福家シリーズや動物シリーズで完全にハマった大倉崇裕の山岳小説。
あとがきによると、氏はデビューからずっと「山岳ミステリー」を書きたかった、
というクライマー。ソレ風に言えば“山屋”であり、本物であるが故、執筆に要し
た時間はなんと9年(!)。読み応えたっぷりの本格長編ミステリーである。
ある事情で山を辞めていた主人公のサラリーマンが、大学時代のパートナーで
将来を嘱望されるクライマーに誘われ、久々に山へ。ブランクによる体力の衰え
を自覚しながらも、「もう一度山をやらないか?」という友の問いかけに逡巡し
てしまう。ところが程なく、単独で山行した友人が滑落・行方不明という凶報。
技術・経験ともに豊かな人間がミスを犯すような環境では無い。友人の死に疑問
を持った主人公は、全てを投げ出して友人の死の謎を追う・・・という物語。
僕は全く山はやらないが、山岳系の物語は小説・マンガを問わずかなり読む。
従ってあの世界にミステリーを絡めることには正直無理がある、と思っていた
のだが、この作品はハッキリとそのラインを超えて来た。主軸はあくまでミス
テリーだが、本格的な山岳系要素の描写がそこに深みを与える、という理想的
な構成。そりゃあ、9年はかかるよな、と素直に納得できる力作である。
大倉崇裕ってこういう小説も書くのか・・・。
正直、これまで読んできた他の作品に比べると、この作品はテイストが全く異
なる。山岳系としては最初の作品だからなのかもしれないが、ちょっと他を読
んで確かめてみたい。コレはコレで凄く面白いのが、逆にタチ悪いな(^^;)。