ヒポクラテスの悔恨

#法医学


▼ヒポクラテスの悔恨 / 中山七里(Kindle版)

昨年初の長編がリリースされた中山七里・ヒポクラテスシリーズ
今回はかなり短いスパンでの新作。これまでのシリーズ作品と同様に、連作
短編形式に戻っている。

中山七里と言えば、どんでん返しの帝王とされる作家だが、今回は正にソレ
真骨頂全5篇の短編は、どれも確実にどんでん返しが盛り込まれ、一篇
を読み終わる度に「ああ、中山七里を読んでるなぁ」と感じる。こういう部
分で快感を演出できるのは、おそらくこの帝王以外に居ないと思う。

今回はメインキャストの2人、女性法医学者栂野真琴と、埼玉県警捜査一
刑事古手川和也が息の合った名コンビぶりを披露。早く付き合っちゃ
えばいいのに、と思っているのは、キャシー先生だけでは無いと思う(^^;)。

ちなみに、冒頭で貼られた伏線は最後の篇でしっかり回収されるのだけど、
そこの部分で盛大にニヤリと出来るのがこの作品最大のポイントかと。
WOWOWの実写ドラマも、コレを原案に新作を作ってくれるといいんだけ
どなぁ・・・。

伝説のパッチギ王

#原爆頭突き


▼自伝大木金太郎 伝説のパッチギ王 / 大木金太郎(著)太刀川正樹(訳)

大木金太郎に関する書籍、2冊目は大木自身の筆による自伝。
韓国日刊スポーツという新聞で連載されていた記事をまとめたモノで、
その日本語訳がコチラ。韓国版を見ていないのでなんとも言えないが、
おそらく装丁などは日本オリジナルだと思われる。

誤解を恐れずに書くのなら、この作品には【間違い】が多々ある。
例えば、力道山没時に奪取した、とされるWWA世界タッグタイトルに関
しては、まだ世界王座になる前のUSタッグ選手権であるし、米国で当時
NWA王者のルー・テーズに善戦の上惜敗した、というのも嘘。実際には
テーズにボコボコにされてレフェリーストップとなった、というのが本
当のところらしい。

その他の試合記録や時系列もかなりあやふやだし、師匠の力道山を必要
以上に美化されていたりするのだが、韓国での大木の立場を考えると、
話に多少の尾ひれが付くのもしょうがないかと。全盛期の大木は正に
「韓国の力道山」であり、国民的英雄。その頃の大木を知る韓国のオー
ルドファンに、やや血生臭い真実を無理に知らせる必要は無い気がする。

ただ、『キム・イル 大木金太郎』というイチプロレスラーの自伝で、
第二次大戦後の韓国の歩みが、ある程度把握できてしまうのは凄いこと。
少なくとも僕の中の大木金太郎は、アントニオ猪木とプロレス史に残る
死闘を展開してくれた名選手であり、その事実に対するリスペクトは、
今後一生消えない。

しかし、大木の他にはストロングマシン2号の力抜山くらしか知ってい
る選手が居ないのに、黎明期の韓国プロレス史は本当に興味深い。
取り敢えず予習は完璧。今後続いていく昭和プロレスマガジンの連載記
事、心の底から楽しめそう。

キム・イル 大木金太郎伝説

#原爆頭突き


▼キム・イル 大木金太郎伝説:海峡を越えた原爆頭突き / 高月靖

昭和プロレスマガジン55号から始まった連載「大木金太郎の流浪人生」
大木金太郎というプロレスラーは昭和プロレス好きにとって実に魅力的
研究素材。国交の無かった時代に韓国から密航し、力道山の弟子にな
、というだけでも興味深いのに、コレに和を掛けて面白いのが韓国マ
ット界の暗黒過ぎる歴史。おそらくこの連載で、その辺りが鮮明になっ
ていく、と思うのだが。

