独学のプロレス

#究極龍


▼独学のプロレス / ウルティモ・ドラゴン, 小佐野影浩(Kindle版)

究極龍こと、ウルティモ・ドラゴンプロレス人生が記された作品。
元週刊ゴングの小佐野編集長との共著であり、ウルティモの語り下ろしと
小佐野さんの状況分析の組み合わせで構成されている自伝本。

90年代獣神サンダー・ライガーグレート・サスケと共に、ジュニア
の黄金時代を創ったプロレスラーがウルティモ。浅井嘉浩としてユニバ
ーサルに初登場した時は、その華麗な空中殺法に度肝を抜かれたし、そ
の後の見事なまでの「成り上がり」っぷりも実に見事。何よりも評価に
値するのが今のドラゴンゲートに繋がる闘龍門を作ったこと。このプロ
レスラー養成学校が存在しなければ、冗談抜きで今のプロレスは存在し
なかった、と言って過言は無い気がする。

プロレスから離れたところでも、ウルティモのグローバルセンスに注目
すべき。海外を主戦場する選手は多々居るが、ウルティモほど様々な国
で活躍した日本人プロレスラーを僕は知らない。この本を一読すればよ
く解るのだが、海外に対する良い意味での「恐れの無さ」に関しては、
彼が持ち得た天賦の才だと思う。こういう感覚、出来れば僕も持って生
まれたかった。

とても良いドキュメントなのだけど、願わくばもう少し遅い段階でこの
作品を読みたかったかも。具体的には引退後、もうリングに立たなくな
った浅井嘉浩の口から語られる話であれば、普通に感動出来た気がする。
ココで引退を匂わせるのは、ちょっとだけ切ない。できることならこれ
から先もずっと、現役のプロレスラーでいて欲しいので。

さよなら、プロレス

#幸せなリタイヤメント


▼さよなら、プロレス / 瑞佐富郎(Kindle版)

愛のプロレス作家、瑞佐富郎氏の作品。
サブタイは『伝説の23人のレスラー、その引退の<真実>と最後の<言葉>』
前回読んだ「プロレス鎮魂歌」は、「死」によってリングを去ったプロレス
ラーの物語だったが、今回はしっかり「引退」することの出来た、ある意味
で幸せなプロレスラーたちの物語。

ここで描かれている23の引退のうち、記憶に無いものは一つとして無い。
しっかり調べてみると、うち7つの引退興行を生観戦しているのだから、僕
のプロレスファン歴も相当長くなった。スーパーセレモニーとなったアント
ニオ猪木天龍源一郎、近くは獣神サンダー・ライガーの引退興行はすぐに
でも詳細を思い出せるのだが、そこに瑞氏の言葉が入ると目頭が熱くなる
相変わらず泣かせてくれる、すばらしい作家だと思う。

印象に残ったのは、現在新日本プロレス広報として活躍する井上亘のトピ
ック。けして上手くは無いし、対抗戦など大事な場面でコロコロ負けた井上。
コレが原因で現役時代は盛大にイライラさせられた(^^;)のだけど、引退セレ
モニーでは文字通り号泣した僕(^^;)。派手な戦績は残せなかったけど、いつ
も一生懸命な井上亘は「プロレス」にとって必要な選手だった、と引退式の
時に感じた。

瑞氏の作品は、そういうプロレスの良さをいつも再確認させてくれる。
この名著もUnlimited扱いなので、興味のある人は是非ご一読を。

まりも日記

#猫生


▼まりも日記 / 真梨幸子(Kindle版)

何故だかリリースを知らなかった真梨幸子新作
これまで各所で発表された短編を集めた一冊で、こういうのはおおよそ
の場合で寄せ集め感がいっぱいのお手軽本になりがちなのだが、この作
品はやっぱりちょっと・・・いや、全然違った

全6篇から成るエピソードの共通アイテム「猫」「猫バカ」
それぞれが基本独立した短編なのだが、合間に【閑話】書き下ろす
とでしっかり統一感を出しているのが凄い。

リアル世界幸子サマが、まりもさん・モナミさんという名前の2匹の
ブリティッシュショートヘア溺愛しているのはマニアの間では有名な
話であり、それにまつわるエッセイも一冊刊行されている。そんな幸子
サマだから「猫」の話はお手のモノ。イヤミス全開の猫話はどれも秀逸
で、相変わらずコチラを奈落の底に叩き落としてくれる。

・・・正直、最初は猫エッセイ第二弾かと思って読んでいたのだが、途中
でそうでないことに気付いて驚愕。そして最近お得意の【リピート記述】
が非常に効果的。前半で読んだモノと寸分違わぬ文章がもう一度登場し
てきた時は、盛大にニヤニヤさせていただいた。

よろしければ幸子サマのブログマリモナミの姿をチェックして欲しい。
あの美麗な2匹から、こんな凶悪な物語を思いつく才能、心の底から凄い
と思いますよ、ええ。

毒島刑事最後の事件

#世界一性格の悪い男


▼毒島刑事最後の事件 / 中山七里(Kindle版)

以前レビューした中山七里「作家刑事毒島」前日譚
検挙率No.1だけど、性格に著しく難のある刑事・毒島が、作家に転身す
る直前、最後に扱った事件に関するエピソード。

超の付く「皮肉屋」である毒島だが、刑事時代もソレは全く変わらず。
被疑者を追い詰め、最速で自供を取ってしまうテクニックは読んでいる
だけで薄ら寒くなるくらい恐ろしい話術であることが解る。

おもしろいのは、刑事時代には若干の【正義感】が垣間見えること。
本当に起こったら問題になりそうなラストも、毒島なりの正義感が見え
隠れするため、それなりに共感度が高い。

そして今回の被疑者全員に共通するワードが『勘違い』(^^;)。
いわゆる「オレはまだ本気出してないだけ」の典型のような人たちが多
々登場するのがおもしろい。ただし、自分に置き換えるのは避けました。
そうすると情けなくて死にたくなってくる(^^;)ので。

・・・やっぱり孤高の存在なんだなぁ、毒島さん(^^;)。
絶対に友だち居ないよ、この人(^^;)。

証言初代タイガーマスク

#黄金の虎


▼証言初代タイガーマスク 40年目の真実 / V.A

お馴染みの宝島「証言」シリーズ
なんだかんだで証言シリーズは全て読んじゃっているのだが、今回の題
材は他で散々いじくり回された感のある“初代タイガーマスク”。宝島が
コレをどう処理するか、注目していたのだけど・・・。

証言者は佐山聡本人の他に、高田延彦、藤原喜明、新間寿、グラン浜田、
藤波辰爾、山崎一夫、藤原敏男、佐山聖斗8人。いわゆる「佐山本」
の常連は藤原・新間・山崎の3名くらいで、高田、浜田、そして藤波の
語る佐山の話は非常に新鮮。特に自分で「佐山に喰われた」と語る藤波
の談話は、実に興味深い「証言」となっているように思う。

惜しむらくは、各人の語る内容がやはり【新日本プロレス】の時代に偏
っていること。第一次UWF修斗UFOあたりの佐山についての証言が
もう少しあれば、証言シリーズ屈指の傑作になったかもしれない。

現在、健康状態がけして良くなさそうな佐山聡だが、やって欲しいこと
がまだまだある。プロレス・格闘技史上最高の『天才』は、絶対に長生
きしなければならないし、もう一度リングに立つ必要もあると思う。

タイガーマスクに人生を変えられた人は、たくさん居るんですよ、ええ。