めぐり会い

▼めぐり会い / 岸田るり子(Kindle版)

しばらく読書対象作家作品のリリースが無いため、Unlimitedで適当に探した作品。
チョイスしたのは岸田るり子というこれまで全く触れなかった作家の作品。ちょ
っと時間をかけてゆっくり読もう、とか思ったのだけど・・・。

いや、ビックリ。この作品、普通に面白く、あっという間に読了!
バタフライエフェクト、かんたんに言えば「風が吹けば桶屋が儲かる」をモチー
フに構成されたヒューマンミステリー二人語り部が交互にエピソードを紡ぎ、
最終的に驚くべき交錯を見せる、非常に緻密な物語

ちょいネタバレ注意なのだけど、いろいろな問題が起こりながらもその全てがし
っかりリンクし、さらにハッピーエンド(?)に近いところまで話を持って行く
テクニックはなかなかのモノ。この作家、ちょっと他の作品もチェックしてみた
くなった。

難を言えば、キーになる「ある文章」繰り返し掲載がちょっとしつこいところ
と、舞台が京都であり、その地理に明るければもっと楽しめたのかもしれないと
ころ。しかし、特に京都に詳しくなりたいワケでは無いからなぁ・・・。まぁ、ど
ちらも大きな問題では無いけれど。

Unlimitedサービスの作品だが、課金する価値も充分にある。読み放題ユーザー
でミステリー好きな人は、確実に読んでおくべき。秀作です。

素敵な日本人

▼素敵な日本人 / 東野圭吾

東野圭吾の新作。
9篇ミステリーが収録された短編集で、最近定番になりつつあるソフトカバー。
東野圭吾の場合、連作短編の秀作は山のようにあるのだが、“純粋な短編集”とし
ては2011年に発売された「あの頃の誰か」以来。従って、氏にしては非常に珍し
い構成かと。

僕の東野圭吾歴は、連作短編集の「探偵ガリレオ」から始まっている。東野歴、
と言うより、僕の今みたいにミステリーを中心とした小説作品をバカみたいに読
、というスタイルは完全にこの偉大な作家の影響。特別すぎるほど特別な作家
が、僕の原点でもある短編集を出す、というのだから、コレは期待しないわけに
はいかない。果たして・・・。

・・・いやぁ、凄いわ、コレ
充分に練られたトリックと、澱みが全く無くスパッと入ってくる文章。「あ、オレ
今東野圭吾読んでる」と感じさせてくれる、すばらしい一冊に仕上がってると思う。

全9篇にハズレは一切なし。内容とあまり関係の無いタイトルかと思いきや、読了
してみればなるほどどれもが“日本的”なミステリー。久々に光の速さで読み終わり、
さらにもう2〜3篇読みたくなっちゃうのだから、正直脱帽である。

オススメは猫好きなら感涙してしまう「サファイアの奇跡」と、まさかのオチ
驚愕せざるを得ない「君の瞳に乾杯」。というか、全部面白いのでミステリー好き
なら確実に入手すべし! もちろん、良質な短編を探してる人もぜひ!

翼がなくても

▼翼がなくても / 中山七里 (Kindle版)

中山七里の最近(2017年1月)の作品。
オリンピックを狙えるポテンシャル持つ女性スプリンター・沙良が、不慮の交通
事故で左足の切断を余儀なくされる。加害者は隣の家に住む引きこもりの幼なじ
み・泰輔。いきなり全てを失った沙良は、当然のように泰輔を深く恨むのだが、
その泰介が死体で発見される。犯人は? そして沙良の未来は?・・・という内容。

ミステリーとして発表されているが、今作に関してはその部分がメインでは無い。
オリンピックを目指していたアスリートが、不屈の精神でパラリンピックを目指
す様子が赤裸々に描かれていると共に、日本におけるパラスポーツの問題点が浮
き彫りになる構成。硬派な人間ドラマである、と思う。

