弥勒世(上)

#沖縄返還前夜


▼弥勒世(上) / 馳星周(Kindle版)

馳星周アンリミテッド。どうやら「みるくゆぅー」と読む模様。
コレも特に何も考えず、未読作品だったのでチョイスしたのだが、心の準
もせずに読むべきではなかったかも。

第二次対戦終了後、米軍の占領下にあった沖縄。まもなく日本への返還
という混迷の時期に、それぞれの思惑で動く沖縄人米国人日本人の間
を縦横無尽に泳ぎ回り、「自分のためだけ」に何かを成そうとするアナー
キストの物語。

この作品も間違いなく馳星周独特のノワールなのだが、返還直前の沖縄
いう舞台設定が悉く磁場を狂わせる。流されるまま生きることしか許され
ないウチナンチューと呼ばれる沖縄人悲哀ベトナム戦争で身も心もボ
ロボロにされた米軍人トラウマ。コレに全共闘の要素も絡んで来るのだ
から、カオス度合いが半端ではない。ある意味、氏お得意の歌舞伎町アン
ダーグラウンドよりも、よっぽどディープな世界が展開される。

さらにこの作品、単純に「長い」上下巻に別れていたのでハナから覚悟
はしていたのだけど、物語の密度が濃いままでこの長さの読書に対応する
には、強靭な精神力が必要かと。下巻のことを考えると、良い意味で先が
思いやられる。

・・・ただ、上巻の最後半で展開される吐き気を催すような展開だけは勘弁
してもらいたい。僕はああいうのを割り切ることが出来ないんだよね、相
変わらず。