経済特区自由村

▼経済特区自由村 / 黒野伸一(Kindle版)

限界集落株式会社シリーズでお馴染みの黒野伸一作品。
表紙の雰囲気とタイトルの感じから、限界集落と同系統の農業系町興し
モノを想像していたのだが、予想は残念ながら大ハズレ。ある意味で、
とんでもない内容異色作である。

舞台は自然豊かな廃村。ここでお金を使わず自給自足で生活し、住民
相互で施し合い、義務や強制の無い暮らしの実現を目指すコミュニティ
が存在する。ある者たちは自らの意思で積極的に、ある者たちは生活に
逼迫し否応無くここに参加。究極のエコロジー生活を実践しているが・・・。
ある理由でこのコミュニティに足を踏み入れた人間は、すぐにその異様
さに気づき、真相を探ろうとする。そこでとんでもない事件が起こり・・・。
という内容。

登場人物は多々居り、主人公が誰なのかもハッキリしない。逆を言えば
主要なキャラクターの全てが主人公になり得る構成であり、主軸を誰に
置くかで物語の風景は大幅に変わる。これはおそらく作者の狙い通り。
人によっては、何度か読み返したくなる作品だと思う。

エコロジーをモチーフにしながら、描かれるのはあまりにドロドロした
人間模様。読了後、この作品に「善人」と呼べる人はは何人居るのか、
確認すれば面白い気がする。

黒野伸一作品としてはかなり異色のミステリーで、読み終わってもやや
モヤモヤしたモノが残るのは否めない。それでもエコロジーに関する
記述や解説はさすがで、いつもの黒野作品同様の爽快感もちゃんとある。
読み応えはかなりのもの。ハッピーエンドを期待する向きの人も、
出来れば一度読んで一緒にこのモヤモヤを共有して欲しい。

実現可能なエコロジーとは何か?
それを考える上でのきっかけにはちゃんとなると思うので。