この連載記事について、参考文献が幾つか記載してあった。既に所持し
ている本もあったのだが、今後の予習の為に改めて入手した2冊のうち
1冊がこの本。史実をしっかり調べ、さらに大木の周辺人物たちに細か
なインタビュー取材を敢行。結果、かなりしっかりしたドキュメント
作品に仕上がっている。

ちなみにこの本はおそらく絶版になっており、古本を当たるしか無い。
僕は幸いにも2,000円程度で購入出来たのだが、今Amazonを調べると
中古品で28,000円(!)から、という高値が付いている。昭和プロレス
に興味のある人は手に入れておきたい書籍なのは明白、そういう人たち
資料に金を惜しまない(^^;)。ちょっと時期がずれていたら、おそら
く僕も数万円を使っていた可能性大である(^^;)。

普通に手に入って本当に良かった。もう1冊はまた別の機会に。

捻くれ者の生き抜き方

#C.A.C.C


▼捻くれ者の生き抜き方 / 鈴木秀樹

人間風車正統後継者にして、日本一面倒なプロレスラーこと、鈴木秀樹
著書。自伝というよりも、自信のプロレスラーとしての立ち居振る舞いを解
説したプロレスビジネス書、といった雰囲気。

ちょっと前、秋葉原の書泉ブックタワーに、昭和プロレスマガジンの最新号
を買いに行った折に、なんとか残っていたサイン本を入手。読みかけていた
本が数冊あり、しばらく置きっぱなしになっていたのだが、ここ1日で一気
に読んだ。

とにかく、デビューから今に至るまで、ずっと特異な場所に居続けた異色の
プロレスラーが鈴木秀樹。UWFスネークピットジャパンビル・ロビンソン
からCACC(Catch As Catch Can)を学び、アントニオ猪木IGFでデビュー
する、という経歴だけでも異色なのに、IGF崩壊後は強烈過ぎるダブルアーム
スープレックスで様々な団体を席巻。今の時代には珍しい、「強さ」をしっ
かり表現できるプロレスラーである。

僕よりもずいぶん年下なハズなのに、まぁ頷ける部分が多々ある内容
ハードな練習をこなして確かな技術を手にしていることに加え、自分の意見
をしっかり言える心の強さと、【おもしろい】ことにアンテナを立てられる
センス。鈴木がフリーながら各団体で引っ張りだこなのも頷ける。

鈴木は今、WWEからコーチの依頼を受けて渡米中。
もちろん鈴木の指導を受けた選手がどうオーバーして行くのかも確認したい
が、願わくば鈴木秀樹がWWEスーパースターとして闘う姿も観たい。
このご時世なので帰国がいつになるのか定かで無いが、その時はどこかの会
場でこの本の表紙にもう一つのサインを貰いたいところ。

その時まで、この本はしっかり所持しておこう!

月下のサクラ

#正義のオンナ


▼月下のサクラ / 柚月裕子(Kindle版)

柚月裕子新作
記録によれば、僕が最初に読んだ柚月作品、「朽ちないサクラ」続編

警察事務員だった主人公・森口泉が、ある事件をキッカケに『警察官』を目
指すことを決意したのが前作のラスト。今作は警察官となった泉が、機動分
析係を志望するところから始まる。

僕は柚月裕子を「日本一男らしい女流作家」と評価しているのだが、女性が
主人公の作品になると、若干迫力に欠ける気が。泉の精神力強い正義感
非常によく理解出来るのだけど、物語の進行があまりにスピーディーであり、
あれよあれよという間に機動分析班の重要人物成り上がる泉はちょっと不
自然で、ややリアリティに欠けるかもしれない。

それでも僕は前作を読んでいるので、ストーリーにしっかり入り込むことが
出来たのだけど、他の書評を見ると【シリーズ2作目】というアピールが
ど無いのが不思議。これはしっかり告知してあげないと、あらぬ誤解を生む
気がする。出版社の煽り文担当は今からでも書き足した方が良いかも。

何はともあれ、柚月裕子のシリーズ作品がまた増えたのは大歓迎。
次の作品あたりで、大爆発がありそうな予感。なんつっても、あの柚月裕子
なので。