そういうわけで今回のミステリー部分はそれほど大きな役割は無いのだけど、
登場人物はやたら豪華犬養刑事の登場は驚きつつも展開上“ある話”な気がする
のだが、まさかこの手の話にあの御子柴弁護士が登場してくるとは・・・。
犬養と御子柴という中山作品二大スターの邂逅には注目せざるを得ず、人間ドラ
マの中で効果的なアクセントとなっている。

最近、各所でパラリンピアンのデモンストレーションを見る機会があるのだが、
単純に彼らは「凄い」。車椅子バスケの選手のマシンの取り回しはある意味で
芸術に近い技術だし、ウィルチェアラグビーの選手に全力でタックルされるよ
り、軽自動車と正面衝突した方がいくらかマシ、とすら思える。ただ見ている
だけでも充分に楽しめる競技なのに、やはりオリンピックスポーツに比較する
と悲しいまでに人気が無い。でも・・・。

この作品がきっかけとなり、パラスポーツがもっと一般に認知されるようにな
り、競技者と技術者が本気で取り組める体制が日本でも出来ればいい、と思う。
3年後東京で行われるパラリンピックで、日本人メダリストが一人でも多く
輩出されるように・・・。

シャンデリア

▼シャンデリア / 川上未映子 (Kindle版)

「パンドラ」を思ったより早く読み終わってしまったため、久々にUnlimitedスト
を徘徊。ピンと来るタイトルのモノがあれば読もう、とか思っていたのだけど、
Unlimited商品によく見る名前の作家を発見。芥川賞作家川上未映子がソレ。

・・・因縁の芥川賞関係作品だが、「コンビニ人間」でややストレスが薄まった気が
していたので、取り敢えず読んでみることにした。そしてこれまで作品こそ読んで
いないものの、川上未映子は若干気になっていた作家。いわゆる文学系アイドルで、
プロとして音楽活動も続けるミュージシャンでもある、という偏った予備知識アリ。
ハッキリ言えば、その「見た目」に惹かれていただけなのだけど(^^;)。

この作品はお馴染みのKindle Single
ものの数分で読み終わる短編が1本掲載されているだけなので、この作家について
深く語る資格は本来僕には無いのだけど・・・。もし他の作品もこういう文体で書い
ているのだとすれば、僕にはちょっと敷居が高い(^^;)かもしれない。

登場するアイテムの殆どが「女性」にしか解らないものであり、何がどう凄いの
かが全く理解出来ない。というか、積極的に理解しようとも思えない(^^;)。
その所為か、ラストの唐突な展開も全く心に響かなかった・・・。

基本、そんなもんなんだろうなぁ、アクタガワ系統の人は(^^;)。
ただ、僕にはなぁんの関係も無いのだけど、もしかしたらいわゆる「感度高い系」
の女性陣には受ける可能性アリ、とだけ言っておく。

この作家の他の作品を読む機会は・・・無いだろうなぁ、きっと(^^;)。

パンドラ

▼パンドラ 猟奇犯罪検死官・石上妙子 / 内藤了 (Kindle版)

あれ、新作?と思っていたらちょっと違った。
テレビドラマ化もされた内藤了の猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ初のスピ
ンオフ作品。主役はお馴染みの「死神女史」こと石上妙子。しかも若い頃。
・・・このシリーズのファンには、設定だけでもうたまらない、と思う。

実際、非常に面白く、いろいろな意味で穴の無い物語
ある意味ボスキャラの死神女史が何故に法医学を学び、どうして検死官となった
のか?など、藤堂シリーズのコアとなる部分のルーツが非常にエキセントリック
だし、かつての恋の相手とされる2名(ジョージとガンさん)との邂逅シーンも
非常に印象的。コレを読んでから本編を読む、というのがいちばんスッキリする
かもしれない。

そしてこのスピンオフ、いつもの通り何段階かのオチが用意されているのが凄い。
たいへん困ったことに、難解さが増して物語がこんがらがっている比奈子さんの
エピソードよりも、若き日の死神女史がどのように成長していくのか?、をもっ
と読みたくなってしまっている

もしかしたらこのスピンオフ、完全に本編を食っちゃったかも(^^;)。
コレを言っちゃったら元も子も無い気もするが・・・。続編に期待!