アンマーと僕
ら」のキャストによるスピンオフストーリー。アンマーは決して好きな作
品では無いのだが、この短編のストーリーの組み方は全く無駄が無く、下
手すれば本編よりも面白かったかも。最近新作の噂が全く聞かれないけど、
そろそろ動き出して欲しいなぁ、この人には。

意図的に最後に持ってきたのは、我が教祖こと真梨幸子の作品。
イヤミスの神様がどんな猫ストーリーを書くのか、かなり期待して読んだ
のだが、コレが期待を全く裏切らない真梨幸子ワールド。全体的に漂う気
怠い雰囲気はゾクゾクするし、意外性という部分でも満点に近い。後日談
を気にさせちゃうんだから、この人の実力を侮るべからず。満足です!

・・・取り敢えず、小説部分だけで判断すれば非常に良く出来たアンソロジー。
各作家のファンの人は、押さえておいて損は無いと思います。無論、猫好き
も是非!

臣女

▼臣女(おみおんな) / 吉村萬壱(Kindle版)

Kindleストアを物色中、タイトル表紙のインパクトに惹かれてなんとな
く購入してしまった作品。作者は吉村萬壱というこれまで全く知らない
作家。

主人公は高校の非常勤講師にして3流の小説家の男性。
この人が自分の小説のファンだという女性と浮気をし、それを元教え子
に知られてしまう。その日から妻はどんどん「巨大化」していく。
普通ではない量の食事の準備、家庭用のトイレでは処理出来ない排泄の処
理など、懸命に介護しつつ、異様な風体となった妻を世間から必死で隔離
する主人公だが、経済的にも精神的にもジリジリと追い詰められて・・・と
いう内容。

・・・なんかねぇ、良い意味でも悪い意味でも、久しぶりに猛烈に「キツい」
作品(^^;)。人間がどんどん巨大化していく、というファンタジー的な要
素を、写実的に書き切るのは良いアイデアだし、ホラーのような世界観を
まといながら、じつは恋愛小説である、という設定も一捻りの工夫がある。
だけど・・・。

とにかく、全体を覆う雰囲気があまりにも「暗い」。イヤミス好きであり、
ドロドロ系統は大好物な筈の僕が、物語に入り込めないほど真っ暗なのだ
から、ある意味では大したモノなのかもしれない。でも、没頭出来ない原
因はそれだけではなく、冗長な場面描写ややたら難しい言い回し、使わな
くてもいい漢字の多用や功を奏さない詩の引用など、正直ゲンナリ

ハッキリ言うと読むのがやたら苦痛。実は読書開始から数ページで一度断
念し、その後なんとか再開したものの、読了まで4日を要する、という小
難しさ。そもそも文体が僕に向いていない、ということなんだろうなぁ、
きっと。

この感覚、以前にもあった、と思い返してみたら、苦手の芥川賞受賞作
書時に何度か経験した感覚。もしや、と思い調べてみたら、この人やっぱ
芥川賞を獲ってました(^^;)。

苦手なんだよなぁ、やっぱり(^^;)。
残念ながらこの作家の作品、もう読むことは無いと思います(^^;)。
好みの問題だとは思うけど。

COPY

▼COPY 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 / 内藤了(Kindle版)

内藤了藤堂比奈子シリーズ第九弾
長く続いたこのシリーズだが、もしかしたら次かその次くらいで終了するん
じゃないか・・・、そう思わせる内容なんですよ、今回は。

まず、これまで8冊に渡って繰り広げられてきた猟奇犯罪の数々が、今回の
エピソードでほぼ全て繋がっていく(いくつか忘れてる件も・・・w)。
確かにこれまでも作品間のリンクは存在し、そのたびに前の作品をちょっと
読み返す、という事態は起こったのだが、さすがに今回は無理(^^;)。
しかし、読んでいるうちに緊迫感はやたら増す。さぁ、いよいよ!とか思っ
てたら・・・。

・・・え〜、完全なる「前振り」に徹した模様(^^;)。
今回もかなり陰惨な事件が起こったワケだが、全く解決せずにお得意の
To Be Continue処理されちゃったもんだから、正直ちょっとずっこけた。
内藤先生、この手法多用しすぎ(^^;)。性格悪い人じゃ無いと思うんだけど。

しかし!
今回は本当に先が気になる。とにかく集大成的な香りがプンプン漂うし、こ
れまた恒例となっている巻末付録の次回作「BURN」のプロローグがかなり
意味深。いつ発売になるか解らないが、次が10作目ということを考えると
最終作という可能性大。早いとこ出して欲しいなぁ、コレは。

とにかく、クライマックス目前確実
・・・次が出た時にコレもまとめて読む、でも問題無いかもしれないけどw。

家族写真

▼家族写真 / 荻原浩(Kindle版)

荻原浩テーマ短編集
いわゆるファミリー系のエピソードが7篇収録されているのだが、殆どの篇で
主役を張っているのが定年間近のオヤジ世代。若い頃はそれなりに夢があった
ものの、今ではしがないサラリーマン、ITの進化に付いて行けず、嫁に早くに
先立たれる、という共通項。さらに全員が、体重に関して悩みを抱えている
というところまで同じ(^^;)。

例えば10年前にコレを読んでいたら、おそらく全く響かなかったハズ(^^;)。
ただ、現在の僕はここに描かれているオヤジたちと年代的には全く変わらず、
なんかもう共感度が半端ない感じ(^^;)。娘が居るワケでも無いのに、嫁に行
く娘のことを思って涙してしまうのだから、僕もかなり年をとった(^^;)。

ただ僕の場合、下手すれば彼らよりもずっと下層を歩いてるんだよなぁ・・・。
だから、こういう幸せは間違い無く手にできないワケで、そのあたりがちょ
っと腹立たしくもある。

氏の作品としてはややおとなしめだが、同年代をウルっとさせる人物描写
やっぱり名人芸。難点を無理に挙げるのなら、表題作「家族写真」がちょっ
とだけ食い足りない気が。かなり良い話なので、出来れば長編にリライトし
てくれると非常に嬉しい。

いわゆる昭和テイストの好きな人は是非!
・・・ちょっと運動しないとダメかな、僕も。波平5つしか変わらないし。