愚零闘武多伝

#忍炎


▼愚零闘武多 グレート・ムタ伝 / 武藤敬司

G SPIRITS BOOK vol.15としてリリースされたのは、なんとグレート・ムタ
の評伝。評伝と言っても、著者は武藤敬司だから、ある意味「自伝」でも全く
差し障りは無い(^^;)。プロレスファンだけが解っていれば良いニュアンス。

グレート・ムタはアメリカ遠征中の武藤敬司がプロモーターの要請に従って
顔面にオリエンタルなペイントを施したキャラクターを演じたのが始まり。
アメリカで大ブレイクしたキャラを日本でも、ということで新日本のマット
にも登場したが、そこからムタを完全な【別人格】としたところが武藤の賢
さであった。

武藤敬司の自伝的な作品はこれまでにもあったが、面白いのはコチラがほぼ
グレート・ムタにのみ注視してタイムラインを描いていること。こういうア
プローチの出来るプロレスラーは、やっぱり武藤敬司しか居ない気がする。

正直、そのあまりの天才ぶりの所為で僕は武藤ファンだったことは無いのだ
けど、プロレスラーとしての上手さと凄さ、さらにその魅力を認めないワケ
にはいかない。それがムタになれば尚更で、これまで印象的だったムタの試
合の殆どが武藤の口から解説されていることに大きな価値がある。

今現在、武藤敬司はNOAHでGHCヘビー級のベルトを巻き、エースとして活
躍している。この状況が終わった時、再びムタが降臨するかもしれない。
グレート・ムタ、桜庭和志と試合したら面白いと思うんだけどなぁ・・・。

弥勒世(下)

#沖縄返還前夜


▼弥勒世(下) / 馳星周(Kindle版)

馳星周アンリミテッド、ようやく弥勒世の下巻を読了。
長編、もしくは長期シリーズが多々ある馳星周だが、このボリュームはちょ
っと異常(^^;)。無論、いたずらに長いワケでは無いのだけど・・・。

沖縄というけして大きくない島の話なのにも関わらず、ありとあらゆるキャ
ラクターが登場し、敵になり、味方になり、その上で死んで行く、という救
いようのない物語。特に、物語の主役級のうちの数名が下巻の前半から中盤
でバタバタ死んで行くのは、馳星周の真骨頂。それでも物語と時系列は破綻
せず、恐ろしく空虚なラストに向かって突っ走って行くのだから凄い。

正直、あまりの長さでもうお腹いっぱいではあるのだが、相変わらず骨太で
男臭いザ・ノワール。生きている場所も、時代も、立場も何もかも違う筈の
僕が、主人公のアナーキストぶりに何故だか共感してしまう。もし生まれ変
われるとするなら、僕の脂の乗った時代をココ、高度成長開始時の日本にし
て欲しい。得体の知れない高揚感を味わえそうなので・・・。

・・・さすがにちょっと大長編はお休み(^^;)したいところ。
次はもっとカンタン系の作品をチョイスしようかと。まぁ、タイトルだけを
頼りにしてたら結果は同じかもしれないけど。

弥勒世(上)

#沖縄返還前夜


▼弥勒世(上) / 馳星周(Kindle版)

馳星周アンリミテッド。どうやら「みるくゆぅー」と読む模様。
コレも特に何も考えず、未読作品だったのでチョイスしたのだが、心の準
備もせずに読むべきではなかったかも。

第二次対戦終了後、米軍の占領下にあった沖縄。まもなく日本への返還、
という混迷の時期に、それぞれの思惑で動く沖縄人・米国人・日本人の間
を縦横無尽に泳ぎ回り、「自分のためだけ」に何かを成そうとするアナー
キストの物語。

この作品も間違いなく馳星周独特のノワールなのだが、返還直前の沖縄と
いう舞台設定が悉く磁場を狂わせる。流されるまま生きることしか許され
ないウチナンチューと呼ばれる沖縄人の悲哀、ベトナム戦争で身も心もボ
ロボロにされた米軍人のトラウマ。コレに全共闘の要素も絡んで来るのだ
から、カオス度合いが半端ではない。ある意味、氏お得意の歌舞伎町アン
ダーグラウンドよりも、よっぽどディープな世界が展開される。

