真説・長州力

▼真説・長州力 1951-2015 / 田崎健太

ど真ん中こと、長州力の半生を居ったノンフィクション。
本人もさることながら、周辺の人物丹念なインタビューを繰り返し仕上げら
れた力作。長州だけに(^^;)。

・・・まぁ、本来の僕ならば間違い無く“買ってはいけない”本であることはまぎれ
もない事実。なんつったってこの本は、あの長州力に関する本なのだから。

ハッキリ言って僕は長州力が嫌いだ。嫌いな理由はここでは書ききれない(^^;)。
長州の試合は生で百回は観ているし、映像であればもう何百試合分観ているか解
らない程。ただし、ある一時期を除いて長州を応援した覚えが無い。この時期と
言うのは全日本プロレス参戦時「お前がダメだと新日本がダメだと思われる」
という感情から、本当に仕方無く応援していただけの話。

そんな長州の本を何故読もうと思ったのかと言うと、先にこの本の取材を受けた
他のレスラーが多媒体で受けたインタビューを何本か読み、興味が沸いたため。
おおよその人たちは辛辣であり、罵詈雑言の嵐。どんな酷い本か確かめてやろう、
という凄く否定的な理由で入手したのだが・・・。

思った以上にちゃんとした本だった。
特に学生時代、オリンピックに出場を果たす程優秀だったアマレス時代の記述は
ある理由からこれまで表に出ることは殆ど無かった。その部分が読めただけで
吉田光雄というアマチュアレスラーとその周辺の名選手たちに興味が沸いたし、
同じくこれまで語られる機会の少なかった最初の海外遠征時のエピソードには
いわゆる“下積み”の苦労が滲み出て、読み応えはかなりあった。

しかし、この内容を「真説」とするのはどうかと思う。コレはマジで。
新日本プロレスをこれまでの新日本では無い組織にしてしまったのは間違い無く
長州であり、全日本時代にジャンボ鶴田ブルーザー・ブロディに完封され、
全日ファンにニヤニヤされたのはトラウマになりそうな屈辱だった。そして何よ
り、大失敗していろいろな選手の将来を変えてしまったあのWJは、長州の我儘
で出来た団体だと言うことに間違いは無い。そういう、圧倒的な罪が明確にある
のに、論調がやや「いい話」になっているのは、ちょっと納得が行かない。

ただ、長州力というプロレスラーのキャリアに基づいた関係者へのインタビュー
には一読の価値あり。残念ながら、僕の長州力というプロレスラーの評価は全く
変わらなかったけど。

サブマリン

▼サブマリン / 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の新作は名作「チルドレン」の12年ぶりの続編。
少年犯罪を担当する最強にしてサイアクな皮肉屋である家裁調査官・陣内と、
その部下の常識人・武藤が担当した未成年交通犯罪。無免許暴走運転で人が
死んでしまう、という事案を中心としたエピソードである。

陣内というキャラクターは、僕の憧れでもある。
口から出る言葉の殆どは皮肉か屁理屈であり、周囲にはとんでもない迷惑
をかけ続ける。ところが、決して本当に嫌われることが無い、という特異
な性格。彼の発する言葉は虚言や適当な言い逃れにしか聞こえないのだが、
最終的にソレを「嘘」にはしない。そういう姿にちょっと痺れてしまう。

ただ、今回のテーマは本当に重かった
陣内はいつものようにカッコイイ皮肉を撒き散らし、語り部の武藤は軽妙に
それを収拾しようとする。その様子はいつも通りの楽しい展開なのだが、状況
を思い返す度に「笑っている場合では無い」、という気分にさせられる。
伊坂作品でそういう感情になるのは本当に珍しい。

・・・おそらくこれは凄く個人的なことが原因。
交通事故で大事な身内を亡くしている僕は、どんな理由があっても加害者の
心に寄り添うことが出来ない。だから、この作品に出てくるいろんな人たちの
「事情」について、理解こそ出来るのだが納得は決して出来ない。それはもう、
本当にどうしようもないことだと思う。

だから読中にやたら焦燥感を感じていたのだが、最後の最後でちょっとした、
しかし強烈なが見えた。その言葉を発したのはやはり陣内であり、それが
無ければこの読書は単なる苦痛になるところだった。

伊坂幸太郎、やはり恐るべき作家。追いかけ甲斐があるな、この人は。

『週刊ファイト』とUWF

▼週刊ファイトとUWF 大阪発・奇跡の専門誌が追った「Uの実像」 / 波々伯部哲也

以前読んだ『痛みの価値 馬場全日本「王道プロレス問題マッチ」舞台裏』
続くプロレス激活字シリーズ第二弾。今回の著者は波々伯部哲也という聞き慣
れない作家さんだったのだが、読み始めてすぐ謎が解けた。
我々の間では既に伝説となっているタブロイド週刊ファイトの元副編集長に
してI編集長の懐刀であった人。こりゃあすげぇ、ということで一気に読んだ。

