白鳥とコウモリ

#ザ・ミステリー


▼白鳥とコウモリ / 東野圭吾

東野圭吾新作
コロナ禍の影響か、遂に過去作品の一部が電子書籍化された東野作品だが、
新作はやはりソフトカバーオンリー。まずは書店でそのを見て度肝を抜
かれた。「白夜行」までいかないかもしれないが、一見しただけで大長編
と解る装丁。気合いを入れて読み始めた。

弁護士の変死から始まる物語。手がかりの殆ど無い事件で、捜査は暗礁に
乗り上げるかと思われたが、ある容疑者自白で事態は急展開。被害者・
加害者双方の家族も生活が一変し、世間の好奇の目に晒されてしまうのだ
が、被害者の息子加害者の娘の双方が、犯人の「供述」に全く納得が出
来ないでいた・・・という感じ。

・・・凄い
全編に張り巡らされた伏線と、あまりにリアルな加害者・被害者の感情が
交錯し、結果全てから目が離せない。とんでもない長編なハズなのに、全
くと言って良い程長さを感じず、ほぼ2日で全てを読み切ってしまった。

東野圭吾の著作はほぼ全てを読んでいるのだが、個人的にその中でもベス
ト3に入る傑作、と評価。どこを読んでも静かな緊迫感が溢れ、読中心臓
の鼓動が安定しない程。そしてこれまた久しぶりに、最後まで犯人が全く
解らない、というミステリーの王道もしっかり歩んでいる。

これぞザ・ミステリー。東野圭吾の真骨頂を、久々に堪能させてもらった。
ちなみに読後感、悪く無いどころか清涼感すら。オススメすることに何の
躊躇も無い。改めて、凄い作品です、コレ。

門茂男のザ・プロレス ≪角川抜粋版≫

#元祖暴露本


こないだ仕入れた例の稀覯本文庫の3冊を一気に読んだ。

『門茂男のザ・プロレス』シリーズ3冊で、タイトルはそれぞれ「力道山の
真実」「馬場・猪木の真実」「群狼たちの真実」。著者の門茂男とは、
力道山時代に東スポプロレス担当記者として活躍し、力道山没後は日本プロ
レスコミッションで長い間事務局長を務めたバリバリのインサイダー

佐山サトルの「ケーフェイ」やミスター高橋の「流血の魔術」以前に書かれた
プロレス内幕暴露系元祖で、オリジナルは「門茂男のザ・プロレス365」
いう8冊単行本。この角川文庫版は、そこからの抜粋である。

ここまで長い間プロレスを観ているから、仮に暴露本を読んでも今さら何も感
じない僕だが、多感な頃に365を読んだ時、そりゃあもうアタマに来た(^^;)。
小学校高学年くらいで『暗黙の了解』という概念(^^;)が染みついていた僕だ
が、これが「本」として流通している、という事実が気に食わず、完全黙殺
ていた少年期(^^;)。熱かったなぁ、あの頃は。

今読み返すと、暴露の部分も後にいくらでも出てくる他の作品に比べれば全く
大したことは無い。逆に【日本プロレス】という会社の経営に纏わる真実の部
分は今でも興味深く読める。こりゃ大人になった、ということでいいのかな?

この抜粋版も絶版であり、今では入手困難。
もし叶うのであれば、オリジナルの365全巻をもう一度しっかり読みたい。
復刊ドットコムあたりでなんとかしてくれないかなぁ・・・。

ドキュメント

#文化系部活動


▼ドキュメント / 湊かなえ

湊かなえ、待望の新作は名作『ブロードキャスト』続編
交通事故陸上選手としての夢を絶たれ、やむなく放送部に所属した男子
高校生が、放送コンテスト「Jコン」全国制覇を目指す物語。前作は
優勝にあと一歩及ばず、翌年のリベンジを誓うところで終わっていた。
今作は主人公と放送部の面々の、その後の物語である。

かつて“イヤミスの女王”と言われた湊かなえだが、最近はイヤミスを殆ど
頼りにしていない作品が多い。もちろん僕もイヤミスで湊かなえに入った
ので、最初は違和感があったのだが、脱イヤミス作品もなかなかに面白か
った、というのが湊かなえの凄いところ。その中でもいちばん共感したの
が3年前にリリースされた『ブロードキャスト』という青春モノであり、
個人的にはずっと続編を待っていた。

今回は最先端の文化系部活動の物語だと思っていたのだが、かなりレベル
の高い学園ミステリーに変貌。思春期の少年少女の心模様を描きながら、
ある日起こった事件の犯人を炙り出す、という構成。悔しいことに、僕は
最後まで犯人が解らなかった。いや、解らなかったというよりも、誰一人
犯人であって欲しく無い、という先入観を植え付けられた結果な気がする。