さらにこの作品、単純に「長い」。上下巻に別れていたのでハナから覚悟
はしていたのだけど、物語の密度が濃いままでこの長さの読書に対応する
には、強靭な精神力が必要かと。下巻のことを考えると、良い意味で先が
思いやられる。

・・・ただ、上巻の最後半で展開される吐き気を催すような展開だけは勘弁
してもらいたい。僕はああいうのを割り切ることが出来ないんだよね、相
変わらず。

日本ローカル鉄道大全

#老後の目標


▼日本ローカル鉄道大全 / 櫻田純

いろんなジャンルの【オタク】を経験している僕が、これまでにただの一度
もハマっていないのが「鉄道」。子どもの頃にブームだったNゲージやHOゲ
ージにもハマらなかったし、カメラが趣味だった頃も鉄道写真には手を出さ
なかった。もちろんこれから先も鉄道との縁は薄いと思うのだが、唯一興味
があるのがこの本に描かれている世界。

日本全国の有名(?)ローカル鉄道が紹介されている本で、その数なんと
78路線(たぶん)。これだけの数を入れるので、それぞれの路線の紹介は
殆ど1ページ、多くても見開きなのだが、どこの路線も写真が非常に秀逸。
たった1ページだけで、どの電車にも乗ってみたくなるくらい。

著者の櫻田純氏は、鉄界では超有名な偉人らしいのだが、皆に尊敬される
理由が本当に良く解る。コレは乗ってみたい!、と全部思っちゃったのだ
から凄い。

現実、ここで紹介されている78路線の中で乗ったことのあるのは会津鉄道
のみ。多感な時期に小湊鐵道のそばに住んでいたにも関わらず、あの電車
を利用したことはただの一度も無い(^^;)。だって、クルマで行った方が早
いんだもの、全然(^^;)。

ということで、老後の目標が出来た。
この本をガイドにして、スタンプラリーの様に北から完全制覇を目指す!
ソレの紀行文をブログに書いたら、楽しいだろうなぁ、きっと♪

・・・お願いだから、それまでは廃線にならないで欲しいです、各線。

“黄金の虎”と”爆弾小僧”と”暗闇の虎”

#奇跡の英国トライアングル


▼”黄金の虎”と”爆弾小僧”と”暗闇の虎” / 新井宏

G SPIRITS BOOK VOL.14としてリリースされた作品。
著者の新井宏氏は、G SPIRITSで秀逸なインタビュー記事を幾つも手掛けた
人で、あのダイナマイト・キッドに最後のインタビューを敢行した日本人
として知られる人。おそらく古今東西の英国マット事情に一番あかるいプ
ロレスライターである。

そんな新井氏が【タイガーマスク】を書く。そうなると絶対に外せないの
は、初代タイガーマスクこと佐山サトルと一緒に時代を築いた二人の偉大
な英国人プロレスラー。もちろん、ダイナマイト・キッドとローラーボー
ル・マーク・ロコである。

佐山の新日本プロレス入門から現在に至るタイムラインの中に、キッドと
ロコの二人の人生をバランス良く織り交ぜているのがポイント。どちらか
と言えば主軸は既に故人となっているキッドとロコの二人であり、彼等の
凄まじいキャリアがストレートに入ってくる。文体は淡々としたドキュメ
ンタリーなのに、そこには確実に「熱い何か」が。恥ずかしながら、二人
が永眠する件を読んでいる時、嗚咽を交えて号泣してしまった。

『爆弾小僧』も『暗闇の虎』も、もうこの世に存在しない。
そんな揺るぎない事実を突きつけられた上で、改めてキッドとロコの稀有さ
を思い知った。

この本を書いてくれた新井氏を心の底からリスペクトすると共に、感謝の
言葉を贈りたい。「傑作」をありがとう、と。

・・・そして残された佐山先生、お願いだから1日でも長く生きてください。
『黄金の虎』は、僕らの最後の牙城なのだから。