水族館ガール4

▼水族館ガール4 / 木宮条太郎(Kindle版)

昨年の今頃、シリーズ3冊一気読みした木宮条太郎「水族館ガール」
シリーズ最新作がリリースされてたようなので、さっそく購入。相変わら
ず表紙のイラストカワイイ

久しぶりなので舞台設定を思い出すのに時間がかかるかと思われたのだが、
数ページ読んだだけですぐに復活。知らぬ間に中堅の位置まで上り詰めた
主人公・由香が、更に飛躍する段階を切り取った物語となっている。

今回の主役はほぼペンギン。いろいろな水族館でアイドルの地位を欲しい
ままにしているペンギンの飼育に関する蘊蓄が凄まじいまでのリアルさ
描かれる。圧倒され続けた挙げ句、篇のラストでは号泣する始末。このシ
リーズってこういう感じだったっけ?とか思わず。

しかし、オーラスあたりに詰め込まれた由香と先輩・梶との恋物語や、お
待たせのニッコリー登場などは、思わずニヤッとしてしまう程の爽やかさ
・・・行きたくなっちゃったよ、水族館に(^^;)。

とにかく、特殊業務モノとしては読み味の良い佳作。来年の今頃には、新
しいエピソードが読めるといいなぁ・・・。

風味さんのカメラ日和

▼風味さんのカメラ日和 / 柴田よしき(Kindle版)

タイトルだけでサクッと購入してしまった小説。
もちろんカメラバカとしてのチョイスで、特に期待してたワケでも無かったの
だけど、これが・・・。

カルチャースクールのカメラ講座を舞台としたヒューマンミステリー。
しかし内容はかなり「撮影術」に偏っており、専門用語もバシバシ飛び出す。
かといって決して難しい内容ではない。どころか、その専門用語が非常に解り
やすく解説されているから、デジタル写真撮影術の指南書としてかなり優秀。
更に言うのなら、「写真を撮る」ことに対する心構え・・・いわゆる精神論・・・の
部分は、これまで読んだどんな写真関係の本よりも心に刺さったのだから、
これから本格的(?)に写真をやろう!と思っている人には最高のガイドブッ
になるかもしれない。

柴田よしきという作家は初めてなのだけど、調べてみると著作は多々。それも
ハードなミステリー系を書いている女流作家さんらしい。
・・・とするなら、この作品はかなり特殊なジャンルに入る気がするなぁ(^^;)。
ただちょっと気になるので、他の作品も読んでみることにします。
そして、この作品の第二弾にも期待。まだエピソードの出てこない人が2〜3人
いるので、是非!

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Private KWAIDAN

▼私的怪談 / 真梨幸子(Kindle版)

突然発売された真梨幸子電子書籍
いわゆる“自費出版”に近いかたちのリリースで、作者本人の体験に基づいた
短編20以上集めたもの。どちらかと言えばエッセイ集なのだが、タイトルに
「怪談」とある通り・・・。

真梨幸子はいまや押しも押されぬ「イヤミス」の第一人者であり、人間の悪意
を描かせたら彼女の右に出る作家は皆無。もはや孤高の存在であり、僕の中で
は既に教祖。新たなリリースが発表される度に、「幸子サマの新作」と崇め、
全てを速攻で購入する始末なのだけど・・・。

ずっと気になっていた彼女のバックボーンが、かなり赤裸々に記載されている
ところが凄い。こんな事実を、かんたんに発表しちゃっていいんだろうか?と
こちらが心配になるくらい生々しい。そして、あれくらい波瀾万丈な幼少期を
過ごしたのであれば、彼女が書く作品に“異様なまでの悪意”が内包されてしま
うのも仕方の無いこと、と納得。というか、これは「必然」だったのだ、とい
う思いを強くした次第。

昔何かの作品のレビューで「この作家の精神状態が本当に心配」と書いた記憶
がある。おそらく今の彼女が出来上がるまで、この作品に書かれたようなある
壮絶な出来事が多々あり、その上で形成された屈強な精神極上の悪意を創
り出している、という気が。こちらが心配しても、それはきっと全くの無駄。
真梨幸子が真梨幸子たる由縁が、この作品の随所に散りばめられている。