ということで、読み応え抜群青春群像ミステリーであることは保証する。
誰が読んでも絶対に熱くなれる、とは思うのだけど、この単行本の為に書
き下ろされた「終章」があまりに切ない。不覚にも、ちょっと涙が出た

・・・おそらく今後はこういうスタイルの小説が増えていく気がする。
この作品に関しては、今の騒動が【過去】になった時にもう一度読みたい。
せっかくの傑作なのだから。

Mil Máscaras

#50th Anniversary


『仮面貴族』ミル・マスカラス初来日から、今年で50年が経過する。
これを記念し、Gスピリッツが大々的なマスカラス特集。本人への最新イン
タビューの他、弟のドス・カラスのインタビュー、獲得メジャータイトル
の解説など、非常に興味深い内容となっているのだが・・・。

最近発掘されたゴング・ポケットダイジェスト③マスカラス特集と並べてみた。
マスカラスが日本で大人気になったのは、本人が来日する前から毎月のよう
プッシュした月刊ゴングのおかけ、というのはほぼ全てのプロレスファン
が知っている事実。「ゴングのマスカラスか、マスカラスのゴングか」とい
うキャッチフレーズまであった。

Gスピリッツの編集チーム首脳陣はみなが元ゴング編集者。そういう意味で
マスカラスの特集本が出るのは頷けるのだが、その前に大きな奇跡に感謝
しなければなるまい。

ミル・マスカラスが、未だに存命であり、元気で過ごしていること。
更に凄いのは、ミル・マスカラスが未だ現役のプロレスラーであること。
マスカラスももう78歳(!)。こうなったら僕が死ぬまで生きてて欲しい。

「千の顔を持つ男」「百の年を重ねた男」になったらカッコイイじゃん♪

▼G SPIRITS No.59

こうふく あかの

#道


▼こうふく あかの / 西加奈子

西加奈子「こうふく みどりの」の姉妹作
2冊で1作品、ということだが、普通に【続編】と理解した方が良いかも。
だから、もしこの作品を読もう、という人が居るのなら、先に「みどりの」
を読んでからの方がおもしろい、と最初に言っておくことにします。

「あかの」主人公二人で、それぞれのタイムラインの物語が交互に進む、
という構成。一人は2007年の段階で調査会社に中間管理職として勤務する男
で、典型的な「事なかれ主義」を貫くサラリーマン。もう一人は2039年の
段階で「最強」とされるプロレスラー。残念ながら、その時代のプロレスは
かなり衰退している模様。

2007年のある日、の突然の「妊娠報告」に狼狽する夫。妻とは長い間夜の
コンタクトが無かったため、お腹の子どもが自分の子ではない、ということ
は確定。妻を問いただし、揶揄したいという願望はあるものの、事なかれ主
義が身体に染みついている男は何をどうしたら良いか解らない。
一方2039年、ドサ回りをしながら少ない観客の前で最強を証明し続ける48歳
のプロレスラーは、新人選手の挑戦を受ける。対戦相手はコレがデビュー戦。
普通では考えられないシチュエーションの試合で、王者は…という内容。

「みどりの」に比べれば、束も薄く、苦手な大阪弁表記も無いので読みやす
いハズなのだが、こちらの方が読み終えるのにかなりの時間を要した。本当
なら嫌悪すべきな調査会社課長に多大なる感情移入をして読んでしまい、そ
いたたまれなさに読書を数度中断したのが原因。おそらく僕も「事なかれ
主義」の権化であり、問題対処の考え方が主人公とほぼ同一。共感するたび
に情けなくなる、という、やたら精神に突き刺さる作品であった。

この作品の根底には、「みどりの」よりも数倍色の濃い『アントニオ猪木』
が流れている。『俺が今まで、猪木のような眼をすることがあったかと、四
十を手前にして思うのは大変に辛く、ただただ手遅れであった』という一文
が、この作品の全てを表現している、と言って過言は無い。

僕もだ
50年近くアントニオ猪木を見続けて来たのに、猪木のような眼で何かに立ち
向かったことが一度でもあったのか?そう考えると、涙が出てくる

僕より一回り若い女性は、きっと猪木と同じ眼をして小説を書き、結果的に
直木賞を受賞した。そう考えるとかなり悔しいけど、悔しさ以上に西加奈子
という稀有な才能をリスペクトせざるを得ない。

【こうふく】連作、凄いインパクト。目が覚めました、本当に。