いわゆる第一次UWFから三派分裂後、そして最近のカッキーエイドのトピック
まで、UWFにまつわるエピソードが多々。かなり踏み込んだ内容なのにもかか
わらず、最近出版されるプロレス本にありがちな暴露系の匂いは全くしない。
その硬派で誠実とも言える文章は正しく週刊ファイトスタイルであり、読んで
いて懐かしさすら感じたほど。

特に第一次UWFという現象を実体験している僕には、当時知り得なかった事実
に心が震えた。あれからもう30年が経過しているにもかかわらず、である。
UWFという運動体のインパクトはそれだけ凄かったのだ、と改めて感じた。

しかし、だ。
良いか悪いかはともかくとして、この本で印象に残ったのは「UWF」ではなく、
「週刊ファイト」という恐るべき媒体であった。ファイトは著名な編集者を
何人も輩出しているが、ほぼ全員が良い意味でも悪い意味でも”クセ者”(^^;)。
しかし波々伯部哲也なら、ファイトの正しい回顧録が書ける気がする。

是非とも次はファイトのみにフォーカスした作品を。
懐かしいなぁ、喫茶店トーク(^^;)。

部屋・アウトサイド

▼部屋<下> アウトサイド /  エマ・ドナヒュー (著)・ 土屋 京子 (訳)

「部屋」、ようやく下巻を読み終えた。
語り部は今回もジャック(^^;)。まぁ、予測していたことではあったのだけど、
このガキの喋り言葉は鬱陶しいことこの上無い。忙しかったとは言え、たった
1冊の文庫を読むのに4日近くを費やした。う〜ん・・・。

サブタイトルは「アウトサイド」
上巻の最後で見事に“大脱走”に成功したジャックとその母親「その後」の話。
一般社会は母親にしてみれば生還だが、ジャックにとっては初めての場所
自我が芽生えてから突然“普通”の生活に放り込まれたジャックの気持ちには
もちろん共感出来ないが、その苦しみだけは手に取るように解る。ただ読む事
しか出来ないのに、強烈な痛さだけは随時襲ってくる。
・・・出るもまた地獄、ということなんだろうか?

そういう意味で凄い作品ではあるのだが、ハッキリ言って順番間違えた(^^;)。
この小説を読んだ後に映像化されたモノを観よう、という気になる人が居る
としたら、その人格を僕は否定してしまうかもしれない。それくらい後味の
悪いストーリーであり、その世界観を思い返すとゲンナリする。

さらに言うなら、翻訳がハッキリと「失敗」と言い切ろう(^^;)。
5歳児の喋り言葉をああいう日本語で表記する、というのは、大きな勘違いの
ような気がするのだが。“知的レベルの高い5歳”日本的な幼児言葉の羅列で
誤魔化すのは正直卑怯だと思うし、もう少し言葉のレベルを上げて表現しても
腕の立つ人なら成立したように思う。
違う訳者の翻訳なら、と考えると惜しいなぁ・・・。

ただ、もちろん万人にはオススメしません(^^;)。
映画先に観ればよかったな、マジで。

部屋・インサイド

▼部屋<上> インサイド /  エマ・ドナヒュー (著)・ 土屋 京子 (訳)

アカデミー賞最有力候補と言われる映画「ルーム」
その原作で、上下巻2冊の大作。ブクログ献本企画に応募し、見事に2冊を
セットでゲット。映画と小説、どちらを優先するか迷ったのだが、取り敢えず
小説の方から読んでみた。

上巻のサブタイトルは「インサイド」
とある“部屋”の中“だけ”で暮らす親子の話で、ほぼ全ての文章は5歳になった
ばかりの男の子、ジャックの語りで進められる。

約9割を占める幼児言葉の羅列は正直苦しく、前段から中盤にかけてはハッキリ
「苦行」であった。ただ、この苦行を続けることで”部屋”の状況が異様である
ことがゆっくりと、しかし確実に解ってくる。全ての状況が完璧に把握出来る
のはもう殆ど上巻の終盤であるが、ラスト30ページ怒濤の展開はスリル満点
事件は一応一段落するのだが、「アウトサイド」と銘打たれた下巻がちょっと
楽しみになってきた。

ただ、語り部がジャックのままだとちょっと苦行は続いちゃうかも(^^;)。
状況が変わってくれるとありがたいなぁ(^^;)。