カウントダウン

▼カウントダウン  / 真梨幸子

真梨幸子最新作。
「フジコ」以来、一切ブレることなくイヤミスを書き続ける真梨幸子にすっか
り感化され、今では我が教祖と仰ぎ、普段は“幸子サマ”と読んで崇め奉ってい
る作家。おおよその作品はリリースと同時に光の速さで読了してしまうのだが、
今回の作品は何故だかいつもと様子が違う感じ。

かんたんに言えば、エッセイストとして名を上げた女流作家余命半年を宣告
され、いわゆる終活を行う話。齢50、死ぬにはやや早いものの事実を受け入れ、
自分の人生を理想通りに終わらせるため、これまでの恥部を必死に整理してい
く姿を追ったもの。その課程でいろいろなことが明らかになって・・・、という、
女史お得意の「更年期ババア」(^^;)系。イントロダクションの段階では、来た
ぞ、コレ!とか思ったのだけど・・・。

前半から中盤にかけての流れがやたら「緩やか」。緩やかとは言っても、カネ
だけはある死にかけたババアが恐ろしいくらいに戯言を吐き続ける展開だから、
そういうドロドロ系が好物の人は退屈しないかもしれない。しかし、僕にとっ
ての真梨幸子作品はそれだけにとどまらない、更に上を行く悪意の塊でなけれ
ばならない。正直、中盤あたりで今作は失敗かな、と感じてしまった。が・・・。

おそらくこの「緩さ」、後半の怒濤の展開に繋ぐためにわざと敷いた伏線。
あれよあれよという間に登場人物が増えていき、ラストでその全員分の相関図
が見事に完成する。いわゆる「勝ち組」は誰一人存在せず、全員が不幸のどん
へまっしぐら。長い長い助走距離を持つジェットコースター、と言えば解り
やすいだろうか? ここまで「堕ちる」が表現されている作品は他で読んだこと
が無い。

・・・これだから真梨幸子は止められない
今回の「悪意」表現も実に秀逸であり、読了後に感じる嫌悪感が、突き抜けて
清涼感に化ける瞬間を、またも体感させていただいた。人の不幸を書かせて、
右に出る作家は一人も居ない。そういうところまで上り詰めた気がする。

幸子サマ、本当にお見事です。
ただ、実生活でコレが起こったら、と考えると背筋が寒くなりますが(^^;)。
この悪意、本当に癖になるなぁ・・・。