いわゆるホラー作品とし見れば、決して怖い話では無いのかもしれない。
しかし、ここに載っている全ての作品があの幸子サマ実体験と考えると、そ
こらへんのホラーが全て吹き飛んでしまう程の怖さを感じる。間違い無く一般
向きの作品では無いが、ファンなら絶対に一読しておくべき。この作家はきっ
と今後も恐ろしいまでの悪意をこちらに提示してくれる、と確信出来るハズ。

この作品、リリースは電子書籍のみで、更にはUnlimited扱い。であるから、
商業的な成果を期待して発売されたモノでは無く、マニアとしては感謝しか無
いのだけど、一点だけ苦言。
・・・できれば、縦組みの構成にして欲しかった。まぁ、大きな問題では無いの
は明らかなんだけど(^^;)。

二年半待て

▼二年半待て / 新津きよみ(Kindle版)

個人的におよそ1年ぶり新津きよみ作品。
今回の購入動機はものすごく印象的なカバーイラスト。奥付を読んでもイラス
トレーターの記載が無いのだが、妙に気になる画風。みたことある気もするの
だけど・・・。

本編は人生における様々な「活動」をモチーフとしたヒューマンミステリーで、
7篇からなる連作短編集。作者本人のあとがきによると、それぞれの篇のテーマ
就活婚活恋活妊活保活離活、そして終活。殆どのワードがATOK
一発変換出来るので、世間的にはかなり浸透している略語だと思われる。
しかし個人的には「保活 → 保育施設情報の収集など、子どもを保育所に入れ
るために保護者が行う活動」と、「離活 → 離婚を前提として行う活動」の2つ
を知らなかった。コレはちょっと悔しかったなぁ(^^;)。

そして、今回は叙述トリックがかなり冴えている感。女史らしく、やや重たい
物語を淡々と描きながら読者のミスリードを誘い、篇の終盤で思わぬ展開を見
せてくれる。ミステリーとしての読み応えもバッチリなのだが、それよりも心
に残るのは人間関係の難解さ。こういうパーソナルな事件は誰にでも起こる可
能性があるが故に、そのリアリティに背筋が寒くなるほど。

この作品のモチーフとなった7つの活動は一般的な時系列に沿って並べられて
おり、全ての活動をコンプリートした人も多々居ると思う。僕はどの活動も今
のところ一切経験していないのだが、果たしてソレは幸か不幸か・・・。そんな
ことを自問自答してしまうくらい、“考えさせられる”良作だと思う。

もしかしたら、これまで読んだ新津きよみ作品の中でいちばんインパクトの
強い作品かも。ちょっとハードなヒューマンミステリー好きは是非!

long range

▼ロングレンジ / 伊坂幸太郎(Kindle版)

伊坂幸太郎のシングル。
書き下ろしの「ロングレンジ」に、名作「アイネクライネ」をカップリングし
ロックンロールテイストに溢れた作品。

・・・という、まるで一流アーティストの最新CDのレビューみたいな書き出しが
可能なのが伊坂幸太郎の特別なところ。ついでに言えば、Kindleシングルなの
にUnlimited対象になっておらず、有料配信オンリー。ビジネスモデルとして
ソレが成立するところも、伊坂幸太郎という特別扱いされるべき作家の真骨頂
だと思う。

アイネクライネは以前読んだ「アイネクライネナハトムジーク」でレビューし
ているので、今回は新作短編「ロングレンジ」にフォーカス。

氏の作品としては珍しく女性が主人公。
そして、登場人物の誰もがいわゆる「フツーの人」である、というのも異色。
しかし、描かれる世界は完璧な伊坂幸太郎の世界であり、シニカルなユーモア
に溢れたヒューマンミステリーに仕上がっているところが凄い。

もうこの人はどんなジャンルの文章を書いても面白いんじゃないか?と思う。
小説やエッセイはもちろんのこと、なんなら詩とか、下手すれば新聞記事とか
進行台本とか、もしかしたら家電製品の説明書なんかでも、伊坂幸太郎が書い
た文章なら絶対にニヤニヤ出来る自信があるなぁ、今現在。

そして前にも書いた覚えがあるのだが、伊坂幸太郎はKindleシングルをもっと
短いスパンでコンスタントに出すべき。書き下ろしの短編はファンを狂喜させ
るし、初めて伊坂幸太郎に触れる読者もカップリングで過去作品にも触れるこ
とができるのだから、効果は絶大。そしてファンならちゃんと「アルバム」
購入する。心配せずに毎月どーぞ!