中山七里の最近(2017年1月)の作品。
オリンピックを狙えるポテンシャル持つ女性スプリンター・沙良が、不慮の交通
事故で左足の切断を余儀なくされる。加害者は隣の家に住む引きこもりの幼なじ
み・泰輔。いきなり全てを失った沙良は、当然のように泰輔を深く恨むのだが、
その泰介が死体で発見される。犯人は? そして沙良の未来は?・・・という内容。
ミステリーとして発表されているが、今作に関してはその部分がメインでは無い。
オリンピックを目指していたアスリートが、不屈の精神でパラリンピックを目指
す様子が赤裸々に描かれていると共に、日本におけるパラスポーツの問題点が浮
き彫りになる構成。硬派な人間ドラマである、と思う。
そういうわけで今回のミステリー部分はそれほど大きな役割は無いのだけど、
登場人物はやたら豪華。犬養刑事の登場は驚きつつも展開上“ある話”な気がする
のだが、まさかこの手の話にあの御子柴弁護士が登場してくるとは・・・。
犬養と御子柴という中山作品二大スターの邂逅には注目せざるを得ず、人間ドラ
マの中で効果的なアクセントとなっている。
最近、各所でパラリンピアンのデモンストレーションを見る機会があるのだが、
単純に彼らは「凄い」。車椅子バスケの選手のマシンの取り回しはある意味で
芸術に近い技術だし、ウィルチェアラグビーの選手に全力でタックルされるよ
り、軽自動車と正面衝突した方がいくらかマシ、とすら思える。ただ見ている
だけでも充分に楽しめる競技なのに、やはりオリンピックスポーツに比較する
と悲しいまでに人気が無い。でも・・・。
この作品がきっかけとなり、パラスポーツがもっと一般に認知されるようにな
り、競技者と技術者が本気で取り組める体制が日本でも出来ればいい、と思う。
3年後、東京で行われるパラリンピックで、日本人メダリストが一人でも多く
輩出されるように・・・。